Ep15:学生寮
――3の週を過ごした。
「あなた達。食事は綺麗に粒を残さず食べるのですよ?」
「分かりました・・・貴殿も貧困区のように食べるのだ!」
「食材は貴重に配分される、支給品だ。流石、給食係・・・」
俺はアンジェル高等学校の寮に入れる代わりに貴族に混じり、世話係を任されている。それも交替で行うのだが、何せ限られた食料であるから、大切に保管し、適度な栄養を守って食料への調理を行うのが当然とされていた。食事はここの職員と同じで、彼等が食べた後に食べられる。
「貴殿、平民区の出だと言っていたな・・・味は確かか?」
確かかどうかは別として―――、
「大したもてなしは出来ないけど、良かったらお替りをしていいそうだ」
「ふん、まぁ・・・食べられない事はないがな・・・。さっきの社会の話を聞いたら・・・食べなくちゃ生きられない、だろう?」
そうだ。食べなくては生きられない。生きられないと、この先で貧困に塗れるだけだ。皆、一緒だ。どんなに立場が違っていても支給される食材は限られている。それも皿を舐めるような姿勢で残さずに食べるほかないのだ。
「僕は、王族になるんだ・・・。這いつくばっても食べてやる・・・熱ッ」
何だかんだと、皆も同じ民であり子供だ。俺と同じく世話係をしては同じ寮で暮らしている。中には特殊な生活をしている者も居る。アンジェル高等学校からすぐ傍に住んで居る貴族だけが帰宅を許されている。
――更に1の月、宿学の授業。
「かつて、最古の時代という生命の頂きを冠する文化が在った。そこでは翼の民という種族が僅か3名で料理をしていたという伝記がある。その土地の地熱を利用し、色違いの植物などを使って調理実習をし、他の民にも教えていた――」
「はい」
「チナチェスか。よし、意見を述べよ」
「はい――。最古の伝記には、王が文明を起ち上げる為に食事を振る舞うよう、翼の民に命じたと言います。それも粉と水しかない中で、スルスルと入る液体料理とも書いてあります。しかし、人類は水から食べる手段を択ばなくては成らないと、そう私は思ったのです――」
「よろしい。流れる中で、手段を選ぶ・・・か」
確かに、平民区で住んで居た頃は、貴族は何と傲慢で浅はかだと罵られていただろう。王族も同じで、貧困区への支給を殆ど絶っていた。御触れが出たのだ。皆、自ら育てた牛でさえ乳が枯れてしまい苛立ちすら隠せずに不平不満を持っていた。
「さて、皆はどうだろう?食事を縋るにはどういった方法を学ぶべきか、考えた事は?思う事は?あれば、手を挙げてくれ」
「はい」
「エギラか・・・、意見を述べよ」
「はい。貴族が平民区へ縋ることは、王国の御触れ通りに生きろと示すのです。そこで貧困区へ働きに出るように平民区の領主が告げる事を約束させます。“縋れ”と―――」
そう、縋る様に食材を分け与えなくては生活さえ成らなかった。それは最古と異なる視点であると彼は言っている。立場が違うという視点だ。
“ヒソヒソ・・・”
―――なぁ・・・
「寮へは泊りに行っていいのかな?」
ふと、話が反れ、誰かがポツリと言い出した。
「やはり、親元から離れるというのは寂しいものだ・・・」
貴族と言えど一度固まった意志とは別の意志へ向かう様だ。
「教師に許可は得られないのか?」
「無理でしょう?学生寮は避難場所じゃないのよ?」
すると、教師はこのように諭した。
「静かに――ッ」
“あ!・・・注意される・・・”
「君達は、親元から離れ、このアンジェル高等学校へ入学。それも王国での仕事に勤める為だ。その務めに反して今更、親元へ戻りたいから同じ部屋へ寝かせてくれと?」
生徒達に緊張が走った。
ただの宿学と覚えていたのは、時折、親元へ戻れるという記憶が強かったからか・・・。それに加え、教師は追い詰めるように発言を続けた。
「例え、親と血がつながっていたとしても、貧困区とは違い保証はあるだろう。確かに平民区でも保証の有無はあるだろうが・・・君達は兵士になると決まった訳ではないんだ」
“・・・でも、王国の務めは兵士へ滑り止めとして勤めるとか・・・”
“そうだよなぁ・・・。もし、卒業しても・・・”
俺は貧困を救うために王国へと務める。そこで国が各地へ起こしているだろう新天地の道を如何にして救うのか、それを知るために俺もこうして入学した。一度離れればもう、親元へ帰ることは余程でない限り無いだろう。
―――例え、死に別れたとしてもだ。
「たった一人、宿学へ注目する者も居た。だが、彼は王国へ勤めたものの、支給する食糧の配分のやり方に意見しただけで、自らの命を絶ってしまった。その生命線をだ」
“え・・・そうなの?”
「そうだ。彼は政治へ向かった。親から離れてその手綱が外れた馬のように、食を求めるように走り始めた。ところが、その補給線を横取りしたのだ。貧しい者を救うと言っておきながら、自ら貴族を名乗り支給分を政治が悪いと言って横流しもした・・・捕まるまでな・・・」
貴族を名乗らなければ地位を得られない平民区の憤り。このパヘクワードへ移る前に王国という慣わしを作って、それを広めてしまい、遂に尽きるであろう物を奪い去ってしまった。それが同じ平民区で育てた者達から石を投げられ、命を絶つことになった。
「で、あるから・・・安易な意志で自ら目指す道を絶っていかん。親が居ないから泊めてくれ等という、間違いを侵すに値する行動を絶たなくては、自らが成らないのだ」
――3の月の夜
小さな虫の音が聞こえる。とても静かで一人となって反省を行うこと、2の時を刻んだ。憧れていた。自ら選んだ道を閉ざしてはいけない。
“コンコン・・・”
木造宿舎である寮。板張りの隣の部屋から何らかの合図を示す物音をたてている。
「誰だ?」
将来、王国へ勤める者同士。気を引き締めるよう、名も知らぬ者同士であることを命じられている。だが、知ってしまえばそういう訳にもいかない。
“なぁライズ・フォングランの部屋だろう?・・・泊めてくれないか?”
「話を聞くだけなら・・・どうぞ」
3の年ごとに入学生を卒業生と入れ替える。ここに先輩・後輩は居ない。その事に怯える者も居て、何をしていいのか迷う者も居た。
“ガチャ”
「またデスリー・アネスか。何を怯えているんだ?」
「・・・ふん、親から離れて教育というものに退屈していただけだ・・・。酒も持ってきている・・・。年齢なんて関係ない・・・。教師に言うなよ?」
「ラングジャリアー酒か・・・言葉の壁・・・なるほどね。それを感じるというのか?」
「アンジェルは貴族寄りでなく、平民寄りの王族育成学科が多い。ボクはそう感じているんだ・・・ゴクゴク」
「チョピ、コクリ・・・なるほど。俺にも感じていると?」
「あぁ。だが、このマントは羽毛で出来ているし、寝床は取らないよ」
食事という壁、宿学という壁、寝床で泣くための壁・・・皆、それぞれ生き方が異なる。このデスリーの様に、近くへと寄り添い、仕送られた酒をたしなむ者まで居る程だ。
“うぅ・・・グスッ”
(またか・・・静かに聞いて居よう・・・)
“うっ、父上、母上・・・ボクは貴族の出だと自慢できる気がしたのです・・・。グスッ、それなのに、これだけの酒を仕送られて、授業にひたすら耐えろと・・・シュンッ”
親の名があるから、学校でも名が通ると王国への道でもその名が通る。自らの名前よりも、親を優先させてしまうと、自らの道を閉ざしてしまう。俺もフォングランの名で今後も通さなくては成らない。その気持ちはわかる・・・。
“ズビッ、逢わせられた。この、木造の中で、『お前は子供よりも大人しい』と許された。誇りに思っていたぁ・・・うぅッ!”
――泣け。想うままに泣くがいい。そこにもお前の居場所があったという事を忘れてはならない、と気付くまでには成長している筈だ――。
“うぁあァァ・・・グ、ぁギュウぅう―――ッ!!”
――朝
「おはよう・・・」
「ま、昨日の声は祈りだよ。そう思ってくれ」
俺は眠い目を擦りながら、デスリーの隣で歯を磨く。そして食堂へ向かおうとした時に不思議な事を言い出した。ボンヤリと。
「太陽が闇に隠れると、虹を宿すという・・・」
「デスリー・アネス?」
「ライズ。宿舎とは宇宙の宿主、胎児の親、次元を表す・・・」
「宇宙・・・次元?」
「ボクは窓を見て読書を楽しんだ。だが、何時までもその風景は変わらなかった。空中大陸、その更に上があることを親から教わった・・・」
俺はデスリーが泣き疲れたのかと感じていた。だが、そこは懐かしい意志の中の光にもよく似た言語が含まれていた。俺は、俺達は一体何者だったのか・・・と。
「ふっ、あはははは、寝言だ。ライズ、食事に行こう」
「あ、あぁ・・・」
領主ビオを一瞬だけ思い浮かべた。
これも貧困を救うという意志に模しているのかは分からない。
『僕はね、君と“そっくり”かも知れない、別の次元から来たんだ』
でも俺は、その瞬間を今でも忘れていなかった。
『もし、変容したら、会ったら・・・君は“遊びと手加減”と聞くだろう』
創造主である宿主ニューファザーを・・・
―――
「ライズ・フォングラン。行くぞ?」
「分かった」




