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第四十五話 天下の回りもの

 リストラで働き場を失った釣海は、ハローワークの失業保険金でどうにか月々の生活をしのいでいた。そして、今日もハローワーク通いである。最初のうちはよかったが、半年もすると係の堀田は釣海を見るたびに嫌な顔をするようになっていた。

「少し高望みなんじゃないですか? 釣海さん。この辺りのランクで手を打たれた方がいいんじゃないでしょうか…」

「ええ、それはまあ、そうなんでしょうが…。今一つ、私にはしっくりしないんですよ」

「まあ、お電話しておきますから一度、行ってみて下さい。私も上から言われるんで…」

 堀田は後ろに座る上役席をチラ見し、頼み顔で軽く頭を下げた。

「分かりました。じゃあ、とりあえず行ってはみます」

 [行ってみます]とは言わず、[行ってはみます]と、[は]を入れたのが釣海の味噌である。一応、あなたの顔は立てましょう・・という上手投げの言いようだから本末転倒で、どちらが係員なのか分からない。実は堀田は釣海の近所で顔なじみだった。子だくさんで平職員の堀田の生活も、なかなかどうして、自分と変わらず大変なように釣海には見えた。だから、出世して金を少しでも家計へ…という気持も分からないではなかった。ともかく、そんなことで、釣海は堀田が紹介した潮路 干物ひもの産業へ行くことを了解した。

 潮路干物産業は割合、分かりやすい海岸伝いにあった。外見はどう見ても漁村の一軒家だった。

「うちは家内規模でやってますんで、そう多くはお出しできませんよ」

「やはり、そうですか…」

「どこへ行かれても、ご希望の額を出すところは…」

 ねぇ、あんたもその辺は分かるでしょ? という顔を潮路はした。

「はあ…」

「まあ、この額でよろしければ、いつからでも来て下さい。お待ちしてます」

 案の定、希望した額はもらえそうになく、釣海は、ご返事はハローワークから…とぼかし、潮路干物産業をあとにした。帰る途中、釣海は携帯で堀田を呼び出し、かくかくしかじか…と伝えた。

『やはり、駄目でしたか。まあ、仕方ないですね。一応、私の顔も立ちましたし…』

 堀田の声は最後の方が聞こえないほど小さくなった。

『えっ?! はあ。まあ、そういうことで…』

 語尾を濁して携帯を切るのが、いつの間にか釣海の常套じょうとう手段になっていた。

 ハローワークへ行く日がまた巡り、釣海はハローワークの通用門をくぐろうとした。そのとき、ふと後ろから釣海は声をかけられた。

「ははは…また、お見かけしましたね。私も失業中でして…」

 釣海が振り返ると白髭しろひげの初老の男が笑って立っていた。釣海にはまったく面識がなく、見た覚えもなかった。こんな男…いたかな? と、釣海はいぶかしげに軽く頭を下げた。

「我々にはなかなか回りませんな、金は。天下の回りものといいますが…」

「はあ…」

「そのうち、あなたには回るでしょうが。ははは…」

 二人は一緒に自動ドアを入った。

「釣海さん!!」

 堀田が渋顔で釣海を呼んだ。上司の手前、内心とは別の作り顔である。釣海はレギュラー席のように馴れた所作で堀田に対峙たいじして座った。

「あのう…あの方も失業中なんですか?」

 釣海は小声で堀田にたずねた。

「えっ?! どなたです?」

 堀田は辺りを見回した。釣海も見回したが、一緒に入ったはずの男の姿は忽然こつぜんと消えていた。

「あれっ? おかしいなぁ~…」

 そんなことがあり、相変わらず釣海はハローワークへ通っていたが、その日は振り込みの日だった。釣海は引きだしたあとの通帳と現金を確認して唖然あぜんとした。通帳残高は1億を超えていた。


                 完

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