Ep5:恥ずかしい思い出
1の月が過ぎて俺は父・リディズの約束に連なるように、ジグルと療育園へ入る事になった。彼はどうもイーターとの相性が良くないようだった。ジグルにとってイーターが母親のようにも見取れたから。
しかし彼の事情を知らない彼女の方から彼の心を開くのも、僅かな起点だったのも、別の意味で不思議な感じがした。
「そう、僕は引き取られた」
「何で?ジグルは何で引き取られたの?」
「言いたくない。だってキミお嬢さんだもん」
「そんなの関係ないんじゃない?子供だけの秘密と言えば?」
「ねぇ、二人とも喧嘩するなよ。おれだって二人の友達なんだよ?」
授業が始まると俺達は席に座って教師の話を聞く。国と民の関係、言葉の稽古、数字合わせに図形を描くことをする。休み時間は庭で追い掛けっこをする。昼は給食も出るのだ。
「ジグル、立ちなさい」
「はい、マスマル先生!何でしょう」
「あなたはイーターの言葉を紡ぐのが苦手ね。たとえばgooの動物がFIIの相手をします。すると大きなFIIの方がgooより強い力で攻めていきますよ?では、どうすればgooはFIIから逃れることが出来るのでしょう!」
「FIIの動きは匂いを嗅ぐのにgooは頭を使って辺りを見回します。するとFIIは匂いを嗅ぐのをやめ、gooはその股を潜り走り抜けていきます。それでFIIは大きな体を揺らしてしまうのです・・・」
「では、イーターはどうですか?gooの友達、drtがやってきました。ところがdrtはgooのお尻を噛みます。するとdrtは何故逃げずにお尻を噛み続けるのでしょう?」
「えっとォ、FIIを見たから。気弱なdrtはgooのお尻を噛み続けることで威嚇しているんだと思う。だからFIIはそこで見続けるの」
教師マスマルはどうすればイーターがジグルの言い分を聞くのか、そしてジグルはどうやればイーターの動きを読み自分で言葉を話すのか聞きたかったようだ。そうしないと養育園での給食だって楽しめないのだと彼女なりに考えたのだろう。親が居るか居ないか。
「そう。だからgooはFIIの動きを読めなかったわ。逆にdrtを見付けたgooはFIIを避けて行ったのでdrtに噛み付かれたの。つまりね、ジグルはイーターよりも賢くて、なのに彼女の行動は読めなくて、遂に遊んでほしいと言われるのよね?」
ジグルは恥ずかしそうに俺を見つめる。まるで子供に遊ばれているかのような顔だった。その手はズボンの両端を掴んで汗を拭いている様に見えた。イーターは何事も無かったかの様にグリマの方へ話し掛けていた。“そろそろ給食だね”と走るような仕草を見せる。
“カチャ、ズズゥ―、ムコムコ―チャン、モクモグ、パクッ、ズズ~ィ”
「ファウロシチューに赤芋が入ってるよ~甘口だねぇ」
「うまっ!¹ヴァグ牛の肉団子とワイン酢がとても合うよぉ~!?」
「ユイニーパン、牛乳も一緒に食べて飲むとお腹いっぱいになるんだぁ~」
※¹ヴァグ地方で育つ牛
それはそうだ。ここで出る給食は王国直属から支給される食材なのだから、美味いだろう。だが俺は家の料理が好きだった。ジグルも同じで俺の母の料理の方が美味いと言っていた。イーターはというと、家族と食べるよりも友達の居る時間帯が嬉しいのだそうだ。
俺もまだ5歳でイーターは3歳から上になるし、ジグルは14歳だ。それはジグルにとってかなり年の離れた者同士だからこそ、同じ授業でお互いを認めるのに時間もかかり、同じ食事を摂るなど恥ずかしいに違いない。俺達はマートンとアニルにダルトンで食べているのにその時間は長く感じられた。
―――楽しいから。
特にアニルがイーターと話題を広げるのにダルトンへ「あなたはいくら食べても太るのね」とからかい、マートンはジグルへ向かって「まだ、食事を終えていない、口から牛乳が垂れている」と説いて教える。
「ちょっとお、ライズそれってどういう意味なのよ?」
「お前らっていつも仲良くやっているけど実は、先生の授業が面白くないんだろう?おれは知っているんだ?ほんとうはもう遊びたいから帰してくれと言っていたのを」
“ゴツン”
時折どうでもいい事で俺が彼女たちを冷やかすと、ジグルが止めに入る。するとイーター達は俺に「ライズはカエルの小便でも飲んでいなさい」と言い出す。これがあと3年も続くとなると、先々がとても愉快で時間の流れるのも長い気がする。
――そして、
俺が7歳の時、イーターが引越した。貴族の地、アブネ・カースへ向かうことを教えてくれた。共に食事を得ていたジグルも16歳になり、あと1年足らずで親戚から別の地へ預けられる事になった。
「ライズ、あんたも元気に暮らすんだよ?」
「分かっているけど、お前の言い方じゃ分からない、」
「まぁ、ライズの場合は僕も面白くない話だと思うよ。なんで貴族なの?」
「この子はね、少し大人の言葉が理解できることが考えられていたの。言葉でなく冷たい目を持っていてね、自分で道を決めてしまうのよ。だから、貴族が良いって言ったら意地でも飛んでゆくのよ。ねぇイーター?」
イーターの母が言うように貴族の地を踏めば、様々に貴重な洋服や電飾などに心躍らせる事だろう。なにせ、イーターだから蛇に睨まれても睨み返すだろうから、恐れる事さえ無いのだろう。貧困、平民、貴族と様々だけど、俺達3人はいずれ運命の輪に導かれるような出逢いが待っているのだろう。
「あんたは分かってないの。私はあんたの好敵手だからね!」
「忘れないよ。それにジグルが居るから、お前も元気で居ろよ?」
「ライズ、イーター、いい友達が僕にも出来たね。ありがとう、」
子供って案外、面白くも儚い夢を抱くモノだと感じる瞬間を、俺は始めて感じられた。明日からまた授業を受けては、同じ教室で皆と勉強をすることだろう。
彼女が居ないのは寂しい、だから一人でなく皆で楽しむんだ。
こんな重要なポイントで俺のズボンがズレていなければ尚更、最高だったよ。
ねぇ、ライズ?
なに?どうしたんだ?
大人になったら縫ってあげるねっ!
―――




