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Ep8:領主ビオ・ダルム

 それは、俺とジグルが養育園生活を送っている最中に起きた話である。


「イシュペータス王国からこの8区は、食糧庫の在庫を再生させるように仰せ仕っている」

「な・・・」

「分からんか?支給された食料を肥料にするのだ」

「こ、これでも精一杯なのに・・・あ、、あんまりだ・・・」

「さあ、渡すんだ。ここに残る食材は王国の食糧庫から得たモノだったのだ!」


“ギイイィ――・・・”


「や・・・、やめ」

「指令が下りたんだ。我慢しろ」


“バタンッ”


「ど――、どうして――」

「往生際が肝心だと子供の頃に教えて貰った筈だろう?分からないか?さぁ、放せ!」


“ガラガラガラ・・・”


「あぁ・・・折角、せっかく保管していた食料がぁ―――ア!!」

「よせ、ドリテル・・・。平民区と言えど・・・。次の支給を待つんだ・・・」



ぅう――――くゥっそおぉォオ―――ッ!!



 一時的に漁区が開放されたし、支給量も僅かに増えていた。だが、イシュペータス王国の大臣達は時折、城内の在庫品整理を行うことがあり、そのついでに食材の入手量を制限する事もあったので、支給される地区へ決められた量を抑える必要があるという。


「領主のダルムに言えば、王国の支給量が元に戻るかも知れん・・・」

「あの領主は元々、記憶喪失だった。何をするか分らん、」

「では、どうすればいい?」

「いい事を思い付いたんだ。耳を貸せ・・・」


 この村、アクスドリーマヌの地は8区に分かれる。

 王国街区、森林猟区、商農製造業区、河川漁区、学園養育区、平民区、開拓区、食肉飼育区と様々だ。俺達フォングラン家はその内の平民区間アーシュリーで住んでいる。全ての区間はひとつの村として仕切られており、人口こそ少ないものの一つの王国よりも領土が広い。その中心区には領主の屋敷が建てられている。

 俺はその周辺の敷地で友達エイダ等とよく遊ぶのだが、そこでは焼き立てのお菓子をくれるという噂が立っていた。

 この世界では貴族というモノが存在するのに、支給される食料のほうが少なくて、そんなの聞いた事も無かった。


「いつもありがとう!おい、ライズ・・・」

「あ、ありがと!ございま――す!!“コクリ”」

「ねぇ、初めましてだね。君はいくつ?」

「俺はこの月で10歳になったばかりだよ~初めまして!おじさんお名前は?」

「僕かい?僕はビオ・ダルム――、次元を超えたもう一人の君だよ」


 彼の名はビオ・ダルムという。この8区の村の領主である彼は年齢70歳とエイダから聞いた。


「ある人が、菓子を分けたら子供が遊びに来ると教えてくれたんだ。すると君が来た。そこで一つの疑問を感じていたところだ。」

「疑問て、その次元という所と関係あるの?」

「そうとも。遥か昔、曲泉の世界というのがあってね、存在していたんだ。僕は誰かと約束して宇宙の破裂に巻き込まれたと思う。そしたらここへ辿り着いていたよ。」



 彼は、“宇宙間バースト”という現象に巻き込まれたと言っていた。だが、そこでは違う名前だったと言い、その誰かにペンダントを渡したことを教えてくれた。彼はその片方のペンダントを持って、この村に訪れたらしい。


「これね、耳に付けると音が聞こえる気がするんだ」

「へぇ。でも、聞こえないよ?」

「ひょっとして、次元の音かなぁ?」

「何言ってるの・・・?」


 だけど“次元という言葉”なんてこの世界では出てこない筈なのに、どうして俺なんかに通じるのか全然分からず、でも“超える”だけなら知っていると答えた。それで他にお菓子は?


「次元を超えて?もう一人の俺?おじさん何を言っているの?」

「言葉を選ぶと―、僕は『ある事故に巻き込まれてこの村へ辿り着いた』だね」

「誰かが教えてくれると誰かが忘れる。それはいつものことなの?」

「誰かが忘れると誰かが記憶にしていく。君は違うだろう?」

「う?うん~(・・・お菓子なら記憶してる・・・)」


 話を交わす内に俺は「じゃあ、いつか別れがやってくるの?」と領主ビオさんへ訊ねた。別れが来るとは“すれ違う”という意味だろうと感じた。するとそれが次元という言葉なのか、とも考えた。だがビオさんはそれを“名前”と表現したのだ。


「それって、記憶が別れると別の名前になること?」

「うん。別れが来たら教えるよ、この名前を―――」


 この日を境に、彼は病に掛かったそうだ。その彼が何という名前かを思い出せず、エイダに聞いても知らないと言う。


「ねぇ、残念だったね。もう俺達はお菓子が貰えない・・・」

「残念なのは病気。彼が生きられる時間はそう、長くは無かったんだろうね」


 これで再びお菓子を貰う事もできなくなり、イルンとエーシャに分けてあげられずとても残念だ。――だけど2年前の当時8歳の俺の意識の奥底にある”何か”は知っていた。俺ではないもう一つの俺が知っている――。

 だが現在、彼、ビオ・ダルムさんはライズ・インバルス。遥か彼方のどこかで何かと戦っていたんだそうだ。しかも『宇宙を感じていた』とも言っていた。

 だがビオさんは、その名が“ライズ・フォーレム”になるのだと言っていた。いずれまた、出逢うことを意味するとも聞いた。それは預言のようにも思えた。


「また、会えるよね!」

“そうだね。再び君と会えることを信じているよ”


 そして領主ビオ・ダルムさんは亡くなった。

 アクスドリーマヌ領の民の中に舌打ちをする者も居た。

 しかし彼の棺には遺体どころか、ペンダントも無くなっていたという・・・。


 それだけじゃない。


 葬儀に参列した領主の妻曰く、ビオさんは生前に“ある女性の名”を口にしていたのだそうだ・・・。


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