妖精達の推し生活を妨げる者は滅せられるのが運命
私は異世界転生したらしい。
だって「婚約破棄だ!」って騒ぐ金髪碧眼のキラキラ美形と、その腕にぶら下がる勢いでくっつきながら「お義姉様がひどいことを」ってぶりっ子泣きしてるピンク髪のこれまたキラキラ美少女が私をこれでもかと責め立ててくる。
お互いに言いたいこと言い合ってるから、被りあっててちょっとなんだか何言ってるかわからない。
もうちょっと落ち着いて話してほしい。
困ったわどうしようと首を傾げてみたら、サラサラと肌触りいい髪が腕を滑っていく。
あら。あらあらなんて綺麗な銀色。
「灰色め!」「灰被った地味女!」って騒いでるけど、これ銀髪じゃないの?
見たこともないぐらい豪奢なシャンデリアに透かすと、その銀色が弾けて虹色に光った。
何これ?
「こいつら滅していい?」って可愛らしく小首をかしげてるたくさんの妖精さん達がいつのまにか現れたと思ったら、ふわふわと私の周りを飛び回りながら「こいつ、カツラ!」「これ引っ張っていい?」「こいつ、ニセ胸!」「ぺたんこのくせに!」「引っこ抜いていい?」「こいつ、チビ」「ウソ靴脱がせ!」「サバ靴脱がせ!」「チビサバ!」「カツラサバ!」とチカチカ星みたいに光ってぷんぷん怒ってる。
「馬鹿だねー」「ほんと馬鹿」「この王子ヤバすぎ」「にじいろー」「そう虹色なのにー」「虹色の子なのにねー」「最高!」「虹色最高!」「虹色しか勝たんのに」「勝たん勝たんー」「こいつら滅していい?」「滅すー」「滅してー」「滅そう!」とギラギラ蛍光的な光を増した妖精さん達が、ギュンギュン勢いを増して高速回転で渦巻いてる。
あんまり勢い良すぎてあの大きなシャンデリアが落ちて来そう。
なので私は淑女らしくにこやかにカーテシーをして、ゆっくりと頷いてみせた。
「婚約破棄承りました。そして、思う存分滅して差し上げてくださいませ」
「わかったー!」「虹色の子ー!」「虹色の言う通りー!」
そのままくるりと踵を返した私は、「えいえいおー!」のかけ声と共に、けたたましく何か大きな物が落ちる音と阿鼻叫喚を背にもう二度と振り向かなかった。
虹色の愛し子は妖精達の唯一の推しであり、妖精達の推し生活を妨げる者は何人たりとも滅せられる運命なのであった。