第三十五話 宝船
『まあ、人間達のやることですから、許してやってくださいな』
『ははは…、さすがは紅一点! 弁天さまの仰せは実にすばらしい!』
『あら、いやですわ、寿老人さまったら。ほほほ…』
棚引く雲の宝船に乗られた七福神さまの会話が続いております。ことの発端は、人間達の余りの横暴ぶりに業を煮やされた毘沙門さまがお怒りになり、言われたひと言が発端でございました。
『いや、私も少し我を失ったようですな、ははは…。しかし、このままでは、いづれこの国も、いや世界は破滅するでしょう』
『まあまあ毘沙門さま。そう深刻に物事をお考えにならずに…。少し黄金を降らせ過ぎた私の責任でもありますから…』
毘沙門さまを宥められながら反省されておられる福禄寿さまを尻眼に、虚空へ釣り糸を垂れておられるのは恵比寿さまでございます。
『今日は、いい鯛話が釣れませんなあ…。二日前なんか、大鯛の福話が釣れましたのに。ほっほっほっ…』
恵比寿さまも皆さまのお話にご参加されました。皆さまと少し離れた船べりでは、布袋さまと大黒さまが何やら話しておいでになります。
『日の本も少し豊かになり過ぎましたかな。人間達が浮かれ過ぎておりますが…』
大黒さまは、そう仰せになり、深いため息をおつきになりました。
『ほほほ…、まあまあ大黒さま。人間ですからな、それは仕方ありません。しかし、人間というのは、貧しいときの方が実に生き生きとして優しいですなぁ~』
弁天さまと同じようなことを、布袋さまが仰せになりました。
その頃、下界では、余りの天気のよさに、一人の男が、じっと天を仰いでおりました。この男、感心なことに国に貢献する陰の立役者でありながら社会からは見離され、一人、侘びしい人生を送っていたのでございます。それでも、めげず、日々、活躍しておりました。
「天気はいいが、私には地位、金、名誉、なにもない! まあ、あるのは健康くらいか。ははは…」
その男の小声が、ふと寿老人さまの耳に届いたのでございます。
『そうそう。それがなによりですじゃ、ほっほっほっ…。おっ! この男、なかなか感心な男ですぞ!』
寿老人さまは天眼鏡をその男に向けられそう仰せになりますと、右手にお持ちの杖を虚空へ向け、ひと振りされました。虚空にはたちまち、一陣の風が舞い起こり、その男へ一直線に降下しました。そして、男の体内へスゥ~っと吸いこまれたのでございます。
『ですなぁ…』
寿老人さまの言葉をお聞きになり、福禄寿さまも頷かれたのでございます。そして、片手を広げられますと、その男に向け、軽くお動かしになられたのでございます。
『どうです、皆さま方も!』
寿老人さまは他の神さま方を見回され、そう言われました。他の神さま方も頷かれ、それぞれがその男めがけて手をお動かしになりました。
「? 体がなんか軽くなったぞ! …それに、なんだ、これは!!」
その男の家の庭には、純金の小判が天空より雨よ霰と降り注いだのでございます。
それ以降、さまざまな幸せが男の周辺に訪れ、長寿を全うしたと聞いております。家の屋根には、その男が亡くなる寸前まで、人の目には見えない宝船が留まっていたそうにございます。
完




