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第五十八話 まあ、それでも…

 西暦2031年である。松下次郎が勤務するのは新エネルギー・産業技術総合開発機構という、実に呼び名が長い独立行政法人の内部だ。舌を噛むから? 略称はNEDOねどと呼ばれている。

 松下は最後までやる男だった。その性格は先天的に授かったものと言ってよかった。昼どきなのに彼は今日も励んでいた。とても昼の休憩時間では終わりそうにないのだが、『まあ、それでも…』という不屈の根性で続けていた。とはいえ、松下自身には意識して無理をしよう…という追われた感情はなく、ただ淡々と終わるまで続けるというものだった。

「君ねぇ~。やるのはいいんだけど、もう昼だよ? 私達はとてももたないから、先に昼食、済まさせてもらうよ」

「あっ! もう、そんな時間でしたか。どうぞどうぞ! 僕はこれをやってからにします…」

「そう? 悪いね…」

 先輩、田所と他の者は申し訳なそうに出ていった。今に始まったことではないが、すべてがすべてこの調子だったから、松下は、どちらかといえば職場では浮いた存在だった。

 昼の休憩が済み、皆が戻ってきたとき、彼は執拗しつようにまだ、続けていた。が、全員がよく見ると、松下は片手を器用にまさぐりながら見ずにサンドウィッチを口へ運んでは、もう片方でパソコンへデータを入力していた。食べることは食べていたのか…と他の者は、ホッ! と、少なからず安心した。なんか自分達が松下を食わせまいとしているように内心で思えていたからだ。一日、二日なら、そういうことは誰だってあるのだろうが、松下の場合は日常だからである。

「松下君、ご苦労さんだね…」

 田所は立場上、言葉だけはかけておこうと口を開いた。

「あっ! 帰ってらしたんですか。まだ、かかりそうなんですよ」

「ほう、そうか。…余りこんを詰めないようにね」

 田所は一応、先輩風を吹かせて、そう言った。

「ああ、有難うございます。まあ、それでも…」

 語尾をぼかして松下は食べつつキーを打ち続けた。それから、数時間が流れ夕刻の6時15分である。

「お疲れさんでした…」

 一人去り、二人去り…、松下もいつものように一応、職場を出たがUターンしてまた職場近くにある行きつけの喫茶店へ舞い戻った。何のために? もちろん、やり残した仕事を続けるためである。まあ、それでも…やってしまおう! と決めた彼の意思であり、断じて時間外勤務ではなかった。

 数年後、松下はその仕事をやり終えた。ついに人類の未来を開く究極の新エネルギー理論を、彼は完成させたのである。


                  完

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