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第五十一話 貢[みつ]ぐ謎

 下坂は平凡に勤める一サラリーマンだった。今年、久しぶりの定期昇給が復活し、ほんの少しだが、数千円程度、基本給が上ったのだ。今夜はそのベースアップを祝して、同僚と花見の飲み会へ繰り出し、日頃の憂さを晴らす下坂だった。見上げれば桜花が咲き乱れ、ライトアップされたその美しさは、ほろ酔いも手伝ってか、なんとも気分がよかった。樹々の間の雪洞ぼんぼり橙色だいだいいろも、ほどよく情緒をたかぶらせる。

「下坂、お前なっ! …数千円ぐらい当然なんだぞっ! 会社に俺達ゃ、どれだけみついでると思ってんだっ! 労働力だけでも半端な額じゃない!」

「そうそう、室淵が言う通りさ。…昨日、こいつが取った契約だって2億…」

「7千万! …」

 下坂と室淵の会話へ割って入った田山だったが、酔いに押されて額を忘れ、結局、室淵に救助された。

「まあまあ…。今夜はそういう話は抜きだっ!」

「ははは…、そうそう、花見だ、花見!」

 めて落ちかけたテンションを、下坂は作り笑顔で高めた。二人もうなずいて、注がれたビールを口へ運んだ。

「よ~く考えりゃ、俺達の会社も貢いでんだよなぁ~~」

 田山が桜を見上げながら愚痴った。

「どういうことだ? 田山」

 下坂が赤ら顔でたずねる。

「親会社さ…」

 田山はで、言い切った。また三人は冷え始めた。

「ははは…また、お前は! 花見だ、花見! まあ、飲めっ!」

「ああ…」

 田山は下坂になぐさめられた。暖かい微風にライトアップされた桜花が揺れる。三人はいい具合に酔いが回っている。多くの夜桜見物客が等間隔で少しの距離を置いて陣取り、それぞれにぎやかにやっている。

「いづれにしろ、少し会社が上向いてよかったなっ!」

「それは、そうだ…」

 三人は顔を見合わせ、笑顔で乾杯した。

「はは、ははは…ははは…」

「どうした、田山? お前、笑い上戸じょうごだったか?」

「いやいや。だってさ。うちの親会社も国に貢ぐんだぜ! 貢がないと脱税だからな」

「おお! そうだ。法人税…国へな、国へ。ははは…」

 下坂はコップを置いて腕組みをした。そのとき、三人の脳裡をかすめたのは、『それじゃ、国は?』という貢ぐ謎だった。分からぬまま、小一時間、三人は適当に楽しみ、明日、同じ場で花見をする後輩の舟川と交代してその場をあとにした。舟川は寝袋で寝て、夕方まで、ここで場所取りをする訳だ。

 フラフラと地下鉄へと三人は向かっていた。国が貢ぐ先が虚飾に満ちた繁栄を続ける文明国、日本そのものだとおぼろげに気づいたとき、すっかり三人の酔いは醒めていた。


                  完

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