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第二十話   嘘[うそ] 

 快晴のある日、石崎は欠伸あくびをしながら何げなく空を見上げた。快晴なのだから当然、雲一つない青空が広がるだけである。だがそのとき、空の一角からにわかに人の腕が現れた。UFOならよくありそうな話で納得もいく。だが、石崎の目に見えたのは明らかに人の第二関節までの片腕だった。しかもその巨大さといえば半端ではない。外観からすれば、どうも男の手のように石崎には思えた。だが、常識では完全にあり得ない事象なのだから、目の異常か…と瞬間、石崎は眼科へ行こう…と思った。目をこすったが、いっこうにその巨大な腕は消えそうになかった。しばらくすると、その腕はゆっくりと動き始めた。それはあたかも水の中へ入れられた腕が水をかき回す動きに似ていた。要は、石崎が水中で見ている構図なのである。そんな腕が見えること自体、すでに異常なのだが、現に石崎の目に見えているのだから否定しようもない。石崎は視線を落とし地上の風景を見た。無視シカトすれば、消えるんじゃないか…と単純な発想で思ったのである。そうこうして、しばらく庭の剪定作業をやっていた。

「あなた~、お昼よ!」

 妻の智子さとこが石崎を呼んだ。

「ああ!」

 石崎は剪定をやめ、空返事からへんじの声を出した。腕時計をながめ、そんな時間か・・と思った。空の腕のことはすっかり忘れてしまっていた。

「さっき、腕が空にあった…」

 食事の途中、石崎はふと、さっきの妙な出来事を思い出し、口にした。

「えっ?!」

 智子は、この人、大丈夫かしら? という怪訝けげん眼差まなざしで石崎を見た。

「嘘じゃないよ。本当に腕が空に…」

「疲れてるのよ、あなた。少し横になった方がいいわ…」

 智子は完全に疑っている…と、石崎には思えた。だが、これ以上、嘘じゃない! とは言えず、「ああ…」と素直にうなずいて、石崎は食事を済ませた。

 食事が済み、立ち上がった石崎はガラス戸越しに見える庭をおもむろながめた。そして、少しの恐怖感を秘めながら徐々に視線を空の方へ上げていった。空にはやはりグルグルと手首でかき回す腕があった。

「おい! あれ!!」

 石崎は思わず智子へ声を投げていた。

「なに?」

 洗面台で食器を洗っていた智子が振り向いた。石崎は空に浮かぶ腕を指さした。

「えっ? なに? なによぉ~」

 智子は洗い物の手を止め、石崎に近づくと石崎が指さす空を見た。

「嘘!!」

 智子にも巨大な腕が見えたのである。二人は出会う人すべてにその話をした。しかし誰もが、その科学では到底、説明できない事象を嘘だと断言した。これ以上は世間に変人と思われる恐れがある…と、二人は思った。真実は、この世では嘘…。

 それ以降、二人はその話を人前で話さなくなった。


                       完

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