第五十三話 おつり
桃川は冷蔵庫を開けた。しばらく買いに出なかったせいか、中の食材は、ほとんど尽きていた。気づいた以上は仕方がない。買い出しに出るか…と半ば思いながら、桃川は外出をした。一歩外へ出たのはいいが、アレとコレ! と買う品を決めている訳ではない。まあ、中で選んでもいいか…と桃川は雑念を切り捨て、スーパーへの道を急いだ。
俄かの寒の戻りは予想外で、背筋がゾクッ! と冷え、桃川はレザーの襟を立てた。
桃川が常連とするスーパーは殊の他、混んでいた。桃川は人波に紛れ、適当に買物をしてレジへ向かった。レジには、最近よく見る可愛い女子店員がいた。別に意識してではなかったが、列の空き具合でそこへ並んだ。
店のマニュアルなのか、女性店員はまず、「袋はお持ちですか?」と訊ねた。桃川は「あります」と、すぐ返した。続いて女子店員は「カードはお持ちですか?」ときた。うっかりカードを出していないことに気づき、桃川は慌てて財布からカードを出し、手渡した。カードを受け取った女子店員は手を動かし始めた。バーコードリーダーが次々とカートの中の品を読み取っていく。日本は親切だ…と桃川は思った。。海外で暮しているときは自分で支払っていたからだ。
すべての読み取りを終えると、女子店員は合計金額を告げた。崩しておきたい…というメンタル面の気分もあり、桃川は財布から万 札を出した。笑顔で「大きいですが…」と恐縮して置くと、女子店員は軽く流し、機械の中へ札を入れた。そして、千円札を出し、おつりを桃川の目前で「1、2、3、4、5、6、7…」と数え始めた。おい! 一枚ずつ置けよ! と少し怒れた桃川だったが、これもまあ、店のマニュアルなんだろう…と軽く忍んで受け流した。千円札でのおつりは、五千円札が不足気味のためらしい…と桃川には思えた。だがどうも、千円札を声を立てられて、これ見よがしに数えられるのは、いい気分のものではない。これなら、無言で自分が数え、「間違いはないと思いますが、ご確認ください」の方がいいのではないか…と桃川には思えた。こうすれぱ、お客の心象風景もよくなるはずだ…と。他にも、外国のようにセルフレジを何箇所か置いてもいい。あるいは、無人状態のレジはセルフ対応へ切り替えられるレジ変換システムを開発してもいいように思えた。
帰り道、札と硬貨で分厚くなったボケットの財布は、桃川の貧乏症のせいか、少し気分がよかった。
『分厚くなりましたね?』
「んっ?」
桃川は辺りを見回したが、寒風がヒュ~と吹き抜けるだけで誰もいない。おつりは財布の中でニヤリと笑いながら桃川を慰めた。
完




