第六十八話 風流人
最近、この辺りも風情がなくなったな…と石山は思った。風流人の石山としては、この上なく始末が悪い。以前は長閑な川や緑が住まいの周りを取り囲み、花や野鳥、そして虫達が賑やかに石山を慰めてくれていたのだ。それがどうしたことか、今は見る影もなくなり、風情どころの話ではなくなった。日々、車が喧しく飛び交い、騒音は絶えることなく、静けさや情緒さえも途絶えてしまった。音だけならまだしも、目に飛び込む肝心の景色さえビル群に遮られ、あの大らかな山の景色も拝めなくなったのだ。風流人の石山としては、これはもう、怒り心頭に発する…というやつである。
「ここは駄目だな。引っ越すかっ!」
ため息混じりに石山はポツリと呟いた。いつまで見ていても仕方ない…と、石山は外を眺めるのをやめ、茶の間のテレビをつけた。と、その瞬間である。
『た、ただ今、局の前にた、竜巻が発生した模様ですっ!』
映像は乱れ、臨時ニュースを流す局アナウンサーの慌てた声が聞こえた。スタジオ内は騒然としていた。そのテレビ局は石山の家から数キロ離れた所にあった。そんな馬鹿な! と石山は思い、急いで立ち上がると窓際へ再度、近づいた。だが、景色はやはり先ほどと変わらず、長閑なのである。テレビ報道が正しければ、この上空も曇っているだろうし、少なからず荒れた天候になっているはずである。その兆候が微塵も感じられないのである。石山は玄関を慌てて駆け出ると、家の周りを見回した。だが、やはり天候の具合はよく、陽の光が燦々(さんさん)と石山に降り注いだ。石山は急いで家の中へ入り、テレビ画面に見入った。そこに映っていた映像は、竜巻が荒々しく辺りの家の屋根を吹き上げて渦巻く様子だった。空はどす黒く濁り、竜巻の渦は大きく蛇行しながら進んでいた。驚くことに、その映像は石山の知っている場所で、かなり近かった。
「ええっ~~!」
もう、どちらを信じたらいいんだ…と、石山は思った。現に風流人の石山の家からは長閑な快晴の空が広がっているのである。だが、テレビ映像はどす黒い灰色の空なのだ。これは、どう考えても矛盾しているぞ…と石山は思った。
次の日の朝刊で事実が判明した。石山の体内から放出された風流オーラが石山の家から半径1キロ圏をドーム状に包み込み、竜巻の害から守っていたのだった。未だに、石山の風流オーラは科学で解明されていない。石山は今日も長閑に茶を点てて啜り、満開の桜を愛でながら桜餅を頬張っている。
完




