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第15話 サバキ伝:in異世界『ギアニマル』

 ギアニマル――魔法に頼った人類が滅び、獣人が機械技術を発達させつつ新たな支配を成立させた世界の名だ。

 そこは今、『先祖返り』なる、禁じられたはずの魔法に手を染めた犯罪者により、世を乱されていた。

 そこに、一人の少女が送られた。


*


 異世界に来てから三年後の話だ。


「というわけで、彼女が今期唯一の新入り、サバキ・ミツキ、コードネームは『ケルベロス』だ」


 と、言いつつ、銀髪の壮年の男――長官は自分の背中を押した。


「自分はまだ至らない所が多分にあるだろうから、その辺りは先達にご指導頂きたい。以後、よろしく頼む」


「へん、えらく堅苦しい野郎がきたじゃねえか」


 真っ先に、長官の青年期を彷彿させる青年が声をかけた。


「自己紹介してやる。俺はヒーケルス・ガロウズ、コードネームは『マカミ』、後ろのジジイの息子だ。よろしくな」


「よろしく」

 と、だけ、自分は返した。

 別に自分は馴れ合いは好きではないからな。業務に関係ない無駄なやりとりは必要あるまい。


「こいつ、イマイチ乗りがよくないぞ? 親父、今季の養成方針はどんだけスパルタだったんだ?」


「いつもどおりの教育だった。今季の人員はここへの過酷さに耐えられなかった。それだけだ」


 長官は他の先達に自己紹介を振る。

 その時、タイミングがいいのか悪いのか、部屋に取り付けられたサイレンが点滅し、


『連絡連絡、第三行政区に魔法使用者の報告あり、直ちに急行せよ』


 と、アナウンスされる。


「行かねばなりませんね。長官」


「ああ、これがお前の初任務だ。ヒーケルス、それとパラシノ、サバキを連れて現場へ急行せよ」


「「「了解!」」」 


 六分間、自分はパトカーに揺られ、現場に到着する。

 パトカーを降りて真っ先に見えたのは、今回の現場――回転寿司屋だった。


 店先で待っていた、店長とおぼしき熊耳の男は言う。

「あ、あなたたちは、断退警察で」


「はい、左様ですわ」

 と、雨も降っていないのに傘を肌身放さず持つ、ウサギ耳の女――パラシノ殿は返した。


「では、ささっ、こちらです」


 店長に連れられ我々は店内へ。

 まず、我々は不機嫌な面相と汚い身なりの客と、彼が座っていただろうカウンター席に目をやる。


「で、ここで何があったんだ?」


 店長はそのカウンター席に指差しながら、説明をした。


 自分なりに話をまとめる。


 この店は各席に皿投入口が設けられており、食べ終わった皿はそれに投入され、裏の流しへ行く。


 投入口には投入されて皿の枚数をカウントする装置が備わっていて、それで料金を計算する。


 本事件の争点は『この客は明らかに寿司を大量に食ったのに、カウントの値があまりにも少ない』こと。


 計測システムの不調では、と、思われたが、それは違う。


 ならば何故だ、ああ、魔法か? と、店長は焦燥して我々を呼んだのだ。


 ここで客はキレる。

「ったく、んなおかしな話があるかボケ! 機械の調子が悪かったで済む話だろうが! 早く俺を店から出せ!」


「とは言われましてもこれでは、ことの辻褄が合わないのですよ。どうか、ここは押さえてください」


 店長が怒り猛る客をなだめる間、我々は調査を開始する。


「じゃあパラシノはカウント装置を調べてくれ。新入りは、監視カメラの映像を」


「ふふっ、後輩の前だからって張り切ってますね」


「はっ」


 自分は警察汎用タブレットを用い、断退警察の権限によりこの店の監視カメラの映像をダウンロード。それをヒーケルス殿に見せる。


「うん、確かにガツガツ豪勢に三〇〇円ネタ食ってるし、皿を投入口に入れてるな」


 パラシノ殿はカウンターテーブルの下から這い出て、こう追って言う。


「この測定器を改めて分析しましたが、やはり一瞬の異常すらも観測できませんでした」


「うーん、困ったなぁ。なぁ、新入り?」


 ヒーケルスはそう自分に同意を求めてくる。

 が、生憎、自分にはちょっとした解決の糸口を握っている。


「店長。この計測器はどうやって、皿を数えているのですか?」


「えっと、確かレーンの中にセンサーがついておりまして、それが皿が通り過ぎたことを認識し、カウントします。

 ちなみにこのセンサー、仮に皿が二十キロで通り過ぎても読み込めます」


「そして通り過ぎた皿は裏の洗い場へ行く。なら、どうやら手がかりはそこにあるはず。 店長、この人が食べた皿を持って来れませんか?

 それを分析すれば、カラクリがよくわかるのですが」


 店長は驚き、か細い声で、

「あの、投入口に入った皿は、誰がどうした関係なく、調理場へ流れて行くというので……かなり気の遠くなるのですが……」


 自分は彼を安心させるべく笑みを作って、

「大丈夫です。この人はやたらと一皿三〇〇円のネタを食べているので、それに絞って探せば、一枚二枚は容易く見つかると」


「おおっ、なるほど! よし、店長、俺からも重ねてお願いします!」


「はっ、とことん協力させて貰いま……」


「おい、いつまで客を軟禁する気だ!」


 とうとうかの客の堪忍袋の緒が切れたか。彼は自分が座っていた椅子を左手の平で叩く。

 叩かれた椅子はアイスクリームめいてゆるりと溶ける。


 ヒーケルス殿は一言。

「馬鹿だなお前……これでもまだシラをきる気なら、見せるもん見せろ!」


 ヒーケルス殿は男の左手首を掴み、無理やり手の平を開き見せる。

 そこには魔法陣が彫られていたのは、訓練の成果故に、予測しやすかった。


「これは魔法陣って言ってな、学のない下手ヘタくそでも魔法を放り出しやすくなる、下手クソが下手やらかしに手ェ伸ばした証拠だ!

 パラシノ、お前はこれの意味読めたよな!?」


 パラシノ殿は男の手のひらの魔法陣に混ぜられた、古代文字――放つ魔法の効果が書かれているのが大半――を解読する。

「『触れた物全て溶かす』ですね。これで皿を投入口に入れつつ、溶かしてセンサーを誤魔化していたのでしょう」


「ちっ……それがどうしたってんだよ!」


 客はヒーケルス殿に左手の平を向ける。その前にパラシノ殿が客の首に傘を叩きつけ、気を失わせた。


「それでは、経緯は署でたっぷりと吐かせてさしあげますからね」


*


 寿司屋の一件を片付け、我々は帰路についた。

「いやー今日は楽勝だった。見たか、これが俺の働きっぷりだ、しっかり見て盗めよ!」


 パトカーの運転中、ヒーケルス殿は自慢を述べる。


 助手席のパラシノ殿は、バックミラーで自分をチラチラ見つつ言う。


「ヒーケルス、あなた、困ったようなことを言いませんでしたか?」


「あれは、新入りに華をやったんだよ……俺の得意分野は荒事対策だし、な」


「そうなのね、わかったわ……まだ暇ね。なら、サバキちゃん、何か質問は無いかしら?」


「失礼かも知れませんが、二人方は、どことなく、ゆるいですよね」


「逆よ逆。昔はあなたみたいなガチガチの人は来なかったわ。

 その頃は本部の警察側から、腕のある人を移して人材確保してたのよ」


「けど、ある日を境に、断退警察は烏合の衆から、真面目な狭き門に変わった。

 サプライヤーズ事件。十年前、週末故に賑わう大型スーパーで、先祖返りたちが魔法により大量殺戮を行った。

 勿論断退警察も出動した。だが、騒動はまるで鎮圧できず、断退警察も一名のみが情けなく帰ってくるオチになった」


「それは、まさか長官で……」


 ヒーケルス殿は重たくうなづく。

「……以来、親父は変わったよ。断退警察を真っ当に強くするべく、最高に厳しい奴になった。サバキのほうがわかるよな、あの訓練は」


「はい、苛烈以外の何物でもなかった。ためにはなりましたが」


「本当、私たちは運が良かったですこと。なんせその前に内定を取れたのですからね」


「『犬死にするような奴はいらない。先祖返りたちが絶滅するまで』、親父の少し前の口癖だ。

 それを聞いて俺は思ったんだ……」


 その時、近くにあったビルが、突然と崩れ去る。

 何だ何だと我々はあちこちの窓を見ると、フロントガラスに、どこかで見覚えがあるが、どちらかというと記憶に新しい男が飛び乗った。

 

「おいお前ら、俺の弟を知らないか?」


「これは護送車ではありませんよ? そこのところよろしくて?」


「じゃあその護送車は今どこを走ってる?」


「そんなこと、先祖返りたちに言うと思いますか?」


 パラシノ殿の傘による強烈な一突きが、フロントガラスを貫き、男の魔法陣が描かれた手の平に当たる。

 そして男は、弾けるように車から吹っ飛び、パトカーは大きく揺れ止まった。


「魔法陣の内容は読めませんでしたが、これは恐らく、大きな衝撃を起こす魔法でございましょう。

 そして、あの方はきっと、先程壊れたビルを踏み台にして、こちらまで飛んだのでしょう。

 私は事態の整理を図ります。ヒーケルスさん、ほら、私と違って、待望していたであろう荒事ですよ」


「わかった。よしサバキ来い! 今度こそ俺の仕事ぶりを見せてやる!」


「はっ!」

 この時、自分は『あまりよくないことだが』、ヒーケルス殿を心の中で軽く罵った。

 やはりさっきの事件では本領発揮出来ていなかったのだな、ヒーケルス殿。とな。


 そしてこの時は知るよしもなかった。後に、ヒーケルス殿をさらに軽蔑することになるとは。


*


 自分はヒーケルス殿に続き、男が飛んでいった場所へと駆ける。

 断退警察汎用装備の加速装置付きシューズにより、追いつくのは楽々だ。


「やはり来たか、断退警察! さぁ、弟を早く釈放しろ!」


「その前に言わせて貰う。さもなくば、俺たちを殺すと思ってるんだろう! なら答えは一つ、やなこった!」


「正解!」


 男は近くにあった空き缶のゴミ袋を取り、こちらへ放る。

 袋は破け、中身の空き缶は奴の魔法を乗せているがために、弾丸の如く飛んでいく。


 だが自分はそれを読め、なおかつ止める術がある。自分は前方へ手を突き出……


「無用だサバキ! もう一度言う、俺の仕事ぶりを見ておけ!」


 中断して、自分はヒーケルス殿の仕事ぶりを観察する。

 私と同様に両手を前方に突き出し、自分を包むような緋色の球形のバリアを貼る。

 

 それに命中した空き缶は、ぬるっと表面を滑り、やがてカランと地に落ちた。


 ヒーケルス殿はバリアを両手それぞれを包む程度の大きさに変え、男に殴りかかる。


 男はヒーケルス殿へ衝撃を放つが、バリアはそれすらもいなし、拳を顔面で受ける羽目になった。


 ここで後に聞いた話を用い、解説を入れるとしよう。


 ヒーケルス殿は、万物強制流動バリア発生機なる、ゴム手袋のように手にはめるタイプの武器を装備している。

 その効果は、機器名がすでに表しているが、余程の質量・速度ではない限り、ぶつかってきた物をバリアの形に合わせて受け流せる。

 先程の空き缶も、衝撃も、これによりいなしていたのだ。

 余談だが、ヒーケルス殿のコードネーム『マカミ』は、この装置を厄除けの霊獣とされる真神に重ねてつけられたとか。


 さて、男はどうなったか。ことごとく必死の表情を見せるヒーケルス殿に殴打されているではないか。


「くそっ、こうなったら、こうだ!」


 分が悪いと判断したか、男は衝撃を活用し、後ろに飛び続け、逃げ出した。


「また追いつけるのに、無駄な抵抗しやがって!」


 これより、自分とヒーケルス殿はひたすらに逃げる男を追い続けた。

 その中で、自分は後輩として、問いを投げかけた。


「ヒーケルス殿、先程から表情が異様にこわばっていますが、これは一体?」


「魔法が親父を変えたんだ、なら、魔法がなくなれば、親父はきっとまた元に戻ってくれるんだ!

 なら、俺は、それまで必死にならなきゃいけないだろうが!」


 いつしか、我々は街の郊外の、貧困街にたどり着いた。そして、そこで我々は、行き止まりに追い込み、男との距離を縮められた。


「追い詰めたぞ、貴様! さぁ、早く縄につけ!」


 この時、自分は気づいた、縮められたのは、男の目論見あってだと。


「お父ちゃん! この人たちは……」

「おいら、お腹空いたよぉ」


 男の背後から、ぞろぞろと、奴に似た雰囲気の子供たちが現れる。


「なっ、こいつらは……」


「俺の子供たちだ! 元妻が押し付けてきたんだ!

 お、だから生活が苦しくって、弟と協力してもまるで良くならなくて、魔法に手を染めてたんだよ!

 弟の魔が差したのは、俺が謝る! だから、助けてくれ! わかるだろぉ、育てる奴がいなくなったら、子供はどうなっちまうか!」


「親父……」


 ヒーケルス殿は、恐らく先祖返りたちに呪われた父親のことを重ねたのだろう。

 この時、当人は、明らかに臨戦状態を解きやがっていた。

 

 だが一方で、自分は両手よりゲルを発射し、やかましい子供を壁に貼り付け、黙らせた。


「サバキ……見てろと言っただろうが!」


「見てられないからこうしたのだ! 奴と貴方、二人のせいでな!

 家庭を維持できなかった、生活を維持できなかった、だからなんだ! 例えどんな事情があれど、罪は罪であり、理は理である! それが解せないのは、つくづく愚かなこと! 

 断退警察コードネーム『ケルベロス』、貴様を厳粛に裁く!」


「この、クソ警察がぁぁ!」


 男はまたしてもゴミ袋を掴む。だが見飽きた!

 自分はそれよりも早く、奴にゲルを放ち、強引に纏わす。


「な、何だこれは! 魔法でも取れない! しかも、段々力が抜けてい……」


「魔法使用者に対し、絶大な効果を及ぼす粘性毒物『ルマ』だ。先祖返り共にふさわしいだろう、ありがたく思え」


「お、お父ちゃん! 助け……」


 そして自分は、ヒーケルス殿以外の他人にさらなるルマを放出し、完封した。


「さて、パラシノ殿に連絡せねば」


「おい、サバキ。子供にまで撃つとか、お前……」


「安心しろ、致死量には程遠い。これは楔だ、いち早く、魔法が潰える時を呼ぶための、平和のための厳正の一貫だ」


「……ちっ、わかった。今の所は同情してやる」


*


 断退警察、いやここの警察は国民の規範として、常に厳正たる言動・生活を求められる。


 ただし、ある僅かな時は、ねぎらいとして法を犯さない程度の、一般市民と同等の生活が許可される。


 それを我々は、無礼講と呼んでいる。


「さ、たんと食べなさい、サバキちゃん。あなたは断退警察の希望ですわよ」


 その日は数日後にやってきた。

 自分は大好物の鶏軟骨を食べに焼き鳥屋に行こうとしていたのだが、パラシノ殿が歓迎をしたいと、自分を寿司屋に引っ張った。


 そして今、自分はパラシノ殿によってイカの握りをあーんされていた。


「おいしい、おいしいですよねぇ? この調子でどんどん食べて、どんどん大きくなりなさい、胸の方もその兆しが見えていますし」


「いいかサバキ、こういう状況はハラスメントと言うんだぞ」

 と、同じくパラシノ殿に連行されたヒーケルス殿が、自分にそう囁いた。


「いえ結構。上司はいかなる場合でも、最低限の尊敬の念を持たねば。と、自分は叩き込まれていますので」


「ふぅん。全く、魔法ってのはとことん恐ろしい。仮に仕事が終わっても、こういうガチガチな奴は残っちまうんだからなぁ……」


 以上が、自分の異世界での日々の一節である。

 この後も自分は厳格をぶらさず、徹底的に先祖返りたちを締めていった。


 全く、突然の元の世界の帰還がなければ……


【完】

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