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Ep21:王国へ


―ヒヒ~~ン、ブルッ―


「着いたよ」


 まだ朝は暗く、太陽さえ出てきていない。


 アクスドリーマヌ領へ帰ってきた俺は、家に着いた途端、家族からの出迎えを待つかのように馬車から降りて主人に挨拶をする。ここは家からある程度離れた広い敷地であるが、歩いて帰られる。20人余りの荷馬車であることから、3年前のように家まで送るのと違うのだ。


「すまないな。昔なら送れていたが、ここから別の国まで生徒を送らないといけないんだ・・・」


 皆が各国へ向かうまで7の日時が許された。もう、既に国からの勤務召集が掛かっているからだった。出来ればその日々を送っていた事を語り合いたかったが、校舎から外に出た者達にとって、今後の出逢いの方が重要だったのだ。


「ここまで送っていただいて、ありがとうございます」

「まぁ、あんたも大きくなった事を両親に伝えるんだな。ハイヤー!!」


―パカ・・・パカ、パカパカ―


 こうしてアンジェル高等学校での思い出は胸に閉まう事になる。土産話にはなるだろうか、と考える。外は冷えるが、太陽が山を登り日光が出てきた。これで寒さから温かい日常に戻ることも出来るだろう。たった一時であれど・・・。



“ライズゥウ―――ッ”



 敷地の細道から細高い声が届く。その声の持主は父・リディズである。出迎えるなり俺の頭を撫で、背中をさすり、心待ちにしてくれていたのである。そんな父を俺は「父さん」と呼んだ。


「ハア~・・・私よりも大きく成長したなァ・・・」

「ただいま父さん・・・相変わらずですね」


 ここまで大きくなれたのは、他でもない両親のお陰であり、その一端として働く父のお陰でもある。俺はその更に一端である末尾でしかない。それも全てあなたの導き在ってのことだ、と言いたい。


「母さんが食事をして待って居てくれている。折角戻って来るのだと心待ちにしていたのも、私だけじゃなく、母さんも他の皆も同じだよ」


 あれだけ小さかった俺を育ててくれた両親と周りの人々・・・。どれ程、育ててくれたのか、数え切れないが、その中でも満足でなかった者も居て、どれだけ王国との関りを持つ必要があるのか・・・、考えるべき課題は幾つも、幾通りもあり、それを選ぶのも俺の意志に委ねられる事になる。


『俺は貧困を救うために冒険者の様な―――、』


 そのような事を言って3年も経つ。その月日が長くもあり小さくもあった。振り向けばもう、太陽が昇っている。父と二人で伸びる影を作りながら、アクスドリーマヌ領の中を歩き家路に戻る事となった。


――自宅

「ただいま、母さん」

「おかえりなさい。ライズ、大きくなったわね!」


 家に帰ると母のフルレが台所で賑わいを持たせるような表情で居た。土の暖炉にはスープ鍋、パン焼きの窯、中央には火の灯と机があった。もう一つの暖炉には冷えた体を温める為の暖炉もあり、ゴウッと燃え盛る。俺はその様子に懐かしむ。3年以上も長く離れていたような気がするためだ。


―カチャカチャ、パクパク、ズゥー―


「ははは。ライズ、落ち着いて食べていいよ?」

「だって、懐かしいもの―パクパク―」

「あら、貴族としてのマナーを習ったんじゃないの?」


 俺は「今のうちに」と、両親へ伝えた。何故なら7の日時だけ与えられる間は、子供らしく振る舞ってほしいと感じているからだ。「貴族なりの答え」として覚えてきた3の年の週間に対して二人は笑っていたが、俺は涙が滲むような気持ちで暖を取っていた。そうでもしないと、何かが外れそうな気がして寂しくなるからだ。


「エディーヌ・サリバン校長先生って、結構な剣術好きで校内では勇敢な立場だったんだろう?」


「うん。常に剣術大会と王族とは何か、という話に詳しい方だったよ」


「じゃあ、ライズも王族の一人となるのね?」


「そうでもないよ。一応、王族の証を与えられて、王国で働く資格を得られるという感じだった。だから平民区出の労働者として仕事が来るという流れだよ」


「そう・・・、大変ねぇ」


◆◆◆


 翌日、王国から召集の手紙が王国証明証という布革で出来たものと同封され、届いていた。その封筒も革で出来ている。母は慌ただしく俺の部屋に入って来るなり、届いた事を伝えてくる。父はその様子に笑いを堪えていた様だ。


「エイドカントリーズからよ」

「どれ、父さんにも見せてくれ」

「あぁ、いいよ?」



~アンジェル高等学校卒業生、ライズ・フォングラン~


貴殿の噂はエディーヌより常に聞いている。

算術、話術、語学において優秀で、剣術においては良好な成績を修めているとのこと。

なれば、我が王国の一人として働くことをどうか、許し願いたい。

官僚が不足しているため、その準備としての労働と考えてほしい。

同封した王国証明証と併せて城下での衣食住の場を与えよう。

健闘を祈る。


~エイドカントリーズ国王ヴァン・マジェス・ディルタ~



 内容は簡素であるが、王国入城許可の通知が届いたので、俺は王族の一人として選ばれたのだろう、と父は言っていた。母はその様子を静かに見守るようだったが、喜びは隠せていない。何せこの平民区でさえ、家族を同居させる食料は足り得ていないから、ひとり立ちさせた方が賢明だと判断したからである。


「ライズ、これでお前も一人前の人間になれる・・・」

「リディズ、この子を育てて来てよかったと思うわ・・・」

「父さん、母さん・・・俺、頑張るよ!」


 あぁ、長くも短く、そして充実した日々だった。


 産まれた時から遠くの時の意志を引継いだ様な気がしていた。


 それに準じた様に異なる役割として言葉と触れ合い、運命の出逢いを果たした。


 それも俺に連れ添う様に育ってきた者達。


 そして、謎の生物との遭遇に与えられた使命・・・。


 皆、それぞれの道を歩みゆき、このアクスドリーマヌ領内で子を産む者も居た。


 真意と信念と懐かしい日々が俺を育ててくれた。


―――


“久しぶり!ライズ、元気にしてた?”


“やぁ!エイプル。あぁ。俺は元気だよ”


“王国へ行くの?いいなぁ。私は結婚するよぉ”


“うん行くよ。おッ!君のお腹?目立ってきたな”


“ハハハハハッ”


―――――――


――――


――7の日が過ぎた。


 大願だった家族、友達、教師との再会を短い日々での行い、そしてその別れを惜しんだのである。これも導きか・・・。


「じゃ、皆さんお元気で!」

「何かあるかも知れないから、連絡先は教えておくんだよ」

「お前が帰ってきたらオレ達、皆が迎えてやるから――!」

「偶には帰って来きなッ!」

「密かに誰かが好きになってくれるかもね?」


 皆が俺を包み支えるように、応援の言葉を述べてくれた。これからどんな試練が待ち受けているのだろうか、と思う。


「みんな・・・ポロッ、ツーゥ」

「泣け、今だから泣いておくんだぞ!グスッ」

「あ!それとな、リディズとフルレがお前のことを一番応援しているからな、絶対に体だけは大事にしろよ!!」

「父さん、母さん・・・」


 そこで皆の後ろから双子の弟・イルンと妹・エーシャがやってきて・・・


「兄貴、」

「兄ちゃん、」

「イルン、エーシャ・・・あぁ。お前達も元気でな・・・」


 両の手を3人で握り合う。これが兄弟妹きょうだいの絆だろう。

 その姿を祖父母も見守ってくれていた・・・。

 19歳の年となっても、皆が暖かく出迎えてくれ、そして別れを惜しんでくれた。

 こうして俺はエイドカントリーズ王国の発掘現場で働くことになる。


――――――――――――


―パカ、パカ、ヒヒ~ン、ブルルゥ・・・―

「ライズ・フォングラン、迎えに来たよ」

「じゃぁ、お願いします」

「ライズ、元気でね!」

「みんな、ありがとう・・・行って来るよ!」


―――覚えているか?

あの貧困なる日々を、救いたいという気持ちを。


―――忘れてはいないよ。

皆が食べなければ、食べ合うだけだから。


――もう、二度と・・・起きてはならない事を忘れるな。

あの時を刻むと、お前を忘れてしまいそうだからな。


―あぁ、分かっているよ。

息子よ・・・。



約束だ。


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