月夜の餅つき大会!
『激戦炸裂ホビースピリット!!』はこの下スグ!!
サイトはそのままだ!!
※この物語はフィクションであり、登場する人物、地名、団体名などはすべて架空のものです。
玩具などで叩く、投げつけるなどの行為は大変危険です。
玩具の使用は用法を守り、安全な遊びを心がけましょう。
「ふむ…、五月蝿き敗北者。貴様が早くそこを退かないからそういうことになる。」
なんと洲葉徹は、力尽き床に倒れた良囲の頭を、躊躇することなく右足で踏みつけていたのである。まるで、段差を踏んで乗り越えようとするかのように。
「何するんや!! やめ…」
その行為を止めにかかる空珠! だが洲葉は1枚のトランプを人差し指と中指で挟むように持ち、それで空珠を薙ぎ払った!
「ぐぁああ!!」
まさか『ホビー魂を纏っていない生身の自分』に対し、『ホビーによる攻撃』が躊躇なく加えられる事など想定していなかったのだろう。洲葉の薙ぎ払いをまともに受け、弾き飛ばされフェンスに叩き付けられた空珠の顔が苦痛に歪む!
本来、『ホビー技』つまり『ホビー魂を纏わせたホビーによる攻撃』は、『互いに同意の上でホビー魂を纏ってホビーファイトを開始し、そのファイトの中で、相手が纏ったホビー魂を削り取るための攻撃』である。
そのホビー技を、『ホビー魂を消耗し尽くした者』や『ホビー魂を纏っていない者』に対して故意に使用することは公式ルール上禁止されている。事故や怪我を招く重篤な違反行為だ。
「空珠!? くそぉ、てんめェエエ゛!!」
生身の空珠をホビー魂を纏ったトランプで弾き飛ばす凶行を見た琉樹! 頭が沸騰し、喉を焦がして声を荒げる!
だが…
「うう!? 脚が…!?」
洲葉に向かおうとしたそのとき、琉樹は自身の身体の異変に気づいた。なんと自身の両足の脹脛のあたりまでが夥しい数のトランプにより覆われていたのである。脚を動かそうとしても微動だにしない。
「火嵐琉樹。 貴様の身体の自由…、予め設置しておいたトラップ技により、私の手中にあり。」
「はあ!? なに巫山戯たこと言ってんだ!! …くそ、こんなモノ俺のメンコで弾き飛ばして…、
―――――――ぃいっ!!?」
腰のホルダーからメンコを取り出そうとしたその時、素っ頓狂な声が琉樹の口から漏れた。
なんと、先程は脹脛の辺りまでを覆っていたトランプはさらにその数を増し、腰の辺りまでを完全に覆い尽くしていたのだ!
「これじゃメンコが…」
腰のホルダーまでもが覆われてはメンコを取り出すことも出来ない。
「貴様…、そこで見ているがいい。 これから、この私…、洲葉徹が演出する華麗、且つ美麗なる神秘のショーを…!!」
そう言うと、洲葉は良囲の頭部を踏みつけている右足に徐々に体重を移していった。より重く、良囲の頭に洲葉の右足が伸し掛かっていく!
ファイトの敗北により精根尽きた良囲の口が、苦しみの音を発する…。
「かはッ、ああ゛…!!」
響き続ける唸り声!そのとき、洲葉は突然、手に握っていた良囲の巾着袋を空珠に向かって投げた。『チャリッ』という江戸硝子が擦れあう音と共に、それは空珠の眼前に落下する。突然の出来事に困惑する琉樹と空珠。
(良囲のおはじきを返すんか?)
そういう思考が空珠の頭によぎるが、直後それを否定する。この人間が、自らの『コレクション』をやすやすと返すはずなどないのだから。
「それを投げ捨てろ…!」
良囲の頭部を踏みつけたまま、空珠に命令する洲葉。
「な、なんやてぇッ!?」
「この廃ビル…、その隣に流れる河…。ここからその河へ、その巾着袋を投げ込め。 そうすれば、この足…、醜き敗北者の頭の上から退けないこともなし。」
そう言い終わると、洲葉は良囲の頭部に乗せた足を一度持ち上げ、さらに力を込めて何度も勢い良く踏み潰し始めた!
「グボォ…!!」
尚も響き渡る、決して心地良く聞くことが許されない苦痛の旋律!
「止めるんや!!」
空珠は思わず立ち上がり叫ぶ!洲葉の命令に従わなければ、良囲がより大きな苦しみを味わうことになるのは必須!だが命令に従えば、良囲の愛用するホビーは河の中へと沈む!それも、良囲の親友である、空珠自らの手で沈めることになるのだ!
身動きの取れない琉樹に代わり、不意を突き、力づくで洲葉を退かすという考えも浮かんだが、それは不可能。空珠が愛用する『打ち独楽』は洲葉に奪われたままなのだ。手に持つ良囲のおはじきでは、普段愛用するホビーとは性質が全く異なるため、ホビー魂を込めることなど出来ないだろう。それを使って攻撃を行うなど夢のまた夢だ。当然、素手でホビーを持った相手に接近し、有効な攻撃を与えることなど出来るはずがない。
つまり、戦う術を封じられた空珠が取れる行動は、完全に二択。良囲のおはじきを河底へと沈めるか、さらなる苦しみを味わうことになる親友を、見殺しにするか…。
――どうすればいいんや…。
空珠は、洲葉を睨みつけるが全く動けない。口から歯を覗かせ、手を震わせる。顔を伝う一筋の汗。完全なる手詰まりの状態。また、こうして考えを巡らす間にも、洲葉の足は何度も良囲の頭部を踏み潰していく…!
「ぐふォ!! おふゥ…!!」
「嗚呼…、無駄に五月蝿き敗北者。」
良囲の目が血走り、苦痛に歪むが洲葉はそれに全く関心を示さない。
そして無表情のまま、右足を大きく後ろに振りかぶり…。
「いい加減…………、
醜き音を発するのを止めろ゛!!!!!!」
良囲の頭を力任せに蹴り飛ばす!! まるでサッカー選手がボールを蹴るかのように勢いよく… 全力で…! 無慈悲に!!
「ガはッ――ッッ――――ッッ!!!!」
力尽き、抵抗する力のない良囲の体が宙を舞う…!それは異様な光景! 唸りを上げるための息さえ失い大きく開かれたその口から、声にならない音が小さく発せられ…、そして途切れる。
「良囲――!!!!」
意識を失った友に向け叫ぶ2人。だが、その声は虚しく闇夜に消えるだけであった。
「やっと静かになったか…、それでこそ敗北者。敗北者とは、敗北という罪、弱さという悪を愚かしくも背負う人型の腐敗物。ただ黙り無音のままに地を舐め、頬を汚し、醜き身体さえ残さず失せるのみが正しき姿…。」
洲葉はヒュイと琉樹に向け首を回す。
「クッククククク…。 友人を助けるべく、決意し、私の前に現れ…、そして、結果、苦しむ友人を呆然と見ることしか出来なかったという一連の流れ…。なかなかのショーだろう、見世物だろう………、火嵐琉樹ィィィイィィ!?」
「くぅそがぁあああああああ゛!!」
琉樹が怒りの絶叫を上げるなか、洲葉はチラリと空珠を一瞥し、素早く懐に潜り込んだ。
「それは返してもらうぞ。」
空珠の手に握られた良囲の巾着袋を鷲掴みにし、再び空珠をトランプで攻撃し、弾き飛ばすと、ドアに向かって歩き出した。
「なかなか良い余興を演出できた。」
自らが滑稽な見世物を演出できたという満足感からか、狂気、いや狂喜に彩られた洲葉の表情は、その喜びを体現しているかのように歪んでいた。歩く洲葉の目の前には、未だにトラップ技の縛めを解くことが出来ずに居る琉樹がいた。洲葉はそれを見て一笑すると、パチリと指を弾いた。すると、これまで琉樹の動きを封じていたトランプが次々と剥がれ落ちていった。身体の自由を取り戻した琉樹に、洲葉は狂喜の笑顔で語りかける。
「楽しめてくれたか? 私の演出したショーは。 最高の…」
「お 前 は 何 考 え て ん だ い っ た い !!!!!」
洲葉の言葉を打ち消し広がる琉樹の圧倒的怒号!あまりの声量に空珠は思わず身体を起こし琉樹を見る。暗くて表情は確認できないが、彼から発せられる灼熱の気配を感じれば、その心境は見なくても分かる。
「『何考えてんだ』とは…?」
洲葉は言葉の意味を尋ねた。今の怒声にも全く動じることなく冷静に。
「…こんなもん見せられて楽しいわけねぇだろ! お前はなんでそんなことが出来るんだ。なんで人を平然と傷付けることが出来るんだ。なんでそんなことをして平気でいられるんだ…。 そんなことが出来るお前の頭ン中…、いったいどうなってんだコラァアア゛!!!!」
殺気にも似た、見るだけで震え上がるような激しい怒りを込めた瞳。歯は、潰れそうなほどに固く食い縛られている。
洲葉はしばらく黙りこみ、逆に質問。
「なら聞くが…。貴様…、なぜ人の苦しみに心を動かす?なぜ人の苦しみを見ただけでそうまで感情が高ぶる?なぜ、そうも冷静さを失う? その理由…、聞きたい!」
目を弓なりに細め、口を微かに釣り上げる。まるで目の前の人間を嘲笑い、馬鹿にするかのような表情!
「それは…!!」
人が傷付けられている姿を見れば、苦しんでいる姿を見れば、助けたい、ほおっておけないと考える。それが当たり前だ、と…。琉樹はそう考えた…。だが、いざその『当たり前』という事象がなぜ起こるのかと理由を問われると、すぐには明確な答えを見つけることが出来なかった。
ただ何となく、『目の前の苦痛を目撃すれば体が痒くなりムズムズする。そのムズムズを抑えるために筋肉を動かしたくなったり、皮膚に刺激を与えたくなったりする。』という感覚的で曖昧すぎる言葉しか思いつかない。
これでは言い返せない。言いくるめられてしまったという不快感のみが琉樹の心に染み付く。
そして、その不快感は、さらなる怒りの感情へと化学変化し蓄積される!そして、そんな琉樹に、洲葉は追い打ちをかけるように話を続ける!
「人に傷付いてほしくない、苦しんでほしくないという貴様の考え…、何の根拠も正当性もない…。 敢えて言うなら、…そう。 自己満足…! 世間一般に言う『正しいとされている考え』を持つことによって、自身を正しい人間だと思い込みたいだけの…」
「 黙 れ や あ あ あ あ あ゛ ! ! ! ! 」
琉樹の咆哮!!!! 同時に力の限り握り固められた彼の右腕の拳が、怒りの感情を推進力にして洲葉の顔面へと高速で押し出される!!!!
瞬間―――――――
琉樹の拳は洲葉の顔面にぶつかり、
憎しみの衝撃音を奏でる!!!!
…はずだった。
だが、その拳は洲葉の眼前ぎりぎりで停止していたのだ。
「…どうした、火嵐琉樹? なぜその拳…停止させる? 憎いのなら…、思うままに私を殴ればいい…。 其れ…、自然というもの。」
琉樹は、洲葉の眼前で停止させた拳をゆっくりと自らのもとへと戻す。
「……俺の、今の『殴り』は、たぶん俺の一時の感情、衝動だけで生まれたもんだ。その中には、今のこの状況を基に考えた思考結果が全然入ってねぇ。どんな時だって、深く考えずに人や物を壊すことに意味を見つけるのは難しい…。人が怪我して、物が壊れて、心が削れる。何かを壊すってのは、それを生み出した過程さえも壊すってことで、それが分かるから何かを壊すより作る方が大変だって感じる。人も物も、無暗に損傷を与えるべきじゃねぇよな…。
へへっ、 …なんかよく分かんねぇけど、よく分かんねぇ状況で冷静になってきたぜ。」
琉樹はゆっくりと腰のホルダーからメンコを取り出た。
「…よし、 …考えまとまった。」
そして、それをしっかりと両手に持った。
「俺はホビーファイターだ…。お前もホビーファイターだ…。 なら、洲葉徹!! 俺はホビーファイトでお前をぶっ倒す!! そんで空珠のホビーを取り返す!! 良囲の仇も討つ!!」
そう…! もうここまで来たら、これしかない。ホビーファイトによって決着を付けるしかない。洲葉もまた、トランプを右手に扇のように広げて持った。
「面白い…。貴様とのホビーファイト、楽しめることを期待する。」
『激戦炸裂ホビースピリット!!』
次話も見てくれよな!!
ホビーファイト… スピリット・・・
クラーーーーーッシュ!!!!