第18話 ルシェヌ伝:in異世界『ブレイヴァード』
ブレイヴァード――剣と魔法のファンタジーの異世界の名だ。
そこは今、偉大なる最初の勇者、エーディン・ブレイヴァ―が設立した勇者学園と、魔王による飽くなき戦いが勃発していた。
そこに、一人の少女が送られた。
*
刮目せい、驚愕せい、そして戦慄せい! アタシの名はルシェヌ、魔王であるのじゃ!
今回はこのアタシがどのようにして魔王の座を頂いたのか、徹底的に脳髄に叩き込んでやるのじゃ!
そうじゃな、どこから始めていこうか……そうだ、異世界に飛ばされてから三年後くらいじゃ。
その頃のアタシはチンケな村のチンケな村娘として、暮らしておった。
ある日、アタシはそこでの偽の母親に『木の実を取ってこい』と頼まれ、森を歩いておった。
最中、ひょろっとして、耳がとんがっている見知らぬ男の人に出会ったのじゃ。
「これはこれはお嬢さん、こんな森の奥で何をしているのです」
知らない人についていっては行けないと、お母さんに教わったから、ここは一旦無視した。
「私はピュイドーム。今のところはただの田舎者であります。ではお嬢さんは?」
じゃが、しばらくして名乗り出てくれたので、付き合ってやることにしたのじゃ。
「ルシェヌ、八歳」
「ほう、ルシェヌ。いいお名前ですねぇ。で、こんな森の奥で何をしているのです」
「木の実取ってたんだ、お母さんに言われたの」
アタシは自慢げにカゴをピュイドームに見せた。
ピュイドームはわかりやすく頭を抱える。
「ああなんてことだ、こんなにもいい子過ぎるなんて、もったいない」
この頃、アタシは偽の母親の言いつけで常に頭巾を被せられていたのじゃが、ピュイドームはそれを優しく取り、アタシの尖った耳を撫でた。
「ルシェヌ殿、あなたは悪魔なのに、こんな所でほのぼのとしていいのですか?」
「悪魔ってなあに?」
「まずそこからかいっ!? いや、恐らく親の意図か……
ゲフンゲフン、悪魔というのは、とっても強くて頭のいい、この世界を本当に支配するべき人達です。
その中でも、一番すごい人を、魔王といいます」
「ふぅん。だから?」
「ルシェヌ殿、あなたは悪魔です、しかも魔王となるに相応しい実力を持ってます。だからこの私と共に……」
「別にいいや。何かめんどくさそうだし」
「ちょっ、待って、魔王になれば何でも好きなことができますし、好きな物何でもゲットできますよー!」
ここでアタシは思い出し、目覚めた。今までの垢抜けたアタシが憎ったらしく思えたのじゃ。
アタシは確信したのじゃ、魔王になれば、お母さんを独り占めできると。
「え、本当に!?」
「うん、ほんとほんと、おじさん嘘つかない」
「わかった、じゃあアタシ魔王になる!」
「よし、じゃあ一旦おじさんのお家にいこうか、色々お手伝いしてあげるから」
三日後。
「あなた、ルシェヌは見つかった?」
「ダメだ、村中の男たちに手伝って貰ったが、見つからない……」
「本当にどこに行ったのかしら。あそこの森はモンスターも無害なものばかりなのに……」
「もうしばらくしたら近くの都市から勇者が何人か派遣されるらしいが、万が一があったら……」
「まって、あなた! 何か外が騒がし……」
「『フオーコ・トリ』」
アタシは元いた村に、ピュイドームの手ほどきを受けて育った火魔法をぶちまける。
村はまたたく間に、火の海に成り果てた。
「おおっ、流石私の見込んだ通り、たった三日でここまで成長するとは! 素晴らしいッ!」
「ねぇ、ピュイドームさん、ここアタシのいた村だよ、ここまでする必要あるの?」
「ありますともありますとも! この村は魔王になるはずであったあなたをダメにしかけた所ですから!」
「あっ、そっか、そうだね」
実際、アタシの母親を偽った奴も紛れておるしな。え、その後村人はどうなったかって?
さぁ、知らん知らん。知ったところでどーせコゲコゲじゃろうし、炭の話をして誰も喜ばんじゃろ。
「よし、これがこの名臣ピュイドーム様の武勇伝の第一ページとなろう……ぐふふ、勇者公認の魔王となって従属した裏切り者にして、この私を家臣から爪弾きにした魔王子め、今に覚えてい……」
何やらゴニョゴニョ言ってたピュイドームが黙りおった。
ビィーン、と、奥の壁に刺さった矢の震える音が、色々燃える音に混じって聞こえたのじゃ。
「くっそー、あと数時間早く付けば……みんな、今は人命救助は後回し! まずは、あの二人の悪魔を成敗しよう!」
何やら宝石イッパイでキラキラの弓を持ったイケメンが、魔法使いやら格闘家やら神官やらのその他女集団を引っ連れて、アタシ達の前に立っておった。
「おいピュイドーム。奴らは何者なの?」
「『勇者』ですな。この世界を支配し、好き勝手我々悪魔を殺す極悪非道な連中ですぞ!」
「虚言を吐くな、この村滅ぼし! 貴様らの身勝手で殺された者たちのため、正義の名の下、貴様らをあの世に送ってくれる!」
イケメンは弓をアタシ達に向け、弦を上から下に指でなぞる。
するといつのまにか弓に三十本近くの矢がかかっており、それらが独りでに発射されたのじゃ。
弓使いの攻撃スキル『ガトリングアロー』。
一度にたくさんの、強力な威力を持つ矢を撃つ、勇者の中でもとりわけ稀な才能を持つ奴が使える技……
「だからどうしたの! 代わりに貴様らが地獄でも天国にでも行きなさい!」
……という、どうでもいい解説を耳にひそひそ入れてくるピュイドームを一旦どかし、アタシは勇者連中に火魔法を連打。
そいつらもあっけなく燃やしてくれたのじゃ。
「おお、素晴らしいですぞ、魔王様! いよっ、世界一!」
「あーあ、可哀想。こんな弱っちい連中にぶちのめされる悪魔が。
ま、多分さっきの話はどうせ奴らのハッタリでしょうね」
「えー、ではでは、次に参りましょうか?」
何が『ではでは』じゃ。さっきは何もせずにどうでもいい技の解説なんてしおって……コホン、こんなことにいちいちキレていては疲れるので、
「次ってなあに?」
と、アタシは子供っぽくピュイドームに質問した。たまには愛嬌も振りまいておいて損はないじゃろ。えっへん。
「この近くに国直轄の都市があります。あれを陥落させれば我々の名はまたたく間に広まり、敵は怯え、味方が集まるでしょう」
かくして、アタシとピュイドームは、近くの都市へ行ったのじゃった。
「プロエルメス様、敵襲です、敵襲です!」
「その数はいかほどか」
「二名の悪魔です!」
「たった二名の悪魔!? それでこの大騒ぎであるか!?」
とか、城内でゴタゴタやってる間、アタシは街でピュイドームさんの言う通りに好き放題暴れさせて貰ったのじゃ。
火魔法を放てば建物は焼け、水魔法を放てば壁は割れ、土魔法を放てば道は崩れ、風魔法を放てば兵は薙がれ、氷魔法を放てば兵器は凍て、雷魔法を放てば軍は散る――完全にアタシの天下なのじゃ!
「もう少しで城ですな、あれを乗っ取り、勝ったと堂々叫べばこちらの物ですよ!」
「よーし、お母さんのため、お母さんのため」
「待たれぃ! この地の諸侯にして、薄紫の鎧、プロエルメスが目に入らぬかぁ!」
城の門が突如として開き、ドカドカと歩き、薄紫色の重そうな鎧を着た男がやってきた。
「貴様か、我が領土に乱暴狼藉を働く悪逆の忌み人、悪魔どもが!」
「悪魔ども? 何と機知に欠ける呼び方ですな。
控えぃ! 私の名は名参謀、ピュイドーム。そしてこのお方こそが、誉れ高い次期魔王、ルシェヌであるぞ!」
「そうだー! はやく負けちまえ!」
「ふん、かくなれば、武を煌めかせるのみ!」
鎧の男は自前の大剣を持ち、アタシたちに斬りかかる。
双方別々の方向にそれをかわし、
「『テレリノ・トリ』!」
男の行く先より尖った岩を出し、奴の腹部に強烈に突き立てた。
だが男はケロッとして立ち上がった。
「まさか、ルシェヌ殿の魔法を耐えるとは!?」
「この鎧は私の勇者としての経験の証、『封魔の鎧』! 尽くの魔法を吸収し……」
男はなかなかの速度で、アタシに斬りかかる。
「己の力とする!」
「『ギアッチョ・トリ』!」
アタシはとっさに氷の剣を作り、男の大剣を受け止める。
どうやら大剣には奇妙な力はないようじゃ。が、かといって弱いっていうわけでもない。むしろいちいち一撃が重い!
避けるか防ぐかの二択以外できない、ジリ貧な勝負になってしまったのじゃ!
「なら、こうだ!」
アタシは地面に転がっていた適当な瓦礫を蹴っ飛ばし、男に命中させる。今回はのけぞった、これはきっと効いたに違いないと思ったのじゃが……
「阿呆。その程度が受け止められねば、鎧と呼べんだろうが!」
そいつは一瞬で体勢を直したのじゃ。
万事休すか。と、一瞬過ぎった、じゃが……
「ルシェヌ殿、ひるまないでください! あなたには、欲しいものがあるのでしょう!?」
アタシはここでくたばれんのじゃ。お母さんに、アタシだけを愛して貰えるようにするには! 魔王にならなきゃいけないのじゃ!
アタシは男を睨み、両手を組み、力を込め、雷を集める。
「改めて教えておく、魔法は、絶対に効かんぞ」
「違う、これはただの魔法じゃない……アタシの作り上げた……」
まばゆくなった両手を解き、
「とびっきりの魔法、名付けて、名付けて……えっと『迅き雷のアライアンス』!」
どえらい量の稲妻を、奴に命中させる。奴の言う通り、いくつかの稲妻は鎧に吸われた、だが、アタシの稲妻の量は、それの容量を凌駕するのじゃ!
「なっ、鎧にっ、ヒビが……ああっ!?」
そして鎧は無様に粉微塵、奴は真っ黒焦げになったのじゃ。
「やっ、やったぞぉぉぉ! ははっ、ばんざーい、ルシェヌ様ばんざーい!」
この後、アタシとピュイドームさんとで残る敵を清掃し、アタシは奪った城の展望台より、夕焼けに照らされる城下街を見下した。
「今回の件でルシェヌ殿の名は轟きました。きっと近々に同志が集まってきましょう」
「そうなれば、アタシが魔王になるってことだよね?」
「はい、そうです。あ、ここで一つアドバイスをしてもよろしいですか」
「何?」
「魔王は基本、偉さを出さねばいけませんから、もっと強そうな喋り方をした方がいいかと思います。例えば、言葉の終わりを『のじゃ』にするとか」
「へぇ、そうなのじゃ?」
「そうそう、そういう感じです」
そして、これからアタシの快進撃は続き、万民より魔王と畏怖させる存在に、このルシェヌはなったのでした。
ははは、どうだ、参ったかなのじゃ! これがアタシの伝説の序章なのじゃ! さぁ、皆の衆も姉五人と共にひれ伏すがいいのじゃ!
……え、最終的にアタシはどうなったのじゃって? そ、それは……勝手に察せばいいのじゃ! 不要な深入りをするでないのじゃ!
もっともっと強い勇者と本物の魔王にコテンパンにされたなんて話したら、悲しくなるからいやなのじゃ!
【完】




