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第七話    テクシー

 道彦は歩くのを常としている。ジョギングなどと世間でもてはやされるその手の行動ではなかった。飽くまでも手段として・・なのである。長閑のどかに辺りを散策していると、なぜか気分が落ちつくのだ。無心でゆったりと流れる風景をながめていると心地よくなる。その感覚を大いに気に入っていた。世の中への迎合で運転免許も取ったが、使わないのに更新料や写真代が無駄に思え、二十五年ばかり前に返上した。自分ではタクシーの運転手気分でテクテクと歩いている。だから、家を出るときはテクシーを始動します・・と、心に言い聞かせるのが常だった。テクシーで家を出て、駅に着く。少し離れた会社への通勤は、もっぱらこの手である。休日は当然、テクシーで、あちらこちらとブラリ旅を決め込む。腹が空けばテクシーを駐車場へパーキングした気分で止め、適当な店へ入るのだ。自分は運転手気分なのだからお客さんが乗る可能性もあったが、道彦はそう気に留めていなかった。そんなことがある訳がない・・と深層心理が働いていたからに違いない。ところがある日、異変が起こった。その日は会社の休日で、道彦はいつものように適当な額を財布へ詰め込み、テクシーを始動した。

 長閑な小春日和で、寒からず暑からずの快適さである。

「あっ! すみません! 麻布十番までお願いします!」

 急に後ろから声がかかり、道彦はギクッ! と振り返って止まった。一人の笑顔の中年男が立っていた。

「? …」

 道彦は首をかしげた。

「だって、空車なんでしょ?」

「ええ、まあ…」

 道彦は心を見透かされているようで、薄気味悪くなった。

「じゃあ、お願いします」

「分かりました…」

 一列縦隊で歩くテクシーが始発した。

「いい天気ですね。もう長いんですか? このお仕事」

「ええ…。もう、かれこれ二十五年やってます」

「と、いえば、大ベテランじゃないですか」

「ははは、まあ…」

 二人はしばらく、歩いた。やがて麻布十番へ近づいてきた。

「お客さん、どこで降りられます?」

「ああ、その辺で結構です」

 中年男は前方に近づく信号を指さした。

「ありがとうございました! お金は結構ですよ。うちのテクシーはお足がいりません」

「歩いてますから、お足がいらない…上手い!」

 信号の前で二人は止まった。

「それじゃ、お元気で!」

 中年男は笑顔でそう言った。二人は信号で二手に別れた。そのとき道彦は異変に気づいた。道彦は制帽を被り、タクシー運転手の服装で歩く自分の姿に気づいた。


                  第七話 完

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