第6話 魔性の男
6時間目は魔法の実技なのだが、3年生からはほぼ自習のようなものになっていた。
まぁ2年生までで基本の魔法は習い終えているため、みんな各々のほほんと魔法を使って過ごしている。あっちでは一面お花を成長させているし、違う場所では空を浮いて遊んでいる。それを先生が回って指導するような形だ。
私は水魔法で水浴びでもしようかな、とか考えながら呪文を思い出そうとしていた。もちろん思い出せない。日々身体強化魔法くらいしか使わないわけだから、まぁ忘れて当然ではある。試験とか実習では手にメモをしておけば大丈夫なのでそんなに困らないのが唯一の救いだ。
でも次の武術大会までに魔法は上達させておきたい。
「で、クリスは何してるの?」
「ちょっと待ってね」
クリスはみんなから少し離れたところで、どこからか大きな木の棒を持ってきて地面に魔法陣を描いていた。かなり大きな魔法陣で、身近なもので表すとちょっと大きめのテーブルくらいのものである。
魔法陣は紙などに描いておいて呪文を唱える手間を省くものだから、そんなに大きく描くことはめったにない。
「できた」
「それってどういう魔法なの? 木が生えるとかそういうやつ?」
「災厄魔法……の範囲を小さくした感じ」
え? 聞き返そうとしたとき、クリスは木の棒で魔法陣にちょん、と触れた。魔力が流れ込んで魔法が発動する。
これってかなりやばいものなのでは? そう思うよりも前に魔法陣から暴風が吹き抜けた。逃げる暇もなく、巻き込まれそうになって私はとっさに目を強く閉じた。暴風といえばハリケーンとかそういうのを思い浮かべるかもしれないが、そんな生易しいものではない。地面はえぐれてるし、巻き込まれたらどう考えても体がちぎれる。遺書、書いてなかったな。そう思った時、私は体を強く引っ張られていた。
次の瞬間、風がぴたっと止んだ。
クリスが防御魔法を展開して、私はその中に引っ張り込まれていた。
「やっぱり、範囲を小さくすると威力も小さくなっちゃうか」
そう言って艶やかな笑みをクリスは浮かべた。いつもの、前から知っている満面の笑みとは違う笑い方。私はどこかクリスの裏側が見えてしまったような気がした。
ずっと違和感は感じていた。
昔のクリスとはどこか違う。ちょっと泣き虫なところも変わらないし、もちろん同一人物なのはわかっている。でも……大人の男の人の余裕というか何というか。顔がかわいいから、気づきにくかったけど。本当に私たち同い年ですよね?
魔法陣に魔力が流れなくなったことで、風は少しずつ収まった。
後に残ったのはえぐれた地面と、遠くで離れた場所からおびえている先生とクラスメイトである。
その後、クリスはちゃんと土魔法で地面を直した。が、私たち2人は先生にすごい剣幕で叱られた。私に関してはどう考えてもとばっちりでしかない。
「範囲を小さくすれば大丈夫かなって思ったんですけど……」
「あれは家か戦場でやりなさい。あそこまでやるとは思っていなかったわ。それとフォンターナさんは……なんかいい感じに止めなさいよ」
「……」
どうやってあの風を止めるんですか? 私はすごくそう聞きたかったが、説教の時間が長引くのは嫌だったので、口には出さなかった。
あともう1つ怖かったのはクリスの「やっぱり、範囲を小さくすると威力も小さくなっちゃうか」である。クリスは範囲もそのまま、威力も元の災厄魔法を使った(もしくは間近で見た)ことがあるということか。本当に13年間のうちに何があったか、今度聞きたいところだ。いや、やっぱり怖いからいいか。




