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文明観察日記 ーー ショートショート短編集  作者: はまゆう


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第3話 最も合理的な国

かつてカルタゴは地中海でもっとも合理的な国だった。


畑を耕すより、海を渡ったほうが利益になると知っていた。


兵を育てるより、金で雇ったほうが早いと知っていた。


戦争で消耗するより、交易で儲けるほうが賢いと知っていた。


港には常に船があった。

倉庫には常に商品があった。

帳簿には常に利益があった。


すべては計算されていた。


どの航路が最短か。

どの民族が安く働くか。

どの戦争に関わらなければ損をしないか。


国家は、一つの巨大な企業のように運営されていた。


市民は誇っていた。


「我々は無駄なことをしない」

「感情ではなく利益で動く」

「だから繁栄している」


実際、その通りだった。


だがある時、計算に入っていないものが現れた。


同じ海の向こうに、別の国が現れた。


ローマ共和国。


その国は非効率だった。

市民は自分で武器を持ち、時間をかけて訓練し、損失を出しても戦争をやめなかった。


合理的ではなかった。

だからこそ、止まらなかった。


カルタゴは考えた。


「勝てる戦いだけを選べばいい」

「損をするなら撤退すればいい」

「戦争はコストだ」


ローマは考えなかった。


負けても補充し、失っても動員し、壊れても作り直した。


やがて戦争は長く続き、合理性は徐々に意味を失っていった。


傭兵は報酬を求め、支払いが滞れば離れた。


遠征軍は孤立し、勝っても支えられず、戦略は分断された。


国家は計算し続けた。


「この戦争はいくらかかるか」

「この敗北は許容範囲か」

「どこまで損をしてよいか」


そのあいだに、相手はただ一つの計算をしていた。


「勝つまで続ける」


やがて

計算は一致した。


カルタゴにとって、これ以上戦うのは“割に合わなかった”。


ローマにとって、ここでやめる理由はなかった。


それだけの違いだった。



遠い昔の話である。


だが不思議なことに、

資源を持たず、

海を越えて富を得て、

安全保障を外部に預け、

田畑や家畜を処分し、食料すら輸入に頼り、

効率と利益で社会を設計した国の議論を聞いていると、


似た言葉が並ぶ。


「コストに見合わない」

「現実的ではない」

「合理的に考えれば」


コストパフォーマンスで言えば、すべて正しい。


そして歴史は時々、それだけで敗北した国の記録を残している。


合理とは、短期の損を避けることではない。


だが多くの社会は、損を避け続けた結果、最後に選択肢そのものを失う。


カルタゴは最後まで合理的だった。


だから最後まで、自分が負けるとは思っていなかった。



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