表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/100

第五十四話 高級レストラン

 高級レストラン嫌いの白餅しらもちが、久しぶりに高級レストランへ入った。彼が高級レストラン嫌いなのには訳がある。最初、入ったときの感じが彼には馴染なじまなかったのだ。以降、そのことが白餅のトラウマになっていた。

 白餅が初めて入った高級レストラン当時へ話はさかのぼる。ミシュランの三ッ星レストランの店内である。

「こちらでございます…」

「あっ! どうも…」

 楚々としたウエイターに誘導され、予約席へ白餅は腰を下ろした。白餅自体が予約したのではなく、大学時代の先輩、甘酒あまざけからの招待である。高級官僚の甘酒は外務省の審議官だ。人生の悪戯いたずらからか、出世コースでは甘酒と雲泥の差がついてしまったが、白餅は別に気にしていない。ただ、自分にこの場所は不似合い…とだけは感じられた。そんなこともあり、白餅は緊張感からか氷の彫刻のようにジッ! と、時折り目だけを左右上下に動かしながらテーブル椅子に座っていた。

「あの…さきほど甘酒様からご連絡がございまして、生憎あいにく、急用で来店出来ぬとのことでございました。これが、メールのコピーでございます…」

 相変わらず楚々とした態度で、顔色ひとつ変えず、ウエイターは白餅が座るテーブルの隅へ折り畳まれた小さな紙を一枚、置いて去った。去り方もわざとらしくなく、さりげない。さすがは三ツ星…と白餅には思えた。白餅は紙を開いた。

━ こちらから呼び出しておいて、誠に申し訳ない。機会はまた作らせてくれ。いやなに…久しぶりに会いたいと思っただけだ。気にせんでもらいたい。支払いは済んでいるから、ゆっくり食べて帰ってくれればいい。また、連絡させてもらう 甘酒 ━

 読んだ白餅は、これは弱ったことになった…と瞬間、思った。高級料理のマナーなど、まったくと言っていいほど知らなかったからだ。フォークは左手、ナイフは右手に、外から取る・・ぐらいは知っている白餅だったが、さてどうしたものか…と思いあぐねた。テーブル上には、セッティングされた食器類がゴチャゴチャと、これ見よがしに置かれている。まあ、男は度胸! と白餅は覚悟を決めたとき、一端、下がったウエイターがトレーに乗せた料理を片手に現れた。態度は、やはり楚々としている。料理がテーブルに置かれた。

「あっ! どうも!!」

 白餅は思わず貧乏性からか、ウエイターにお辞儀した。ウエイターは少し微笑んだ。前菜が済み、スープも無事、済んだ。食事は事もなく、進んでいきそうだった。

「舌平目のムニエルに黄トマトのジャムと柚子ゆずの香りを閉じ込めた水牛のモッツァレアをアンサンブルにしたものでございます…」

 魚介仕立てのメインディッシュが置かれた。『はあ?』と内心では意味が分からなかった白餅だが、外面そとづらは、ああ、そう…とばかりに知ったかぶりをしてうなずいた。このとき、白餅の心には、一つの別の疑問が芽生えていた。大皿の割に料理が小さい…と。確かに皿中央に申し訳ない程度に小さく盛りつけられた料理だ。これでは、食べた気がしない。

「あの…これは、おわりできるんですか?」

 白餅は思わずたずねていた。

「はあ?」

 妙な客だ? とばかりの怪訝けげんうつろな表情をウエイターはした。

「申し訳ございません。これだけのものでございます…」

 ウエイターはお辞儀をすると、そそくさと去った。これだけのものか…と、白餅はガックリした。白餅は腹が減っていた。瞬間、脳裡に大きな肉まんが頭に浮かんだ。それ以来、高級レストランは白餅のトラウマになっていた。

 今日、白餅は相変わらず、氷のように動かず椅子へ座り、レストランで甘酒を待っている。そのとき、白餅の前の食器類がにぎやかに踊りだしたのである。白壁は目をこすったが、やはり食器類は踊っていた。青ざめた白餅は、席を立つと駆けだした。

「あっ! お客さまっ!!」

 店を出た白餅の足が向かったのは? 私もその行き先は知らない。


                  完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ