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第1話 モテたい

 今日も天気がいい。久しぶりに馬に乗って遊んだ後、私――ノア・フォンターナはテラスで紅茶を飲んで一息ついていた。少しずつ外も暖かくなってきていて、少し動いただけでも額に汗がにじむ。そんな時には、昔遊んだ女友達のことを思い出す。あの子と遊んだ季節もこれくらいの気温だった気がする。これまでの17年間の人生にしては大昔、13年ほど前の思い出である。私より背が小さくて、ゆるふわっとした雰囲気の女の子。よく男子にからかわれて(その子が可愛かったからだろうが)泣いていて、私が助けてあげていた記憶がある。確か名前は――。


「ノアっ!!」


 思い出そうとしていた矢先に、玄関から飛び出してきたお父様の怒声が耳をつんざいた。これは相当怒ってらっしゃいますなぁ。


「どこに行っていたんだ!! 今日は勉強すると言っていただろう!」

「ちょっと乗馬に。だって、教科書なんか読んでるだけで眠くなってくるんだから」

「はぁ、どこで教育を間違えたんだか……」


 そんなこと言ったって、眠くなってしまうものはしょうがない。まだぎりぎり欠点を取っていないだけましだと思ってほしい。


「こんなのだから、縁談も来ないのだ……」

「うげっ……」


 お父様がつぶやいた言葉を私は聞き逃さなかった。それは私の唯一の弱点だった。

 そう、私の友達は9割くらいは婚約者がいる。私にはいない。つまり私は、そこそこ行き遅れてしまったというわけなのである。理由はどこにあるのだろう。趣味か? 乗馬と剣術と山登り。何とも女の子らしくない趣味しかなかった。まぁ、試合観戦とピクニックでごまかせないこともないだろう。じゃあ、私が婚約できない理由は他にどこにあるのか。容姿か? 言われれば目も切れ長だし、髪も肩までの直毛で青みがかった黒髪だし(どうしても重く見えてしまう)、体も細いし。この国でモテる女の特徴である「たれ目・ゆるふわロング髪・ボンキュッボン」のどれにも当てはまっていないわけである。もはやモテる男側のほうが当てはまるかもしれない。とりあえず次の休みに髪を明るい色に染めるか。


「あーあ、世も末ですねぇ」

「そんなことを言ってる暇があれば勉強か刺繍でもしていろ」


 溜息をつく私にお父様は無慈悲な言葉を投げかけた。



 次の日、学校で私は――眼鏡をかけて本を読んでいた。ちなみに眼鏡には度は少しも入っていない。全くの伊達である。少しでも自分を知的に見せてモテようという算段だ。


「何してるんですの、そんなので婚約者が来るわけないでしょう。大事なのは普段の行いですからね」


 友達のアンリ(婚約者持ち)には呆れられた。ちなみにこいつは来年、卒業とともに結婚する。羨ましいことで。こちらは婚約者さえ見つからないというのに。

文字を読んでいると目が痛くなってきて、私は窓の外の花畑に目をやった。そういえば、昔会ったあの女の子と花を摘んで遊んだ気がする。

 あれは、私が4歳くらいで、たぶん辺境に旅行に行った時のことだった。1ヶ月という短い滞在期間だったが、現地の女の子と仲良くなって遊んだ。そう、ふわふわっとしたロング髪で目がぱっちりしたたれ目の……。……けっ、今はさぞかしモテてるんでしょうねぇ。思わず昔会った名前も忘れた女の子に内心八つ当たりしてしまった。気持ちを静めるためにもう1回本へ視線を移す。


「あら、ノア様が珍しく難しい顔で本を読んでいらっしゃるわ」

「何を読んでいるんでしょうねぇ。薬学かしら、考古学かもしれないわね」

「何をしていても様になりますこと」


 遠くで聞こえた声に、ひらひらと手を振る。キャーっという黄色い悲鳴が聞こえた。ごめんね、私が読んでいるのは『子爵令嬢のモテ術・目指せ玉の輿』です。


「だから、ノアは女性には好かれてるけど男性にはモテないんですのよ。男子にも友達としか思われていないのではなくて?」


 私は親友の言葉を聞いて、深い溜息をついた。玉の輿は私にはハードルが高すぎるらしい。

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