自分らしさを胸に 私は私らしく明日に進む!
『激戦炸裂ホビースピリット!!』はこの下スグ!!
サイトはそのままだ!!
※この物語はフィクションであり、登場する人物、地名、団体名などはすべて架空のものです。
玩具などで叩く、投げつけるなどの行為は大変危険です。
玩具の使用は用法を守り、安全な遊びを心がけましょう。
かつてのシオンは… 久楽迕詩音はあまりに素直過ぎた…
「疑心」を知らず「嘘」を知らず、人が嘘を口に出来る生物であると理解出来ずに生きてきた…
嘘は人にとって不可欠な存在だ。
誰もが「建前」や「お世辞」などとして、無意識のうちに大小さまざまな嘘を使う。 もちろんそこに悪意など無く、人と人との摩擦低減のために、日常レベルで【善意の嘘】は利用される。
だが「過剰な素直さ」を持つシオンの耳は「悪意のある嘘」「悪意の無い嘘」、そして「真実」を見分けず。 やがて耳に入る全ての言葉を「悪意」として認識するようになっていった。
だからシオンは意図して孤立した。周囲を飛び交う「悪意の可能性」から目を背け、ソレの発生源である他人の言葉を壁で遮断した。
いつしか彼女は、周囲の者達全てに 「静かな攻撃性を含んだ瞳」を向けるようになっていった…
そんなときだった… シオンが水乃真奈と出会ったのは…
何の偶然か、シオンの母親と真奈の母親は知り合いだった。半ば家族同士の付き合いに巻き込まれる形でシオンと真奈は出会ったのだった。
当初はシオンには、真奈と仲良くなるつもりは無く、真奈にも「敵を見る眼」を向けていた。
だが、真奈には不思議な魅力があった。 シオンの視線を逸らさず見つめ返す、本当の意味で真っ直ぐな瞳があった。そして「歌や歌手が好き」だという共通の趣味を話題にし、段々と会話が弾むようになっていった。
日を重ねるにつれ仲が深まった頃。 シオンは真奈に心の中の深い部分を吐露した。
人が怖く、孤立している事…
かつての取り柄だった「素直さ」をシオン自身で否定する事に端を発する自己否定を、繰り返している事…
心の奥底では、そんな自分を変えたいと思っている事…
そんなシオンに真奈は… 「変われる」と強く訴えた!
そしてシオンに『変わるための術』を教えた。
――わかった! 真奈! 私、真奈の言う通り変わってみる!
真奈が教えた通りに喋って、真奈が教えた通りに振る舞って。
真奈みたいになってみる!!
…白塗りの壁に、長方形の木の板を組み合わせた床。 周りには、黒光りする木琴や、山吹色の光沢を照り返す金管楽器。 私は今、小学校の音楽室にいる。
音が…音楽が反響し、私の身体を震わせる。だから私は声を出す。音楽の意思を感じ取れば、自然と声が…、音に溶け込むような歌声が私の全身から迸る。
皆の楽器で奏でる音が、私の声が溶け合い、反響しながら撹拌されていき、音楽は奥深さとコクを持つ重奏となる。
そして、その濃厚な音の深味が私の血をより強く律動させ、全身から溢れる歌声をさらに濃くしてゆく一体感…。
私は今、歌っている…、皆と音楽を奏でている…、そう思える確かな実感…。
五感で感じるそれを力にし… 第六感まで総動員して歌い切るッ!!
「ハァ、ハァッ………。」
もう、何回歌ったか?
熱を持った横隔膜が、小学生だった私の小さな身体を温める。力を出しきった全身に荒く取り込む酸素が水のように冷たい。蟀谷から頬に伝う汗を拭いながら後ろを振り返ると、そこには四人の男女がいた。皆、私が通う小学校のクラスメイト達だ。彼等はそれぞれギターやベースを携え、あるいはドラムセットに囲まれ、キーボードに手を置いている。皆、拭っても拭い切れない汗を顔に張り付かせていた。
ベースを携えたクラスメイトの男子が、下顎から汗を落としながらその口を開いた。
「…今のイイ! 凄いイイ感じに出来上がってきたな…! これって最高にイイよな!」
――彼は私に話しかけている。よって数秒以内に私は返事を返さなければならない。会話内容を即座に分析し、適格な返答を『真奈に教えられた言葉のデータベース』から引っ張る作業を開始する。 真奈がくれたアドバイスも、真奈の喋り方も私の頭は全てを記憶している!
「あー、 …う、うん! ツーカ、アタシも、その通りジャン。 って思うジャン!!」
返答速度が危うかったが、真奈に教えられた通りの返事を、真奈と同じしゃべり方で返すことに成功した。
「マジ、イケんじゃね、俺達? 今のはマジで上手くマジイケてたよな? おおマジで!」
「ホンマや! ウチらはホンマ毎日練習してきたんや。…これくらいはホンマ当然やで! ホンマに!」
ギターを掲げた男子が荒い呼吸をしながら熱く一声を飛ばし、それに続くようにキーボードを前にした女子が軽快な声を上げた。
…そして
「うん…、そうだね。 俺達の努力が、実を結んできてるんだね、きっと…、そんな気がする。」
一拍間を空けて軽やかな声を流したのは、皆の後ろでドラムを担っていた男子。頬や首を流れ落ちる汗を拭いもせず微笑を振りまく姿に、このバンドのリーダー然とした威厳と暖かさを感じずにはいられない。
そして、不意に彼は立ち上がった。
「――ありがとう、だね。」
彼はシオンに笑みを投げかけながら軽やかに言葉を続ける。
「俺達が有志のバンドを組んで、学芸会に向けて練習を積むことが出来ているのは、キミのおかげ…、シオンさんがヴォーカルの誘いを受けてくれたからだよね。感謝してる。」
…そう、私、久楽迕 詩音は今、あるバンドの一員として練習を続けていたのだ。 明日開かれる学芸会という催し物に向けて。
演劇やコーラスなどの出し物を企画し、体育館の壇上で披露する学芸会。小学校等で毎年行われる年間行事の1つだ。
学芸会での出し物はクラス単位、つまり1つのクラスで1つの出し物を企画するのが基本となっていたが、それとは別に、児童それぞれが自主的に出し物を企画し、披露することも認められていた。いわいる有志枠というものだ。
シオンのクラスも、5人の男女が有志でバンドをやろうと集まったが、もともと彼等のバンド仲間だった歌い手が、急に別の有志グループに参加することとなったのだという。
そのような中、ヴォーカルを失った彼等の目に止まったのが私だった。声が綺麗で、どの有志グループにも属していなかった私に声がかかったのは自然な流れだったのかもしれない。
そしてなによりも、真奈のアドバイスのおかげで私は『真奈』みたいな明るくて楽しい人間になれた。言葉も身振りも、私の全ての行動を『真奈』にした。私が誘われたのは、それが一番大きい理由だ。
私は、慣れない曲調に戸惑いながらも練習を重ね、短期間の内にヴォーカルとして力をつけ、チームメンバーにも頼りにされるようになってきていた。
学芸会の前日となったこの日。私達は明日の本番に疲れを残さないよう早めに練習を切り上げることにした。
私はランドセルを背負い、皆より一足早く音楽室の戸口へと歩く。扉に手を掛けた直後、私は衝動的に後ろを振り向き、4人の仲間達に声を飛ばした。
「あ…、あのッ! ツーカ学芸会…、頑張ろうジャン!!」
当初のヴォーカルが抜けるという偶然によって生まれたこの繋がりも、明日の学芸会が終われば解散となる。 そう思ったら、胸の底から熱いものが込み上げたのだ。
「イイね、頑張ろう! 明日のライヴ、絶対イイ音出してイイ感じに出来たらイイよな!」
「マジ言うと。 シオンの歌、マジ頼りにしてっぞ! マジ、シオンのおかげで俺らもマジになれるからな!」
「ホンマや!なんだかんだ言うて、ホンマ、シオンの歌声はホンマもんや! どこまでも届くくらいに、ホンマの魂響かせようや!」
皆の声が私の肌をジンと泡立たせ、体の芯に熱を与えた。
「大丈夫だよ、俺達なら上手くやれるよ。 そうだよね。」
そう言いながらリーダーは椅子から立ち上がり、こちらに歩いてきた。
そして突如、彼は私に右手を突き出し握手を求めた。 私は一瞬困惑したもののそれに応じる。
「明日は頑張ろう、だね? シオンさん。」
彼が予想以上に強く握って来たことに驚いた。彼の肌奥の体温が、私の皮膚の神経に『熱』として伝わる。
おかしい…。 どうして握手をした私の手は熱を感じるのか…?
『暖かい、および冷たいという感覚』は自分の体と、接触する物体との温度差の信号だ。人は恒温動物だから体温は一定であり、私と彼との間に温度差は存在しない。よって、私が彼の手に触れて温かいと感じることはありえないはず…。 なのに、この暖かさは、いったいどうして…?
「・・・・・・・・・ッ!」
不意に、自身の胸奥の心肺が激しく荒れ狂い熱を生み出し、必要以上に熱くなった血液が動脈を伝って頭に登る感覚がした。この暴れるような熱が、握手をしている相手が異性であるという事を私に自覚させる。 ドラムスティックを握り続けた硬めの皮膚、練習によって培われたその腕は小学生ながらも若干太く、手首に浮き出る腱を見て、『男の手』だと感じた。
「…ぁあ、 うん。 が、ガンバろう… ッテユーカ、頑張ろうジャン! じゃあね!」
言うが早いか。私は彼とまともに目も合わせず、逃げるように廊下に出て扉を閉めた。
廊下の壁に寄りかかり、気持ちを落ち着かせ、体中に迸った熱を冷ましながら4人の顔を思い浮かべた。
頼りにされている…期待されている… このような高揚感はこれまで感じたことが無かった。みんな真奈のおかげだ。 真奈に教えられた通りに言葉を選び、真奈に教えられた通りに振る舞う。それだけで全てが上手く回りだした!
さすが真奈だ! 真奈のアドバイスは完璧だ!
暫くの恍惚を解き廊下を歩き始めたそのとき、音楽室の中から微かに声が響いてきた。私は彼らがどんなことを話しているのか気になり、そっと扉に近付いた。音楽室といっても高度な防音設備が備えられているわけではないので、こうして近づけば中の会話を聞き取ることも出来る。
「シオンさんと一緒に練習するのも今日で最後だね。」
――私のことで話してる? やっぱり私って皆に慕われてるんだな。
「やっとか~。俺、マジに言うとマジでアイツ苦手なんだよな。」
――ッ?
「ウチもそれ、ホンマわかるわ。アイツてホンマおかしいやんな?元々おかしかったけど、最近はホンマ、特におかしくなってきとるやんな?」
「たしかに最近はもう、存在的にイイとは言えないよな。 イイ知識を持ってる俺の姉ちゃんが、あの状態はヤバイ感じだって言ってた。」
――ありえない! 真奈のアドバイスは、私をいい方向に変えているハズだ。
「アイツって、マジに側にいるとマジで不自然でキモいのな。 始めて知ったわ、マジで。」
「ホンマ、キモヤバいっちゅーか、ウチ、ホンマ、アカンって思うねん、一挙一動がな。 頭を掴んで後頭部を机の角でガンガン16ビート打ち鳴すくらいせんとマトモにならへんでホンマに!」
――おかしい! このような言葉を皆が揃って言い合うってことは有り得ない。 私は完璧に真奈のアドバイスを再現した!
「――だよね。 ところでリーダー。 いくら声がイイ感じだからって、まさか学芸会の後も仲間にしとくとか言わないよな? 俺達の格がイイ感じに見られなくなるから、イイ加減ありえないよな?」
メンバーの一人がリーダーにそう問いかける。
――落ち着こう。 皆が仮に、私の事を本当にあんな風に思ってたとしても。 リーダーは違う! リーダーはいつも練習の合間に声を掛けてくれたし、笑顔を見せてくれた! それにさっきは握手してくれた! 皮膚の感触や体温がわかるくらいに、あんなに強く握ってくれた!
「俺はただ、クラスでまともな歌唱力を持つ人が彼女しかいないから、消去法で彼女を使うしかなかったんだ。 正直に言うと嫌だよね、ああいう人は。 願うなら、学芸会の後、可能な限り早く死んでくれることが望ましい。 そうだよね。」
この瞬間、私は自分の手が震えるのを感じた。 胸に描いた彼の優しい微笑みが、崩れ去る。
…ていうか さっきの握手って?
…シオンさんは新入りだし、このチームに対する思い入れも無い。 だから本気で歌わせるために、なんらかのアクションを積み重ねる必要があると思ったんだ。 モチベーションは大事だからね。
これ以上聞きたくない、ここから立ち去りたいと思いつつも。ショックで身体が痙攣したように言うことを聞かず、ただ呆然と、放心したように立ち尽くすしか無かった。
…でもシオンって、握手されたとき 顔赤くなってたやんな。 ウチ、まさかとは思うけど…
…マジ!? マジでそうなのか? これマジヤバい!
…やっぱりそうだったんだね。本番まで時間がないとはいえ、さすがに過剰なアクションだったか…。不味いな…、シオンさんに付きまとわれたらどうしよう。 どうして彼女は頭は壊れてるのに、体だけは健康で死にそうな気配が無いんだ… 俺の精神保護のため…、みんなの為にどうしてすぐに死んでくれそうにないんだ… 状況が矛盾してる、そうだよね。
…いやいや、イイ加減心配しすぎ。 ッていうか100万円くれたら俺が階段から突き落としてイイ感じに殺してあげよっか?
…お前、マジちょっと待て、何言ってんだよ…!! …………………せめて税込み千円だろマジで! 100万はマジ高すぎ!
…それよりさ…
扉一枚を隔てて伝わる彼らの声が胸に刺さり、裂けた心の皮膚から液体が滲み出し、眼から頬へとゆっくり流れ落ちる。 同時に、胸の痛みに反応する心の声が、嗚咽となって溢れ出すのを止めるように無意識に歯を食いしばった。 そしてそのまま、誰もいない静かな廊下を歩き、ゆっくりとその場を後にした。
――自分を変えるために、
言葉も振る舞いも、みんな真奈の言う通りにガンバったのに…! 何でこんな風に…
――なぜなんだろう、「変われる」と真奈は言っていたし
真奈のようになることで自分は変わるはずだった…
こんな結果が訪れるハズがない… 考えられることは…
「全部… 『嘘』だったとしたら…。」
――真奈の言葉がみんな嘘だったとしたら、この結果は当然…!! 真奈の嘘を素直に聞いて、その嘘の言葉の通りに行動したのだから初めから失敗は決まっていた。
いつも通り失敗しただけ… いつも通り…
また嘘を見抜けなかった!!!!
脚を止めて瞳を閉じると、瞼の裏にいつも笑顔を絶やさなかった真奈の顔が浮かんできた。
いつも笑ってた… そして、これからも何事も無かったかのように笑顔を見せ続けるんだろう…
しかし真奈は、本当は私のことが嫌いだった… だから、他の人達と同じように私に嘘を教えたんだ…
私を嫌いな人達は、いつもこんな風に嘘を言い続けるんだ…
それ以来、真奈とは会わないことにした。真奈と関わった記憶は保持する必要がなくなったので頭から消した。学芸会が終わったあとはチームから外れた。あのチームはメンバーの1人が転校するなどして自然消滅したことが幸いし、スムーズに記憶から消去できた。ただ念のため、『階段から突き落とされる可能性』という記憶だけは保持し、階段の昇降には気を付けることにした。
チームメンバーや真奈だけじゃない…、周囲の人達みんなが私を嫌っている。みんな演技が上手だから気付かないフリをしていたけど、やっぱりみんな…、私という存在が生み出す苦痛を我慢してたんだ…!
昔から感じていた予感は正しかった。
これまで私と関わった人達も、これから関わるかもしれない人達も、皆が私を嫌いなんだ。それを確信した今なら、逆に考えれば「私は好かれてるのか嫌われてるのか」という無駄な思考を省ける。「絶対に好かれず、絶対に嫌われる」ことが私という存在の前提なら、逆に安心できる!
やっと見つけた… これが私… 自分らしさだったんだ!
『激戦炸裂ホビースピリット!!』
次話も見てくれよな!!
ホビーファイト… スピリット・・・
クラーーーーーッシュ!!!!




