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Ep10:貴族との出逢い

 13歳になった俺は変わらずパヘクティ学園で勉学していた頃と変わらない。そこでは貴族ミヘルという6歳の子供が虹の鉱石の元となる、虹色の鉱石の調査員として、このパヘクティ学園に編入してきた。

 英才的な教育やマナー、礼儀作法を受けて尚も成長を続けるという脅威さは今後もお世話になるであろう気がするのだが、彼女は俺の事を“ソウルメイト”と呼ぶことが多かった。


 「これも貴族としての挨拶です」と言って膝を落とし両の手を開いて俺に頭を下げる。

 “以降もよろしく”と、その小さな身でだ。


「あ、あぁ・・・よろしくぅ~」

「貴方もこれから貴族のたしなみを覚えるのですよね?」

「たしなみとか貴族とか全然知らないけど、覚えられるなら覚えるよ・・・」


 挨拶をして来る、貴族の女の子がそう言うと、自信なさ気に俺はそう言い返す。これでは唯々、張り合っているかのようにも感じられた。

 透き通るような肌、その姿を麻で出来たドレスに純白の刺繡の入った手布と、黒のヒールで身を包んでいた。それはそうと“名前”は何というのだろうか?俺は素気のない、興味さえない態度であるその子へ「知らない者に挨拶だけではダメだ」と告げた。


「失礼・・・。私の名前はミヘル・アントレアと言います。貴方は?」

「俺はライズ・フォングランだ」


 姿勢も良い。年の離れた者同士なのに、どこか自分自身に問いかけている様にも感じられた。普段からマナーの廃した遊びや授業を受けている内に、礼儀正しさとか律儀のある態度を示さなかった。だが、彼女はその器質を素質よりも先に回るような姿勢であった。

 そして時間が流れると、また彼女のほうから俺の方へ話し駆ける。走っている訳でもないが、その動きは俺よりも速かった。なのにその小さな体でドレスのスカートに当たる部分を、両手で広げながら頭を下げてきた。俺を見るなり少し照れくさそうだった。


「ライズ、」

「なに?俺に用でもあるの?」

「食事を一緒にしませんか?」


 周囲の生徒がざわめく。


 この瞬間なら貴族はとっくに教師か執事が着いて居て当然なのだが、パヘクティ学園では平等に問題なくお互いがお互いを尊重するよう教育をしているので、生徒達はこれまで抑えていた欲情を表していたのだろう。ミヘルと同じ寮生活をしていた為か、イーターが時々顔を覗かせていたらしいが?


「おい・・・、ライズの奴、貴族と一緒に食事をするぞ・・・」

「平民と貴族・・・どっちが早食いか、試すか?」

「試す?二人を?ううん、遠慮するよ」


 周囲の声を他所に俺とミヘルは教室の中で食事をした。平民と貴族の違いと言えば、身だしなみだけでなく、その食事の内容も違うのだと思っていた。だが、その弁当の中身はハリトマトに鳥の卵と養殖の肉と緑の野菜がひっそりと置かれている程度で、パンも同じものを使っている。

 貴族のみ上流階級という事で私用料理人の作った料理を持って来てよいのだ。


「パヘクワードはどの民も同じ食材を使うのです。珍しい?」

「いや。珍しくも無い。俺は平等な方がいい」

「なぜ?」

「貧困から救うために俺は卒業して働く。だから平等を意識している」

「誰の為に?」

「家族だ。ミヘルにも家族が居るだろう?」

「アクスドリーマヌ領には貴族は居ない・・・そう聞かされているのです」


 あれだけ凛としていたミヘルが、身を縮み込ませていた。その姿はまるでほんとうの小さな子供の様に見えてしまう。授業でも独りぼっちで寂しい様子は無く、こうして共に過ごすと家庭でも独りぼっちだという事が改めて見測れてしまう。俺にも双子の弟妹きょうだいが居るから何となく理解出来た。妹のエーシャは11歳だから、6歳のミヘルとは5つ違いだ。家に連れてきたら女の子同士、良き理解者となれていたに違いない。


「俺の家に来れば平民区の交流が分かるよ」

「両親の規則に従わなければ追い出されます」

「そうか―(仕方ない・・・)、」


―――そして、1年の時が過ぎた。


 すっかり生徒に馴染んだ貴族の子、ミヘルが家で習った特技を披露する。貴族の習わしか、パヘクティ学園の園長から特別授業だとして、作法や剣技等を見学させてもらう。時に体験も行い、ミヘルと競技をすると考えもしないような付き合いが始まるのだった。


「ねぇ、ミヘルぅ~。こっそり食事に行かない?」

「ええ、いいわ」

「なぁ、ミヘル・・・剣技教えてよ。ぼくも兵士になりたいんだ」

「規則を守ってね」



 年齢が14歳となった俺も親に隠し事の一つや二つくらいはある。だが、ミヘルの様子を見ていると隠すというより、寧ろ大らかに接しているようにも見える。まるで近所の子供と遊んでいる様な雰囲気にも近かった。もう学園内の人気者だ。俺も過去に同期へその様に接していたから懐かしく思う。


「ミヘル。特別授業はお前の勝ちだ」

「何を言っているの?勝ちも負けも無く、お互いが学ぶの。いずれ渡り合う時に向かって生きているの」

「お前って時々、お喋りになるよな?」

「クスッ。ライズ、私はお喋りなの?」


 時折、微笑みを見せる女の子。まだ7歳だというのに皆に慕われている。これも貴族の由縁なのかと見間違うくらいに輝いていて、その魅力に引き込まれそうになる。


「俺も剣技を習おうかな?」

「兵士になるの?」

「平民も貧困も貴族も無い、冒険者になりたい」


 そう言うとミヘルは「そう。いいわね」と紅茶をコクリと飲むのだった。

 学園の窓から囁く風が木の葉を飛ばして室内へと運んでくる。

 過去、ジグルにも言った『有意義』な時間とはこの様な時に使うのだろう。

 その木の葉はまるでジグルの報せのようだった。


―――2年後


 俺は16歳となり、ミヘルは9歳となった。

 そういえば、よく確認していなかったが、ミヘルの首にはペンダントらしき物が掛かっていた。


「このペンダント?」

「うん。いつも身に着けている、それだよ」

「これは“産まれた時から手に握られていた”と両親から聞いたわ」


 それは曲がる泉のようにやや、膨らみを象っていた。どうやら、もう片方もあるらしい。


「昔ね、俺の領区の主が同じような形のペンダントを付けていて、それとそっくりだと思ったんだ。最後に、ある女性の名前を呼んでいたという話も聞いた事がある」

「最後って居なくなったの?それとも・・・」

「死後に“消え去ってしまった”と言われている」

「ライズ・・・貴方が言うと、他人事に聞こえないの。何故なの?」

「さぁ、縁があったんじゃないのか?」

「じゃぁ、貴方“とも”何らかの縁が有ったの?」


 最古の世界線での魂の片割れとして、共に過ごしていたように思う。

 俺は山に囲まれた地平線に太陽が沈むのを見て、虹が輝くのを見ていた。


「幾つもの色に輝いているみたいだ」

「そうね・・・」


 多分、虹の鉱石がこの空中大陸全土に流れているのだろう。


「ライズ、お別れの前に聞きたい事があるの・・・」

「何だ?」

「これからどう生きるの?」

「俺は――、」


 俺は相変わらず続く貧困を、家族を、民を救いたい。


「そう――、願っていた」

「もしかして国を?」

「うん、国を救う事になるよな」

「そう――」


 だが、ミヘルも同じくして別れの時を惜しむように、俺と違う場所で地平線の太陽を眺めていたという。そこに貴族らしい気配は無かった。

 それは空の遥か上に二つの星が並んでいるのか、まるで俺達のよう。そして見もしない空より上の空まで願いが届くことを確認し、俺はパヘクティ学園を去っていくのだった。


 次は王国エイドカントリーズに近しいアンジェル学園へ向かうために・・・。


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