第六十九話 怪談とうもろこし
寝ても覚めても、とうもろこししか食べない畑田という男がいた。この男、生まれながらの天然で、馬鹿や阿呆というのではないが、発想が実に風変わりだった。畑田が育った時代はまだ、学校給食がない時代で、彼が生まれたのは終戦直後だった。幸いにも畑田の家は農家で、食うものにはかろうじて不自由しなかったが、彼は天然だからか、寝ても覚めても、とうもろこしを食べていた。食糧難の時代だったから、取り分けて変人扱いされず畑田は成長していった。
畑田が妙な男だ…と思われるようになったのは、日本がようやく戦後の混乱期を乗り越え、発展期にさしかかった昭和30年代末期だった。畑田は高校生になっていた。昼休みである。各自、弁当持参で好き勝手に食べていた。畑田はどこへも出ず、教室の自席で、黙々ととうもろこしを齧り、水筒の茶を飲んでいた。そこへ、同級生の黒川と金村が校庭で弁当を食べ終え、戻ってきた。
「おい! あいつ、またとうもろこし食ってるぞ!」
黒川が金村に廊下で囁いた。
「放っとけよ。畑田はアレしか食わねえんだから…」
「ああ…」
二人は見て見ぬ振りをして教室へ入り席に着いた。すでに午後の授業が近づいていた。畑田は食べ終えると、とうもろこしの食べ終えて残った茎を両手で仰ぎ上げ、深々と一礼した。
「おい! あいつ、なにしてんだ? 気味悪いな」
「ああ…いつも、ああだ。他の奴も同じこと思ってるはずだぜ」
離れた席から黒川と金村が囁き合っている。そこへ、ぞろぞろと他の生徒が教室へ戻っていた。全員が畑田のことを異様な目で見ていることに疑う余地はなかった。黒川と金村同様、彼を避けて教室外で昼食を済ます…という習慣がいつの間にか、このクラスに根づいていたのである。
そして、奇妙なことが起こったのは一学期も残り少なくなった梅雨明けの暑い日だった。いつものように昼食を外で食べ終えたクラスの全員が教室へ戻ってきたときだった。畑田の姿は忽然と消えていた。
「は、畑田が消えた!!」
彼の席には彼が食べ終えたと思われるとうもろこしの茎が数本、机上に乗っていた。
それ以降、畑田の消息は不明のままである。不思議なことに、畑田の家では彼が消えてからというもの、とうもろこしが一本も採れなくなったということである。
完




