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第六十一話 ぶらぶらと…

 奥津は買物 かごを下げ、少し不思議に思えていた。 

「なんだ? ぶらぶらと…」

 最近は買物籠も持たずに買うでもなくぶらぶらとうろつく人が目立っていた。別にスーパーで籠を持たないと歩いてはいけない! という決まりはない。それに、冷静に考えれば、ぶらつくこと自体、違法でもなんでもないのだ。奥津は意識している自分が嫌になった。食品陳列棚にはいろいろな惣菜が並んでいた。

「あんた! ちょっと、邪魔なんだよっ!」

 突然、奥津の右を前へ歩きながら物色していた中年男が声を荒げた。奥津が視線を右へ向けると、逆方向から流れてきた老人が陳列棚の前で停止してたたずんでいた。老人は言い返すだろう…と奥津は見守ったが、そうではなく、逆に荒げた中年男の顔を見ると、ニッ! と気味悪く笑った。

「なんだ、こいつは!」

 気味悪い奴だ…と思ったのだろう。中年男は少し下がり、老人を迂回うかいして前へ進んだ。奥津もその男に従って迂回して進んだ。

「美味そうだな…」

 そのとき、老人が小さくつぶやく声が左から聞こえ、奥津は振り返って、ふたたび立ち止まった。だったら、買やいいじゃないか…と、奥津には瞬間、思えた。だが次の瞬間、その老人の姿を見て奥津の思いは変わった。老人はり切れたボロ服を身にまとっていた。買わないんじゃなく買えねぇんだ…と思えたのだ。奥津はふたたび左前へ進みながら、少し老人が哀れに思えた。老人は、両手をボロ服に突っ込み、またぶらぶらと…左へ歩き始めた。

 国や社会は景気のいい話をしている。だが、現実の社会では違う生活の格差がある…奥津はそれを今、見た思いがした。俺は裕福とまでは言えんが、佇まずに流れて買えるんだから幸せと言わにゃならんだろう…と思いながら20円引の値札が付いた肉まんを瞬間、手にして籠へ入れた。いつもなら、見栄や体裁ていさいで値引き商品には手をつけない奥津だった。

 次の朝、ラップに包み、電子レンジで温めた肉まんを奥津が頬張ると、それは甘いあんまんだった。奥津は、あんぐりとした。

 その後、奥津はどういう訳か、ぶらぶらと…歩くようになった。別に生活に困ったからではない。他人には健康のためのジョギングだと打ってはいるが、その原因は奥津自身にもいまだ分からない。


                 完

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