The Chess 番外編 リアの夢
リアは鹿ココアに乗って森を渡っていた。白い手の乙女ナハシュの城を後にした所だった。
日差しが暖かい昼過ぎだった。ふとリアはココアの足を止めた。リアはココアから降りると、背をもたれるのに丁度良さそうな大木を見つけて、根本に座った。リアはよく、ココアの休憩に森の中で足を止めることがあった。リアはそのまま、一眠りした。
ふとリアの顔に何か生き物の温かい舌が舐めている感覚がした。リアはぼんやりしながら、ココアが顔を舐めるなんて珍しいと思った。ココアは森で昼寝をするリアを起こすことは今までしなかった。リアは寝ぼけたまま目を開いた。そして肝が冷えた。自分の顔を舐めていたのは、白い豹だった。リアは体が固まって、動けなくなった。いくら自分が召喚士で様々な動物と契約をしていても、野生の豹が懐きにくる経験はなかった。リアが完全に目を覚ましたら、豹には魔力があることを感じた。それは、ずっと探している懐かしい気配だった。リアはぼんやりと呟いた。
「これは、夢なのですね」
リアに抱きかかっていた豹は、離れると、白いローブ姿の魔術師に変わった。
「お師匠、お久しぶりです」
魔術師は赤い目を細めて挨拶をした。リアは安堵した。このずっと探している友人は、よくリアを驚かせる。人を驚かせるのが好きであった。
「お師匠、いつも姿を変えて現れてもすぐ私だと分かって驚かないですからね」
「さすがに寝起きに豹の姿では、僕でも驚きましたよ、リン」
魔術師はリアの隣に座った。リアは夢だと知りながら、うたかたの時間に心を置いた。
「今は何をしているのですか?」
魔術師は微笑んだ。
「リアと旅をしていた時と変わらないですよ。魚釣りをしたり、夢で世界を見たりと」
「のんびりしているのですね」
ふと魔術師は手から小さなアメを現した。それを一つリアに勧める。リアは受け取ると、口に運んだ。
「そういえば、リン、今ではドロップに降るアメを“魔術師の贈り物”と言うそうですよ。リンの魔術ではないことは知っているのですが、楽しい魔術はみんなリンの魔術ということになっていますよ」
魔術師は口元を緩めた。
「楽天家の私には丁度良いでしょう。ドロップは私たちも行ったことがありましたね」
「はい。よく覚えていますよ」
リアは遠い旅を思い出すように心が弾んだ。魔術師は微笑んだ。
「リア、今度は城で会いましょう……」
リアはふと目を覚ました。友人の夢は旅の中でたまに見るのだった。リアが緑色の三角帽子を被り直すと、ふと丸い小さな物を手に掴んだ。アメだった。ドロップでアメに当たった時のものが、まだ帽子に残っていたらしかった。リアはしばし温かな夢に浸ると、旅を続けた。




