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Ep12:願望

 パヘクティ学園を卒業した俺は、名門アンジェル高等学校へ通う事となった。それもアクスドリーマヌ領から馬車で一つの区域を越えて通学できるためだった。それなら家族達と食事を共にすることも出来ると踏んだ。このメシバル領区は様々な病気に苦しむ者も居たため、医療に通じるところがある事から兵士の修行場とも呼ばれていた。この学校を卒業したら再び、貧困を救うための冒険者にもなろうと決めていた。


――校長室


―コンコンコン―

「失礼します、エディーヌ校長」

「何用かな。入りなさい・・・」

「教員のヘリーです。新しい生徒が入ってきております」

「呼んで・・・」


 校長のエディーヌ・サリバンは貴族出身の王族に近い権力を持つ。

 このアンジェル高等学校の最高責任者でもあり、各国からの信望が厚い。新しい生徒がやって来た時に、必ず報告として各教員から照会を得るのだ。

 訪れる生徒は50人と少なく、1週間を掛けて俺達の様な新入生はようやく面会を通される。


「さ、来なさい」

「失礼します!」

「君は・・・?」

「ライズ・フォングランです!」

「ようこそ、我がアンジェル高等学校へ・・・君がこの度の新入生だね?」

「宜しくお願いします!」

「よろしく。疲れたであろう?――さぁ、そこへと座られよ・・・」


 厚手の革が被せられた長椅子。そして木の甘く香ばしい匂い――、柔らかい・・・。

 貴重な時間、稀に訪れる生徒に対してエディーヌ校長は敬意を表した。まるで貴族と王族へ対する礼を述べているような態度で接している・・・。そして俺はようやくこの学校へ通されたのだ!

 家族へ朗報として伝えてあげたい、と考えてしまうが――、礼を通すならミヘルのように貴族の作法で礼を述べよう―――。


「お初に御目に掛かります」

「こちらこそだ。君の成績は我が校へ伸びておるよ」

「お恥ずかしい次第です。俺の成績まで届いていると緊張するのですが、」

「いいのだ。特に語学の方をよく覚えられるそうな?」


 俺は相手の言葉を介して、自ら言葉を放つ威厳があるらしい、と父・リディズから聞いた事がある。それに幼少の頃に学園で言葉に対する成果が現われ、同期の生徒とよく遊びに行ったものだ。


「それに、人の心を掴むのを得意とするが・・・?」

「滅相もありません。俺のつまらぬ悪戯です」

「礼儀は達者であるという事かな?」


 校長室という板の上でチェスという詰将棋を行っているかのような感覚。ミヘルに教えて貰った事がある。お互いの距離を詰めつつ、回り道をして囲う儀式だと聞いた事がある。儀式といっても歴史で習った“祭り事”をする訳でもない。


「相手を見て、見習え――かな?」

「はい。エディーヌ校長先生・・・お名前はかねがね伺っておりました」

「それはそれは、上手な御言葉よ――チェスは好きかね?」

「えぇ。以前の同期から習いまして、詰めて回ると褒美が得られるとか、」


―パン、パン―


 すぐさまエディーヌ校長は両の掌を叩き、「茶を寄こしたまえ」と直ぐ傍に居る教師に伝えた。教師は俺と校長の両者へ「暫くお待ちください」と一礼をし、一旦、空気が開いたような感覚を憶えた。時間が過ぎるごとに、校長から身を乗り出して一言述べた。


「剣技は得意かね?」

「剣劇という劇程度でありますが――」

「それは何という技法かな?」

「虫に枝を指す、憤りであります」


―ガタッ―


「虫に・・・枝を指す・・・動作とは?」

「瞬時にして指す。トウガ蜂は瞬時に針を刺す・・・」

「なるほどぅ・・・なぁ、ライズ君!」

「はい・・・」

「我が校は剣術大会があるのだが、参加してみてはどうかな?」

「剣術大会ですか――、」


 俺はエディーヌ校長の一つ一つの応答に空を眺めるように、天井へ目を遣っていた。

 剣術大会・・・どうやら、校長は学問よりも剣技について色んな生徒に聞いて回っているらしい。それも男女構わず、適当に時間を作るための作法として、茶がやって来るまでの余興に過ぎなかった。

 それを楽しむのも王族や貴族の嗜みなのか。


―コン、コン―

――失礼致します。


「よい。通りたまえ」


―ギィ、スタスタ―


 甘く香ばしい香りが更に増す。教師ともう一人の従者らしき恰好をした女性が通る。それも飲み食器と入れ口という、貴族の習わしで伝えられる陶器を持って。


―コポ、トク、トクトク・・・―


「ついでに菓子もあるが、茶の付き物として頂いて貰えぬかな?」

「ありがとうございます――」


―スス―ゥ・・・―


「よき、時間だよ。ライズ君」


―サクッサク、コクン―


 茶の飲み方や菓子の食べ方一つ一つ、音をなるべく立てては成らないという貴族の楽しみ方。これはイーターから少し齧った程度だが、どうやらパヘクティ学園での生活が俺を変えてしまった様だ。こんなに静かな時間を長く感じた事は今までにない。


「して、我が校の授業だが――、」

「どのような?」

「構えず、砕いた姿勢で言葉を交わすのが流儀でね。相手を見ずに己が意志で語るという方法で授業を行っているのだよ」

「構えず砕けた流儀を見ずに語るという?」

「人をしっかり見られる方法は多少身に付けている様だね・・・さて、」

「校長、お時間です――」

「残りは教師が教える。ライズ君、よい時間をありがとう」


 エディーヌ校長は、教師に時間の制限を言い渡された。時が刻むうちに“チェックメイト”となるとミヘルから聞いたとおりになった。ジグルはこれを数式の限度だと言っていた記憶が在るが、イーターはこれからが楽しみになってくる、とも言っていた。


―スタスタスタ―

「どうです?新たな学校は、」

「さっきの様にチェスの数を楽しめます」

「ライズ君は少々大人な処があるのですか?もう少し『子供っぽい一面がある』と御両親から伺っていたのに、違うのですね」

「クス、紙面での言い訳ですよ・・・」

「そう。何か願望でもあるのかな?」

「はい――」


 俺には貧困から民を救うという、平坦な願望があるのです。


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