第六十六話 討論会
テレビ局のスタジオで討論会が行われている。
「あなたは、そう言いますがね! 男が欲情をなくせば、人類は減少して滅亡ですよっ!」
評論家の川倉一郎が少し興奮ぎみに言った。
「それは浮気を正当化する男性の詭弁でしかないでしょ!!」
作家の牧城里子がリターンエースのような剛速球で返した。
「男女は生理的に違うんです! あんたは欲求不満なんだ!」
川倉が意固地になった。
「なんですって!! 失礼な!」
「まあまあ…」
司会者の天山は川倉と牧城の激論に割って入り、宥めた。
この夜、開かれた討論会は、[男女の生理的機能の違いについて]という論題である。政治家、作家、評論家などから選ばれた男女が各10人ずつ左右に陣取り、スタジオへ集結していた。最初のうちは双方とも自重し、討論会は無難に推移していたのだ。ことの発端は川倉が冗談半分に言ったひと言だった。談義はそれ以降、揺れ始めたのである。
「その話題はさておき、川倉さんは男性として、いい人生を過ごされてますか?」
天山は意味深にニヤリ! と小笑いし、話を変えた。司会者としては上手い冷却法である。
「えっ?! そりゃ、まあ…」
川倉は冷やされて言葉を濁した。一分前とは態度が豹変していた。牧城も俯き加減に笑った。
「牧城さんは?」
天山の矢は間髪いれず、牧城にも放たれた。
「はあ、まあ…」
羞恥心を煽られ、牧城は頬を幾らか赤らめた。
「ははは…。司会者も男性ですから川倉さんの肩を持ちたいのですが、冷静に考えますと、牧城さんのお考えも筋が通っておられます。まあ、この件は双方、ほどほどということで…」
なにが、ほどほどなのかは分からないが、結論を暈し、天山は二人の話を上手く終結させた。
「男女の生理機能の討論から確執の言い争いへ話が流れているとは思いましたが、お二人の話を聞いておりますと、少し笑えたのも事実でございます。まあ、少子化の時代ですから、欲情より子孫繁栄ということでご協力を願えれば…」
「あなたは?」
事前に名簿を見落としたのか、天山が訊ねた。
「申し遅れました! 皆さんよくご存知かとは思いますが、私、少子化担当特命副大臣を務めます外久保です!」
これ見よがしに、外久保は自分を売り込んだ。だが、スタジオ内は静寂に包まれ、冷んやりと凍りついた。彼を知る者は誰も、いなかった。
完




