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第十七話  人間OFF

 鴨田洋二は家の書棚かららなくなった本を選んで抜き出していた。というのは、少し俄かの入り用で螻蛄オケラになったから、古本買取店へ行って本を売り、少し金を得ようという腹づもりなのだ。そう高くは売れないだろう…とは思えたが、それでも少しの足しにはなるだろうと思ってのことだった。

 小一時間後、適当な本が十冊ばかり選び出された。鴨田はそれを手提げの紙袋に入れると、何食わぬ顔で店を出た。過去にも一度、行った店だったから、そう緊張感はなかった。

 鴨田は店へ入ると、袋ごと受付へ置いた。店員は若い男だった。鴨田は売りたい旨を店員に言った。店員はうなずくと、袋から本を取り出し、査定し始めた。

『ミステリー・サスペンスが2点、歴史・時代小説が3点、あとは普通の小説が外国も含めて5点ですね…』

 店員も一度、見た顔だ…と鴨田を思ったのか、馴れた口で話し出した。鴨田は黙って首を縦に振った。しばらく値踏みをした店員は電卓を二度、たたいて確認した。

『結構、いい値が入ってますね。合わせて一万二千五百円です。明細を言いましょうか?』

『いや、いいです…』

 鴨田は店を出て数分したところで財布をポケットから取り出し、手に入れた金を確認した。そして、思ったより多かったな…と少し得した気分にひたった。というのも、二束三文の本だろうから、首尾よくいって数千円だろう…と自分の値踏みをしていたからだ。まあ、これで家賃を支払ってからになった自分の金がふたたぴ復活したから、年は越せる…と思えた。アルバイトの金が振り込まれるのは五日後だった。そう贅沢ぜいたくは出来ないが、普通に使えば一万二千五百円で五日はいけるだろう…と鴨田は思った。

 歳末の舗道をニンマリした顔で歩きながら、少し正月らしいものを買おうか…と、鴨田はリッチ気分になった。鴨田がしばらく歩いていると、知らない店が出来ていた。一週間前には確か、なかったが…とは思えたが、まあ、新しい店が出来ることは、よくあるな…と、鴨田は店の前で立ち尽くした。不思議なことに、繁華街で今まで自分の周りを歩いた人の姿が消えていた。店名を見れば、━ 人間OFF ━ と書かれていた。ふ~ん…と、鴨田はそれほど気に留めず、好奇心で店へ足を踏み入れた。

『いらっしゃいませ! お売りですか!!』

 偉く客当たりがいい店だな…と瞬間、鴨田は思った。

『いや、ちょっと入っただけなんですが…』

 すると、年老いた店員は鴨田を注視しながら電卓を叩き始めた。

『お客さんですと…この値ですね』

『えっ?』

 鴨田は受付へ近づき、その老店員が差し出した電卓の数字を見た。電卓は、8700の文字を蒼白く浮かび上がらせていた。

『いろいろ、いらっしゃいますが、お客さんだと、この売り値ですかね』

 老店員はニタリと笑ったあと、鋭い眼光で鴨田をにらんだ。鴨田は急に恐ろしくなり、店を出ようと出口へ向かおうとした。だが、足は金縛りをかけられたように動かなかった。鴨田のひたいに冷や汗が流れた。

「パパ、ママがお夕食だって!」

 鴨田は肩を揺すられて目覚めた。目の前には娘の麻奈がいた。選んで売ったはずの本がフロアの下に置かれたままになっていた。どうも眠ってしまったようだ…と、鴨田はホッと安堵あんどした。

 家族三人での賑やかな大晦日の食事が始まった。なにげなく置かれたテーブルの上の電卓が8700の蒼白い文字を浮かび上らせていた。


                 完

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