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第百話 風聞の掟[おきて]

「まさか、そんな! 常務が…」

 業務部の部長代理、北舟が驚きながら副部長の熊毛に返した。

「いや、本当らしいですよ、部長代理。どうも常務、魔が刺したというか…」

 北舟よりはいくらか情報通の熊毛は、穏やかに北舟の耳元でささやいた。

「いやぁ~、副部長。すぐには私、信じられんです。常務は身持ちの堅い方ですから」

「私だって同じですよ。まさか、あの方が…って、今でも思いますよ。彼女は社長のコレでしょ?」

 北舟は右手の小指を立てて熊毛に示した。

「らしいですね。で、いつの話です?」

「いやあ、昨日ね。秘書課の揚羽君から…。いや、彼女も風のうわさって言ってたんですがね」

「風の噂ですか…。だとすれば、専務派の工作ということも考えられます。いや、その可能性が、むしろ高いですよ、副社長を決める役員会前ですから。私達としては迂闊うかつなことは申せません」

 熊毛が北舟に釘を刺した。そこへ業務部長の小鹿が、か細く現れた。

「あなた方、どうかしましたか?」

「いやなに…。カクカクシカジカなんですよ、部長」

 熊毛は情報のあらましを小鹿に報告した。

「それは、間違いなく営業部の諜略ちょうりゃくだぞ、君!」

 歴史好きの小鹿は、か細く断定した。

「はあ、私もそうは思うんですが…。実はですね…」

 熊毛は、今にも小鹿を食べるように耳元で囁いた。

「ほう…常務が。なに? …うんうん。揚羽君から。ああ、…あの子なら知ってる。…風の噂だって? 詳しく今夜、聞いておくよ」

 熊毛が耳元で話す勢いに圧倒され、小鹿はつい本音ほんねらした。

「ええっ!」「ええっ!」

 北舟も熊毛も驚いた。まさか、揚羽が小鹿のナニとは知らなかったのだ。本人がらしたのだから、これは間違いがない。さて、そうなれば、常務の噂よりこの事実を専務派の営業部に知られることの方があやうくなる。

「部長! しばらく、揚羽には逢わんで下さい! 漏れれば、常務が不利になります!」

 熊毛が小鹿に懇願こんがんした。

「分かった…」

 これが、風聞を封じる三人のおきてとなった。だが、話は予想もしないところから漏れたのである。それは、夫の行動を不審に思った小鹿の妻が素行調査を依頼し、会社役員の婦人会で愚痴ったのだった。ところが時を同じくして、営業部長の猪田の浮気も妻の愚痴で発覚し、常務派と専務派の抗争は引き分け(イーブン)となった。

 一週間が過ぎ去り、役員会の席である。

「副社長には系列会社の岡田社長を招聘しょうへいすることにした。皆、よろしく頼む!」

 創業者である社長のひと声で、役員会は五分で終わった。専務派も常務派も、『トンビに油揚げか…』と、テンションを下げた。


                  完

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