第35話 満月姉妹withゲーム ~導入編~
新満月家の昼頃。
絶賛お留守番中の六人は、ここでだらだらとしていた。入学前なので暇しているのだ。
「あー、ヒマなのじゃ、ヒマなのじゃ!」
ルシェヌは騒ぎながら、リビングのソファで横になり、動画を見ているピコリを揺する。
これまでのルシェヌの所業があるにしろないにしろ、このように騒ぐのは仕方のないことだ。
今の六人は、正真正銘空前絶後にやることが無く、すこぶる暇なのだから。
「ねぇピコリー、ずっと音楽聞いてないで何かしようなのじゃー!」
「音楽じゃない、今バズりの動画見てる」
「何でもいいのじゃ! とにかく何か、するのじゃー!」
「あーうっさいうっさい、ユノスの漫画でも読んでたら?」
「もう読んだのじゃ! けど話が難しくてよくわからなかったのじゃ! ねー、遊ぼうなのじゃー! ねー、お姉ちゃーん!」
「通算35話になって今更『お姉ちゃん』呼びされてもすっごい困るんだけど……」
ここで玄関の方からインターホンが鳴る。一番素早く動けたマジナは、これに応対する。
その後、マジナは玄関から、
「ごめーん、誰か! ちょっと力貸してくれない!?」
「ほらルシェヌ。行ってきなさい。ヒマなんでしょ?」
「むー、わかったのだ」
ルシェヌはピコリから離れて、マジナのいる玄関へ。
(やっとおじゃまがいなくなった……)
一安心も束の間、ルシェヌが玄関から絶叫する。
「何じゃあこれぇー! 重いのじゃあーッ!」
「君本当力ないね……すまない、誰かもう一人来てくれ!」
「来るのじゃ! ピコリ! お前も暇じゃろうが、ちゃんと姉のお手伝いをするのじゃ!」
(ルシェヌもある意味お手伝い出来てないと思うんだけどなぁ……)
ピコリは呼び出しを食らい、ピコリは渋々イヤホンを外してそちらへ行き、荷物をリビングへ。
何だどうしたと、二階にいたコーリン、サバキ、ユノスもリビングに集う。
「この大きな箱と小さい箱は何なの?」
「コーリン殿、母さんから荷物が届くという趣旨の話は聞いてるか?」
「さっぱりだな……」
六人は、その前触れ無く届いた大小異なる二つの箱――特に上面の伝票を見つめる。
「送り先は……満月コーポレーションからだね」
「なら母さんの仕事関係の物じゃねえか?」
「それならば、荷物が届くって連絡するはず。と、自分は思うが」
「あ、あと宛先は、私たちだね」
「むむむ、さてはこないだ会社を荒らした仕返しに爆弾を……」
「とりあえず開けてみようよ。お姉ちゃん」
六人は警戒と期待を両立しつつ、二手に別れて箱二つを開封。
一歩抜きん出て、姉三人が大きい箱の中身を取り出す。
そして中から、モダンな黒い四角の物体が印刷された、ダンボールのパッケージが現れる。
「何だこの羊羹? えっと……『BC5』?」
「まるでテレビデッキみたいな形だね。あれ、それならもうあるけど……?」
「多分違う。これは恐らく何らかのコンピューターだろう」
「わー、BC5のソフトとコントローラーじゃん! けど、ソフトだけ……あ、本体もちゃんと届けてくれたじゃん!」
ピコリが少し遅れて大きな箱の中身を見て、目を爛々と輝かせる。
その手には、いくつかのディスクのパッケージがあった。
それが入っていた小さい方の箱から、ユノスは便箋を取り出し、中身を読み上げる。
「『高校合格おめでとう、コーリンちゃん、マジナちゃん、サバキちゃん、ピコリちゃん、ユノスちゃん、ルシェヌちゃん。これはそのお祝いです、入学までの暇をどうぞこれで潰してください 飯島ロスイ』だって」
「飯島ロスイ……あの社長さんか。この大きい家然り、母さんの社長職然り、とことん粋なことするねぇ」
「で、BC5って何だ? 羊羹にしては随分と洒落た呼び名じゃねえか」
ピコリは言う。
「羊羹じゃないから。これはゲーム機! それも、つい数年前に発売されて、ちまたで話題になってる『BC5』だよ!」
「「「「ゲームって何?」」」」と、コーリン、マジナ、ユノス、ルシェヌは揃ってピコリへ尋ねる。
「まぁ、えっとね、あれだ、うん。こう、ボタンをポチポチして何かする奴だよ」
「説明下手だな、ピコリ……」
「悪かったね、サバキ姉さん。かくいうサバキ姉さんは……ゲーム知ってるの?」
「この前(※第10話参照)ピコリと一緒にゲームセンターに行ったから、多少はわかる。ただ、これのどこが特別すごいんだ?」
「まず、ゲーム機史上初の次世代高画質描写機能を搭載してて、今まで以上のインタラクティブな表現を出来るようになってる。
次に前世代機『BC4』を遥かに超えるCPUを使用し、数百ギガバイトのソフトすらも軽々動かせる……」
「ピコリ、貴様さては混乱魔法を唱えているのかえ!?
やめるのじゃ! それを食らい続ければこの魔王ルシェヌのおミソが爆ぜ飛んでしまう! それに魔法はアタシの専売特許なのじゃ、貴様ごときが使うでないのじゃ!」
「ご、ごめん……あ、話逸れるけど一つ聞いていいルシェヌ? 何であなたの魔法の名前には『ロールフォアード』とか『アライアンス』とかやたらと意識高い系の言葉が入ってるの?」
「知らん! 魔法の名前なんか適当につけといてるのじゃ!」
マジナはおでこに手を置いて言った。
「話がとっちらかってるよ、二人とも。それでみんな、結局、このゲームはどうするの?」
「やろうよ、ロスイさんからありがたく頂いたんだから」
と、提案しがてら、ユノスはアザレアとの共同作業の元、ゲーム機とテレビの接続を終えていた。
「アザレア、お前生きてたのか……?」
役目を終えたアザレアをベレー帽にしまうと同時に、ユノスは言う。
「バックアップデータがあれば何回でも復活できるって言わなかったっけ?」
「そういえば、そっか。アザレア共々あんがとよ。よし、じゃあ遊ぶか……で、どうするんだ?」
ピコリはBC5の中央にデカデカと位置する丸ボタンを指さして、
「ここの電源ボタンを押すの」
「電源ボタンってどれだ? この上の紋章か?」
「それは発売元のロゴ! ウチらの作者もリアルにそんな経験して五分ぐらい立ち往生したことあるけどさぁ……こっち!」
このままグダるのもよくないし、親愛なる読者様に悪質な尺伸ばしと思われるのを恐れ、ピコリは自分でボタンを押す。
(というか、ウチが指さした時点で押せば終わってたじゃんこれ)
するとテレビは、サイバーかつオシャレチックな初期設定画面を映す。
「わぁ、すごい。これがゲームか。今の時間を教えろって聞いてくるなんて、図々しいね」
「これは初期設定っていうゲームを始める上で必要な条件を入れる画面で、ゲームそのものじゃないから」
ピコリは初期設定をチャッチャと済ませ、ようやくゲーム本編を始められる体にした。
「よし、じゃあまず、何のソフトから遊……」
コーリンが言う。
「ちょっと待て。このインターネットブラウザって何だぁ?」
サバキがこれに答えた。
「平たく言うと、ネットのサイトを見れる物だ」
ピコリはソフトをいくつか持って、皆に呼びかける。
「そんなことよりさ、みんなはどのソフト遊びた……」
コーリンは「あー、あれな」とうなってから、。
「ユノスとか母さんとかが見てるアレか。よし、試しに見てみるか。えっと、どうやって見るんだ……」
ルシェヌは箱から出したコントローラーの一つを手に取って、閃いた。
「わかった、この変な形のリモコンを使うのじゃ。多分この十字の奴を押せば……ほら! 動いたのじゃ!」
「じゃあルシェヌ。インターネットブラウザを決定して」
「アタシに指図するでないのじゃマジナ。えっと、決定は……」
ユノスは画面最下部に描いてある操作説明を発見して、
「画面に決定ボタンが何か描いてあるよ、ルシェヌ」
「あっ動いた、本当なのじゃ!」
「あのー、ソフト……」
ピコリを置いてけぼりにして、他の五人はテレビに映るブラウザ、それも自動的に誘導された大手検索エンジンのホームサイトに夢中になる。
「このニュース欄を見ろ、コーリン。あの代議士が交通違反だと……たるんでいるな」
「相変わらずやる事なす事、それと見る事がお硬いな。サバキ。
オレ的には……ルシェヌ、ちょっと表示を下に下げてくれ」
「任せろなのじゃ」
「あー、そこ、そこ! へー、あのクイズ番組が来週特番で二時間になるのか。気になるなぁ」
「私はニュースよりも、下の服の写真が気になるな。ルシェヌ、全身見たいから画面を下に送って」
「はいはいなのじゃ」
「ありがとルシェヌ。えー、この格好は無いでしょ。まだ春前だってのにこの薄着具合だよ? 暴漢に襲われたらものの数秒で破られそうな……」
「えー、次の日曜日雨なのかえ!? これじゃあお母さんとデート行けないのじゃ……」
「じゃあその日はボクはじっくりと漫画を描こうかな」
「ちょっとみんな! ゲームはしないの!? さっきからソフト入れようってウチ張り切ってるんですけど!」
「そうだったね。ルシェヌ、ブラウザ消して」
「わかったのじゃ。って、何故にアタシがリモコンいじり担当になってるのじゃ……?」
ルシェヌはあれこれボタンを模索し、ブラウザを閉じてホーム画面に戻る。
「よし、じゃあまずどのソフト入れる?」
「適当に選べよピコリ。どうせ全部面白いんだろ?」
「わかった、じゃあ、これ」
ピコリはBC5の本体に、ソフトディスクを入れる。テレビ画面で、ソフトの読み込みが始まる。
最中、ユノスがあることを見つける。
「このマーク、ボクどこかで見たことある。そうだ、あの動画サイトのマークだ。もしかして……」
ユノスはもう一つあったコントローラーを手にし、動画アプリを起動する。
「こら、リモコンはアタシが全て管理したかったのじゃ!」
「まぁまぁ、かっかしないで……で、これは何だい?」
「あれだ、最近しばしばニュースで見かける、バイト先の店のショーケースに入ったり、品物で遊んだりする、悪ふざけが過ぎる連中の動画の保管所だ。まさかこんな簡単にアクセスできるのか……」
「サバキ姉さん。『WeScreen』はSF映画にありがちな国家機密保管庫みたいなところじゃないし。そういうヤバい輩がコンテンツの全てじゃないから。そして、あのー、みなさーん、まーた脱線してま……」
「おっ、あの芸人のコントがあるじゃねえか。ちょっと観ようぜ。ユノス、やれ!」
「うん」
「ははは、やっぱこいつら面白え! 人となりの時点で仕上がってるから開幕面白え! 誰がどいつかマジでさっぱりわかんねえけど」
「姉御、それが終わったら関連動画見せてくれない? 『コーヒーどんなお菓子でもわりと合う説』って私すっごい興味あるんだけど……」
「もうみんな! ゲームはどこいったんですかー!」
というピコリの叫びは、むなしくも動画に食いついた五人に無視された。
【完】




