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第十六話  二講山[にこうさん]神社の怪

 弘前ひろさきは山歩きで疲れていた。二講山にこうさんの峠を越えればなんとかなるだろう…と歩き始めたのだが、すでに小一時間が経過していた。だが、いっこう峠には出られず、益々、木々が生い茂る山深い奥地へ引きこまれようとしていた。弘前が今までに登った山には見られない異様な気配だった。弘前は少し怖くなってきた。いつもは数人の山仲間と登るのだが、この日にかぎり、一人で出たくなり訪れたのだ。

「妙だな…」

 マップを確かめ、磁石で方角を探ると、間違ってはいない。かといえ日暮れが迫っていた。野宿出来る装備は万が一を考え持って出たから心配はなかったが、どうも辺りの気配が不気味で、こんな所で一夜は過ごしたくない…と弘前は歩き続けた。それでも、どんどん日は傾き、やがて夕闇が弘前の周りをおおい始めた。そんなとき、弘前の前に一人の老人の姿が遠くに見えた。どう考えても老人がこんな山深い道を歩いているはずがない…と弘前は思った。だが、どこから見ても老人である。弘前が足を速めたため、その姿は次第に近づいてきた。

「あのう…もし! ここは二講山でしょうか?」

 目と鼻の先まで老人の姿が近づいたとき、弘前はその後ろ姿に問いかけていた。老人は歩を止め、振り向いた。

「はい、確かに…。お参りですか?」

「はあ?」

 弘前は意味が分からず、問い返していた。

「ですから、御社みやしろへお参りですか? とおたずねしているのです。私はこの先で暮らしております宮司の神下部かみしもべと申します」

 弘前はそれを聞いて、すべてに合点がてんがいった。どうもこの先に神社がありそうだ…と思えたのだ。そこに住んでいるなら、老人が辺鄙へんぴな山奥を歩いていたとしても、なんの不思議もなかった。

「いや! そんな訳でもないんですが…。どうも迷い込んだようで、峠に出られないんですよ」

「そうでしたか…。こちらへは正反対ですよ。まあ、もう目と鼻の先ですから、寄っていって下さい。さ湯くらいしかお出しできませんが…」

「どうも…」

 弘前は疲れていたこともあり、素直に老人のあとに従った。

 五分ばかり歩くと、老人の足が止まった。

「ここです」

「えっ?」

 老人は片手で前方を指し示した。だが、弘前の目には木立が深々と茂るただの山地にしか見えなかった。

「よ~く、見なさい…」

 老人に、そう言われ、弘前は目をこすりながらもう一度、前方を見た。すると、不思議にもにわかにかすみ棚引たなびき、鳥居と御社が現れた。弘前は自分の目を疑った。

「では、わたくしは中でお待ち申しております…」

 老人はそう告げると、スゥ~っと消え去った。弘前は怖ろしさで、思わず疾駆していた。

「おい! 大丈夫かっ!!」

 気づいたとき、弘前は峠道に横たわっていた。どうも、疲れから眠ってしまったらしい。起こされたのは二講山を下山中の男だった。弘前は助かったと思った。さっき現れた老人は夢だったんだ…と思った。

「二講山に神社ってあります?」

「んっ? …そんなもんは、ない。さあ! 早く下りないと日が暮れるぞ」

 やぶからぼうに何をくんだ、こいつは…という顔で、その男は弘前を立たせながら言った。

 日没が迫っていた。二人が立ち去った峠道に、二講山神社のお札が一枚、落ちていた。


                  完

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