第89話 絆と涙と満月姉妹の修学旅行④―イルミネーターズ集結―
「この後何が困るっスかぁって? それ聞いてどーなるんスか? 満月サバキさん」
「何故自分の名前を!? いや、それよりもまず、何故自分の妹に手をかけた!? ……貴様ら、一体何者だ!?」
口の聞き方から鮮明に伝わる、事前調べ通りの高圧さと実直さ――ワノはサバキの態度を内心嫌がりながら、
「はぁわかったっス。答えるっスよ。
ユニット名は『イルミネーターズ』。アタイはワノ、こっちの小さいのはイバラっス。
異世界転生管理局から、世界を乱す恐れがある、まーたーはー、現在進行型で乱している転生者を始末する仕事をしてまっス」
「転生者を始末……つまり、貴様らは自分たちを始末しに来たと」
「それは考えすぎっス。
別にあなた方六人は今のところ、この世界を目立って荒らしていないからっていう温情なのかは知らんスけど、『上』はあなたたちを『生け捕り』で勘弁するって言ってるっス。
だから殺すとかそういう野蛮な真似はするつもりもないっスし、あなた方が大人しく捕まるっていうんだったら、アタイらはそれを優しく受け入れるつもりっスよ」
「ほう……そうか。実に温情で、実に助かる。
だがな、自分たちは貴様がさっき言った通りこの世界では大した問題を起していない上、自分たちはここで『家族』という帰るべき場所がある。
そして……」
サバキはワノとイバラのそばで気絶しているピコリを指さして、
「今のように人の妹に暴力を振るう奴の戯言など信用に値しない!」
サバキは、ワノとイバラにナノマシンの装備を装着した両腕を向け、ゲル状毒物『ルマ』を弾丸状にして十数発発射する。
ワノは自分の正面に己の眷属、チャネルバットを数体召喚する。
チャネルバットたちは口を開き、ブラックホールを作り、そこから適当な木の板を放出し、ルマと相殺させる。
「イバラ! ネロアと充が戻るまでの間、痛めつけてやれっス! トーゼン殺さない程度っスよ!」
「……わかった」
イバラは両手それぞれに拳銃を握り、引き金を引く。弾丸がサバキへと飛ぶ。
「おっと、悪いけどその攻撃、私が頂かせて貰うよ」
サバキとワノ・イバラの間に、赤竜『Hellkite-W』をグライダー代わりにして滑空して来たマジナが降り立つ。
マジナは胸元から二枚のカードを引き抜き、それから屈強な肉体を持つ橙竜『Bhmthon』を召喚。
Bhmthonはそのまま仁王立ちし、イバラの弾丸全てを受け止めた。
「……そうくるんだ、なら……」
イバラは二丁の銃をホルスターに戻す。入れ替わりで妖しく光る黄緑色の茨を両手から伸ばし、片端はサバキの右手に、もう片端はBhmthonに侵入させる。
するとサバキは右手をマジナに向け、ルマを彼女の足元に乱射する。マジナの足元の自由が奪われた。
一方、Bhmthonは、突如として踵を返す。まるで状況が読み込めていないような顔をして、マジナに殴りかかった。
咄嗟に、マジナは谷間からもう一枚のカードを取り、青竜『PORTRON』を召喚し、Bhmthonの拳をガードさせる。
マジナは靴を脱ぎ、足元のルマ固めから逃れつつ、
「ちょっとサバキ! どうして私を撃ったんだい!? ここにきて私へお仕置きしようっていうのかい!?」
「そんなわけじゃない、はずじゃない! 何故か勝手に右手がそちらに向いたんだ!」
「だろうね!? いくらサバキでも、共闘してる最中に普段嫌ってる姉を襲うわけないし、私のBhmthonが仲間を襲うわけもない!」
サバキは右腕にはめたイバラの茨が侵入している武装を外して、適当な方に放り投げる。
「きっとあのイバラの茨に原因がある! マジナ殿、こうなればまずイバラをどうにかしてピコリを救出するぞ!」
「ややこしいね全く! それじゃあPORTRON、Bhmthonの相手は任せたよ!」
マジナは高くジャンプし、空中でHellkite-Wを召喚して掴まり、イバラめがけ滑空する。
「……おっと! アタイのことも忘れて貰わないでくださいっスよ!」
ワノはイバラの前にチャネルバット十数匹を展開。チャネルバットたちは口にブラックホールを作り出す。
その穴から無数の剣が射出され、マジナを撃ち落としにかかる。
「『O』、すこーしだけ痛いの我慢して貰うよ」
マジナは蛇状の姿をした紫竜『O』を召喚してすぐ、蛇腹剣めいて振り回す。飛んできた剣をテクニカルに弾きいなした。
「もちろん、自分のことも忘れるな!」
ワノとイバラがマジナに注意を向けている内にサバキは二人に接近していた。左手よりルマを縄状に伸ばし、ピコリを引っ張っての救出を試みる。
「……もうあやつるのはいいや……やっぱりふつうにこれにしよう……」
イバラは、サバキの右腕の武装とBhmthonに侵入させていた茨を引き戻す。腰のホルスターより二丁の銃を取り、茨の両端をその二丁の銃に侵入させる。
サバキが伸ばす縄状のルマを、イバラは銃弾で断ち切った。
続けざまにイバラはマジナとサバキの両方にまんべんなく連射する。
「ちっ、これじゃあ空中からの急襲が出来ないじゃないか!」
マジナは再びOを振り回す。空中で、ガードを強いられ、足止めを食らってしまう。
一方、サバキは前方にルマの壁を作り、弾丸を防ぐ。
この間、サバキは怒りを込めてイバラたちに問う。
「何だ、この武力行使することさえためらわない執念は!? 何故にここまでして自分たちを生け捕りにしたいのだ!?」
その問いにワノは答える。
「逆にぃ! どうしてここまでして妹を救い出したいんスか!?」
サバキは即答する。
「ピコリは、自分の大切な姉妹だからだ!」
「それをあなたが言うんスかぁ、サバキさん!? そのピコリさんが楽しみにしていた修学旅行を台無しにした分際で!?」
「なっ……それをどうして知っている!?」
「アタイらはあなた方六人、そう六人も生け捕りにするためここにやって来たんスよ?
何としてもそれを成功させるために、尾行偵察はきちんとやらせて貰いましたっスからねぇ!
アタイらを突き動かすのは何か? この質問に答えられなくて、すみませんっスねぇ……けど、アタイはさらに質問させていただくっス! 仮にあなたがピコリさんを助けたところで、果たしてピコリさんは喜んでくれるっスかねぇ!?」
サバキはこの問いに答えられない。
動揺したのだもし自分がピコリを助けても、何の意味もないのではないかと思って。
その最中、
「考え中のところ申し訳ないっスけど、もう少し広い視野を持った方がいいと思いまっスよ!」
サバキの周囲にチャネルバットが飛んでいて、今にも剣を射出する体勢になっている。
「『重き地のガバナンス』ッ!」
その時、サバキの周囲の重力が強まり、チャネルバットは地面に叩きつけられる。
「フハハハ! 真打ちは遅れてやってくるものなのじゃ!」
「遅れてごめんね、サバキお姉ちゃん」
「ちょっと退園のアレコレに時間がかかってよ!」
重力を強めた張本人ルシェヌと、ユノス、コーリンが後ろから駆けつけてくれた。
マジナは一旦着地し、正気に戻ったBhmthonとPORTRONの背後に引っ込む。
「まったく、遅いよ姉御! 危うくやられるところだったじゃないか!」
サバキは、右腕に武装をはめ直しつつ、
「だがありがとう。これで奴らからピコリを奪還でき……」
サバキ……いや、ピコリを除く五姉妹は見る。
「遅れてすまない、赦しは請わぬ」
「大変待たせてしまったな……ワノさん、イバラ」
ワノとイバラの背後から、新手が来た。
群青色の髪の少女――ネロアと、青緑色の髪の少女――充だ。
「……ほんとうにおそい……」
「まぁ実際遅いっスね。けどまぁ、来てくれただけで本当十分ありがたいっス」
かくて満月家の五姉妹と、イルミネーターズが集結し、二組は対峙し、ついに全面衝突する……と、思いきや、
「ネロア、いつもの骸骨をドンドコ出してくれないっスか?」
「この使命、即ち人海戦術。流石、豪放と冷酷の二面を包容する策略家たるワノ殿らしい謀だ……」
「違うっス。みんな、覚えてるっスか? これは今、第二段階だってこと?
だから今、あの五人と戦う理由は無いっスよ。ここでやるべきなのは……」
「成程。僕は今宵、追憶し、天命を承らん……故に、【モンスターコール:スケルトン5】!」
ネロアは己の前に忌々しい姿のスケルトン【ダムドスケルトン】数十体を召喚し、満月五姉妹へ突撃させる。
「ひっ、妖怪!? 気持ち悪い連中寄越してきやがって……お前ら、とっとと片付けるぞ!」
「「「「了解!」」」」
満月五姉妹は襲いかかる【ダムドスケルトン】を各々の能力で攻撃し、光の塵にしていく。
最中の最中、ユノスはあることに気づく。
「この骸骨変だね。どれだけ強い衝撃与えても砕けたりしないし、なのにある程度攻撃するとこうパッと消えていくんだもん。なんか、ゲームの敵みたいな感じだね」
一方でルシェヌは気づく。
「あー! あの四人組がいないのじゃー!」
満月姉妹の五人がスケルトンと乱闘している最中、ワノ、ネロア、イバラ、充の四人――イルミネーターズは、ピコリと共にどこかへ消えていった。
*
その日の夕方、大阪市内にある、時代の流れに負けてしまい、人気を失ったボロボロのビルにて。
「……ここは?」
ピコリは両手両足を鎖に繋がれた状態で、ここで目覚めた。
直後、ピコリはイルミネーターズ四人を視界に入れる。
「……はいびる……」
と、イバラはピコリの問いに答える。
「あ、廃ビルね……って、イバラちゃんと、財布無くした人!? 何でここにいるの? そして他二人の見知らぬ人!? あなたたちは一体どんな集まりで!?」
この状況にわかりやすくキョドるピコリに、ワノは説明する。
「アタイらはイルミネーターズ、世界を乱す、あるいはその恐れがある転生者を処分する仕事をやってまっス。で、今回あなたの姉妹六人が、そのおそ……」
「転生者を処分する!? あー、そっかー、ウチ転生者だったっけ。先の世界が異世界感なかったから忘れて……って、ちょっと待てぃ! まだウチ世界乱すレベルのことやってないんですけど!?」
「……最後まで話聞いてくださいっス。で、今回あなたの姉妹六人が、その恐れがあるから、生け捕りにしろと上から言われているんス」
それを聞くや否、ピコリは両手両足の鎖をガチャガチャ言わせて、この場から逃れようとする。
「い、嫌だ! こんなクソ旅行中にわけわからん連中に連行されるなんて! 帰してよ、ねぇ!」
しかし、この拘束に使われた鎖はワノが選りすぐった特級品。簡単には抜け出せない。
もっとも、ピコリに鎖を破壊するような能力は全く無い。この事情を知っているイルミネーターズは、本当に意味もなくバタつくピコリを鼻で笑った。
充はワノに尋ねる。
「これに、ターゲット一人の身柄を拘束したが、この後はどうする気で? 奴を人質にして他五人を操るとかでもするのか?」
ワノは不敵な笑みを浮かべて、充に答える。
「それもいい作戦っスね〜。けどねぇ、こちらはもっと、奴ら全員に効果抜群な作戦をだいぶ前から考えていたんスよ……」
ワノは自分の傍らにチャネルバットを召喚する。そいつが作り出したブラックホールに手を突っ込み、ヘッドホンを取り出す。
どことなく古代文明の産物のように古ぼけていて、かつ禍々しいオーラを放つものだ。
ネロアは尋ねる。
「何物だ、その根源に近し時と、凶夢を彷彿させる邪悪な闇を纏いしヘッドホンは……」
その質問にワノは、
「これはっスね。簡単に言うと『第三段階のキーアイテム』。もう一歩踏み込んで言うと……『他五人への脅威を作るためのキーアイテム』っスよ……」
これから起きるであろう満月家の悪夢を妄想したための笑みを、恥ずかしげもなくピコリに見せつけながら答えた。
【完】




