Ep16:剣技の鍛錬
――始業式の時にエディーヌ・サリバン校長からこのような話があった。
『君達にも参加の印として、木刀と短剣を支給して置く』
“貴族だと、既に家系柄で貰っている者もいるのに・・・?”
『ここアンジェルには貴族以外の者も入学している事を考慮しての事だ』
“ふん、貴殿の事を言っているぞ?ライズ・フォングラン。平民区出の者に、だよ”
⦅また、俺の話を始めているのか・・・尽きないな。⦆
――6の月のある日。
その日は、晴天だった。
風も緩やかで湿度を纏っていた。雲もゆっくりと流れている。
「心地のよい天気でよかった・・・」
エディーヌ校長から剣術大会について話を聞いていた。だが俺は身の周りから万が一、野性生物に襲われた時に剣術の鍛錬を行う事にしている。アンジェル“高校”の離れには木々の生い茂っている場所があり、そこの木陰で木刀と短剣を剣技に沿って振り回していた。
対象物はゆっくりと降る木の葉に、大きな岩、それに物音とする。
70センチの木刀は牽制用の物として大きく振り回し、上段斬り、突き、袈裟斬り、水平斬り等の数種類を行い、木の葉に当てていた。
“ハッ、ヒュッ、トゥッ”
―ビュン、ブン、シュッ―
「まだ、振り具合が遅いのか・・・?」
15センチの短剣は必中手段として岩へ投てき、物音へ突きを行う。勿論、摩耗するので、当て部に布を巻きつけていた。それはミヘルに教えて貰った方法だった。だが、彼女とは違い、何度やっても削り描いた中心線には当たらなかった。
“ハァアッ”
―ピュッ―――シュットン―
「打突攻撃なら出来そうだ・・・」
木刀と短剣を交互に振り飛ばす。対象物に絶対的に当てられる事は先ず無いものの、牽制用なら十分効果がありそうだった。剣術大会では木の盾か木製の短剣どちらか選べるそうだ。もし、これが人なら怪我を負わせてしまうのだろう。
“はァッ、てイァッ、とぅォオッ”
―シュッ、ブンッ、トカンッ、タッ―
「ふぅ、はァ、な・・・なかなか当たらない・・・」
30回から200回する内に集中力も増し、その当て振る反動で筋肉が膨張し、時折、痛みを表した。どれも致命傷を与えられる手段として乏しいものの、鍛錬する内に幾つも浴びせる事で野生生物といえど重傷を浴びせる事も出来そうだった。
「木の葉に一太刀でも浴びせられると、成長している気がする・・・」
そして剣を構えると、雷が落ちた様に、光を纏う感覚があった。振る腕から手先、体の隅々まで軽く感じられた。その理由は何故だか分からない。突如としてだ!
「な――ッ?何が起きたッ!?」
俺は咄嗟に身構えた。その辺を見渡す。周囲に眩い光の束が降りていた。さっきまで在った雲が無い。俺の体は太陽の温もりに近い。それだけか?
“グオオオ――ォ”
木と岩陰の方からその咆哮らしき音が聞こえた。猛獣か、それとも怪物の成り損ないか・・・ジリジリと近寄るごとに雷が鳴るような瞬間を味わう。恐怖か、歓喜か、痛みとは違う。
―ピッシャアァ―――ン―
空気の乾いた音がする。その咆哮が近付けば近付くほど鳴り響く。今持っている木刀と短剣に光が増す!温かくピリピリと・・・。それは上空の煌めきか、刃物とは違うだろう、木刀の刀身が唸る様に光る・・・ッ。短剣にも同等の光が纏う。熱いッ!
―グアァォォアァ――ッ―
これなら野性生物のような咆哮を両断できるか、或いは貫きか・・・試したくなる俺。その音はしっかりとこちらへ近付いてくる・・・。何と大きな生物だろうか、と気を引き締める。その姿は影のように暗く、赤黒く接近してくる。
“ダダン、ダタン、ダダンッ”
(見えた!来い・・・)
それは牛と人間が融合した様な形状だった。3メートルと、まるでバケモノそのもの・・・。その姿は毛が薄く、筋肉が露わとなっていた。恐れつつも身が震えるような感覚を憶えた。全神経を手に与えた・・・。
―グルルウゥ、グフゥ・・・ウウウゥ・・・―
(息が荒い!落着け・・・取り巻かれない様にしなければ・・・)
俺は一歩一歩、近付いていき、そして突きの剣撃を与える。「避けられないだろう」と思っていた。だが――、動きは向こうの方が上だ!人間よりも遥かに速い・・・ッ。しかし今の俺なら、その速度に安易に近付き深く傷付けられるだろうッ!!
「ていやああアァ――ッッ」
攻撃を終えると、その生物は何処かで息絶えていたという報告があった。何故、この俺が斬撃、突撃を自然に行えたのかは理解出来なかった。光に身を纏っていた事すら覚えていなかった。
―――
「あァ!?こんなにボロボロにしてぇ、普通の特訓でこんなに早く壊す奴なんて見た事も無いよォッ!!」
エディーヌ校長の親友である製造主は俺に対して叱りつける。俺の持つ木刀と短剣は月に一度交換しなくてはならない硬度を誇っていたという。
「永く持つ筈が、木刀は擦り割れ、短剣の方は刃こぼれをした・・・」
「校長・・・、彼は一体何者なのでしょうねぇ?」
「さてね・・・フフッ」
既にその纏った光は消えていた。
あれほど苦戦もなく、帰って来られたのは単なる奇跡と呼ぶべきだろうか。何とも思えない不思議な体験をした。それに、雷光による周辺の異変すら記憶になかった。
眩しかった光、溶断する程の切れ味・・・。
「報告によると、俺はその場からその動物の血しぶきも浴びる事もなく、生還したと聞いている・・・他の生徒はどうしていたんだ・・・?」
他の生徒は学生寮の自室や川辺、それにアレは、それ程に強烈な光だったのだ。他に気付くものなど居なかったと聞く。多分、ミヘルとの特訓が身に宿っていたからだろう、と解釈せざるを得なかった。
―
――
―――ライズ・フォングラン・・・
たった一度で壊すとは・・・
楽しみだなァ~~♪




