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第十八話  並[なみ]

 うなぎ専門の老舗しにせ高級料亭、ちまきの店内である。

「いやぁ~、ここのはねぇ…」

 それ以上は言わず、末川はなんともいえぬ美味そうな笑顔で中山に微笑ほほえんだ。末川がそう言うのももっともで、この店の格付けは他店を完全に凌駕りょうがしていた。レストランなら三ツ星クラス以上の店として全国的な客を集め、連日、湧き返っていた。当然ながらその来店は予約制で、立ち寄り客はお断りの店だった。末川と中山は、時折りこの店へ行きたいと話していたが、話が煮詰まってようやく予約が取れたのだった。距離的には日帰りで行けず、二人は旅行気分でホテルを予約し、出かけたのである。

「ここの白焼きは食べてみたかったんで、楽しみなんですよ」

「ははは…君は食通だからな」

「そう言う末川さんだって、かなり魯山人ろさんじん風じゃないですか」

 魯山人とはあの食通の魯山人のことを語っているのは疑う余地がなかった。二人は鰻のフルコースを予約していた。ネタを仕入れる関係からか、粽ではオーダー内容も来店予約の際に言うシステムが採られていた。

「ここのなみって、他の店ならどうなんでしょう?」

 訳の分からないことを朴訥ぼくとつに中山がたずねた。

「ここの並? この店で並ってあったかな? すべてが一品って感じなんだけどね」

「それは、そうなんですが、例え…例えですよ」

「一番、低価格の鰻丼で、他店の超特上!!」

 末川は自信ありげに返した。中山は来店経験がなかったが、末川は過去一度、外務省の先輩に連れられ、来店したことがあった。そのときは鰻重だったが、その味が忘れられないでいた。というのは、その後すぐ、この地方へ異動したからである。

 二人か鰻談義に花を咲かせていると、そこへ和服の女店員が鰻を運んできた。まずは白焼きである。そこへ銚子が二本、添えられていた。二人は適当に飲み食いを続けた。呼んでいた綺麗どころも数人、加わり、三味線に踊りが始まった。急に小部屋が華やいだ。

「まあ、並? よりは上か? …だな」

 少し赤ら顔になった末川が話すでなくニタリとしてつぶやいた。

「はあ?」

 中山は意味が分からずいぶかしげに末川の顔を見た。末川は杯の酒を飲み干して、踊る綺麗どころを小さく指さした。そして、その指先を白焼きの乗った膳へと下ろした。

「これは並な訳がない。超特上!」

 中山はその意味は解せたのか、ニンマリとうなずいて白焼きを美味そうに頬張った。


                  完

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