第92話 絆と涙と満月姉妹の修学旅行⑦―驚異の四人―
大阪市内、とある五階建ての廃ビルの一階にて。
「うらぁっ!」
「ふんっ!」
コーリンとネロアが互いの剣を交え、戦っていた。
「【万死の薙】ッ!」
先に戦局を押し動かそうとしたのはネロア――彼女は己の剣に闇を纏わせ、コーリンめがけ横一文字に振るう。
この攻撃、コーリンは斜めに傾けた愛刀――柄に銃の機構を組み込んだ刀『震撼剣』で受ける。
ネロアの剣は勢い余り、コーリンの震撼剣の刃を滑り、やがて震撼剣の刃先に到達。
「ここだぁ! コーリン流剣法、『玄武の刹那』ァ!」
この時を見切り、コーリンは震撼剣の引き金を引く。
内部の火薬が炸裂し、刃が、特に刃先が強く震える。振動はネロアの剣を伝い、やがて当人の手に伝わり、当人は剣を手放す。
「貰ったぁ!」
この隙を逃さず、コーリンはネロアを刺突する。
だがネロアが剣を手放したのは、決して隙ではなかった。
ネロアは剣に予め付けていたワイヤーを引き、剣を掴み直す。
「【禍根の楔】!」
即刻、剣に闇を纏わせ、コーリンに向けて一直線に投げつける。
「危ねぇッ!?」
コーリンは攻撃を中断し、ネロアの剣を転がって避ける。
ネロアが剣を引き戻す最中、無闇な深入りは危険と判断したコーリンは、一旦間合いを離す。
コーリンはネロアに、まるで練習試合後の相手に向かっているかのように、
「お前なかなかやるじゃねえか! 一撃一撃が禍々しいのも、その鎖鎌みてーな技もすげーよ!」
「その賞賛、純粋に拝領しよう」
「けどよ、何か変だよなお前。だってよ、何かお前の剣には殺気がねぇんだよ」
「異端なのは承知の承知。そして剣に殺気がこもらないは、今宵の任務が『貴方がたの生け捕り』であるが故……」
「あ、どうやらオレの言葉選びが悪かったみたいだな。殺気じゃなくて、何て言えばいいんだ……ええと……あ、『やる気』がねぇ、かなぁ?」
「僕にやる気がない……だと?」
「ああ。さっき死神のなんたらとか大仰に言ってた割には、ここまでドンパチやって来た中で、確実に決定打を打とうとしてないじゃねぇか? お前の剣が冴えてるのは認めてるがな」
「……それは、ワノ殿から命令に忠実に従っているまでのこと」
「ふぅん。オレがワノだとしたら、ここでお前がオレを捕まえてくれた方が助かると思うんだがな。本当変な命令出すな、アイツ……」
「……」
「さ、話はこれくらいにして……もっかい来いよ!」
「……承知」
*
廃ビル二階にて。
「【崇奉の世戒】」
充は床を殴る。と、その直後、青緑に輝く充の分身が五体現れ、ルシェヌに襲いかかる。
分身五体を作り出し、発動地点から半径九メートル以内にいる者を襲う――それが【崇奉の世戒】の効果。
このような一定範囲にある制約を作り出すのが、古の雷神とも悪魔とも呼ばれる存在『バアル』より賜った松永充の能力である。
「こんな小技、通用せんぞい! 『鋭き氷のサニタイジング』!」
ルシェヌは自分の周囲に氷槍の雨を降らせ、充の分身を消す。
「お返しじゃあ! 『迅き雷のアライアンス』!」
ルシェヌは性格上、防御だけで妥協はしない。逆襲として、両手から充に強烈な稲妻を放つ。
「ふっ……!」
充は同じく両手から稲妻――バアルより力を賜った際のおまけによる技――を放ち、二人の稲妻は激突する。
神からのおまけと魔王の実力、この差が行方を分けた。
ルシェヌの稲妻は充の稲妻を圧し、充本人に命中する。
「ぐっ……【慈愛の世戒】」
充は再び床を殴り、【慈愛の世戒】――発動地点から半径六メートルにいる者の傷を癒やす――で、体勢を整える。
「悠長に回復なぞさせんぞい!」
勢いづいたルシェヌは床を蹴り、大技の為に力を溜めながら、充との間合いを詰める。
「ちっ……これが魔王か、容赦ないな……ッ!」
充は右足に電気を纏わせ、抵抗の意を見せる。
「さぁ、この魔王ルシェヌの威厳の元にひれ伏すがいい! この充とかいうムカつく小綺麗な輩め!」
ルシェヌと充の間合いはかなり狭まる。
ルシェヌは大技の発射体勢を取り、充は電気を纏わせた右足を引き、
「【沈黙の世戒】!」
充は地面を殴り、
(『導く火のブートストラップ』……! ってあれ!?)
ルシェヌは口をパクパクさせながら、片手を突き出し、
「はぁッ!」
充の電気を帯びた蹴りを、無抵抗の状態で受けた。
(おかしい……声が出ないぞい!? これではアタシご自慢の魔法が使えないのじゃ! はっ、まさか……)
ルシェヌはあることを察し、してやったりと言わんばかりに微笑んでいる充を睨む。
「今、まさかと思ったな。やれやれ、あちこち異世界を回って、大抵そうだった。
魔法使いは、声を出せなければ何もできなくなるんだ」
*
廃ビル三階にて。
「いけ、アザレア!」
「イエス、マスター!」
「いや、いかせない……」
ユノスの召使い、アザレアは虫の怪人としての力を活かし、イバラが二丁の銃で作る弾幕を、蹴るなり、殴るなり、分身を出すなりして、ひたすら防いでいた。
アザレアは思う。
(あのイバラという女の子の銃、形は拳銃に近いですが、この弾幕を形成する連射速度と、一切弾切れをしないこと……)
「ここだ……」
イバラはアザレアの中心部一点を狙い、引き金を引く。
アザレアは持ち前の素早さで、迫り来る無数の弾丸をかわす。
かわされた無数の弾丸は一本のコンクリートの柱に、ほぼ誤差無く一点に命中した。
刹那、その一点より爆炎が巻き起こり、柱は砕け散る。
(……あの一点に集中して撃った際の現象。普通の銃では無いことは火を見るより明らかです)
一対の拳銃の形をしたアーティファクト【荒廃を広げるツバサ】。
一秒に一発という凄まじき連射速度で、弾丸を成形・射出する。さらに弾丸を多重に受けた箇所は大爆発する効果を持つ。
イバラはこれを用い、アザレアを倒そうと……しつつ!
「……いまだ」
「危ない、マスター!」
隙あらばイバラから離れて居るアザレアのマスター、ユノスを狙う。
(先ほどから私は何をしているのでしょうか。
ずっとあの方が撃つ銃弾を弾くか、マスターの護衛しか出来ていない。あの方に一撃も与えられていない。この戦局、果たしてどう覆せば……)
アザレアはイバラの弾丸を弾く中、この防戦一方な状況を憂いた。
「アザレア……」
アザレアのマスターであるユノスも同じく、この状況を憂いていた。故にユノスは考える。そしてこの末に閃く。
「こうだ、こうすればいいんだ!」
ユノスはイバラに向かって駆け出す。
「……きた」
イバラは飛び出したユノスめがけ乱射する。ユノスは全力で駆ける、全力で跳ぶ、全力で転がるなど、自分の文化部特有の心許ない体力を振り絞り、かろうじて避ける。
「マスター! ここは危険ですから私に一任して……」
「チャンスだよアザレア! 奴はボクに気を取られてるもん!」
「!? ……イエス、マスター!」
今回のメインターゲット、ユノスにロックオンし、引き金を引きまくるイバラ。
アザレアはイバラの側面より、凄まじく鋭く、速い、怪人らしい飛び蹴りを繰り出す。
「ありがとうございます、マスター! これで私はイバラ様に一撃を与えられます! イバラ様もありがとうございます! マスターに注視してくださいまして!」
「……そういうこと……なら」
イバラは両手の銃の実体化を解き、入れ替わるように一対の腕輪を一瞬で実体化。両手にはめるのも黄緑色に輝く茨を侵入させるのも、一瞬で行う。
そして、イバラはアザレアの飛び蹴りを、片手で受け止める。
「なっ、私の渾身の蹴りを、片手で!?」
*
廃ビル四階にて。
「さぁさぁ飛び回るがいいっス、アタイの眷属、チャネルバット! 奴らにたんとサービスしてやるっス!」
吸血鬼ワノの眷属、チャネルバットは『ある空間』に接続されたブラックホールを作り出し、そこから人間以外の物を出し入れできる能力を持つ。
ワノはこいつをこのフロアにまんべんなく飛び回らせ、剣なり槍なり、様々な武器を射出させる。
「これのどこがサービスだって言うんだい!? 君やっぱりどうかしてるよ!?」
「人様の妹さらった時点で奴はどうかしてるだろうが! マジナぁ!?」
マジナとサバキは、四方八方から無尽蔵に飛んでくる武器を、必死にかわし続ける。
最中、僅かな暇を見つけて、
「来い、『PORTRON』! 少しでもアタシに楽させてくれ!」
「先から鬱陶しいぞコウモリ!」
マジナは槍を携えた青竜『PORTRON』を召喚して、サバキはゲル状の毒物『ルマ』を両手から弾丸めいて発射して、周りを飛び回るチャネルバット数体を仕留める。
「無駄無駄無駄無駄ッ……っス! アタイは吸血鬼。だーかーらー、眷属はほぼ無限に作り出せるっスよぉ!」
ワノの言う通り、チャネルバットの体数はまるで減る気配がない。ワノ自身にも損害はまるで無い。
故に、マジナとサバキは永遠に武器を避け続けさせられる。
「ワノ! 君の周到さとしつこさ、本当に最高に、頭にくるねぇ!」
「全くだ。貴様、というより貴様らイルミネーターズにいい加減答えて貰いたい! どうしてここまで、自分たちを捕えたいんだ!?」
「ああ、そういやその質問、さっきは答えてなかったっスね。
んー、六分経過か。これは幸運っス。
じゃあ、ここまで生きながらえたボーナスで、と〜くべつに答えてやるっス」
ワノはチャネルバットたちに攻撃を一時止めさせ、サバキの質問に答える。
「それはアタイらイルミネーターズが、それぞれの異世界に帰るためっスよ」
「それぞれの異世界だと?」
「どういうことだいそれは?」
「アタイたちイルミネーターズは、元々それぞれの異世界に転生して、各々上手くやってたんスよ。アタイがスーパー事業で大儲けしてたのがいい例っスね。
けれどもある日、アタイたちは異世界転生管理局とかいう奴に、突然それぞれの異世界から離され、『あちこちの異世界を滅茶苦茶にする転生者を始末しろ』と、言われたんスよ。
――アタイたち全員は、まだそれぞれの異世界に居たかったっていうっスのに!
管理局は、その気持ちを理解してくれたのか『こちらが決めた数の転生者を始末したら、前いた異世界に帰してやる』と条件を付けてくれたんス。
そしてアタイたちはそれに従い『イルミネーターズ』を組み、管理局の言う通りあちこちの異世界転生者を始末してきたんスよ。
で今回、管理局がアンタら六人がターゲットになったんスよ!
六人! これだけの数をいっぺんに生け捕りにできれば……間違いなくアタイたちはノルマにグッと近づき、異世界に早く帰れるんスよ!
これが理由っス! わかったっスか!」
「……私はわかった。けれどもわかりたくないねぇ」
「自分は三つ言わせてもらう。
一、自分達はこの世界を滅茶苦茶にしたつもりはない。
二、自分達は貴様らの身勝手な理由で捕まるつもりはない。
そして三、人の家族を奪った連中は許さない!」
二人に向けて、ワノは手を叩いて盛大に笑う。
「そんなこと言うと思ったっスよ……けれどもねぇ、こちらもこちらでもう後には引けれん! ただの標的なアンタらの事情など二の次だじょぉ!
アタイの行き着く先は、そこしか無いんだじょあ!
そんなアタイたちを、イルミネーターズを止めたりゃあ、筋通して止めてみろや!」
ワノは目をカッと見開いて、連射を再開する……それも前以上に激しく。
「ちっ、本当に性根が腐ってるねぇ……あいつ」
「だが自分たちは一切負けるつもりはない! 下にいる姉妹ともども!」
【完】




