1941年6月22日:国境の咆哮~ワルシャワ西部の第一報~
【1941年6月22日未明・ポーランド総督府 ワルシャワ西方 ドイツ国境付近】
静寂を破り、夜空を切り裂くような轟音が響き渡った。ドイツ国境付近に位置する、ワルシャワ西部の防衛線。そこは、比較的古いタイプのトーチカや塹壕が連なる、ソ連の第一線防衛陣地だった。守備隊の多くは、徴兵年齢を過ぎた、経験豊富なベテラン兵士で構成されていた。彼らは、厳しい冬戦争を生き抜いた兵士、そして「赤い鉄壁」の建設にも携わった者もいた。
「砲撃だ! ドイツの奴らだ!」
塹壕の土嚢が爆音と共に舞い上がり、兵士たちは反射的に身を伏せた。土とコンクリートの破片が降り注ぎ、火薬の匂いが風に乗って運ばれ、焦げ付くような硫黄の匂いが鼻を突く。数秒後、再び激しい爆発音が連続し、地面が揺れ動いた。大地そのものが、怒り狂った巨人のように呻いているかのようだ。
対戦車壕の奥に設けられた、簡素な指揮所では、ベテランの通信兵が無線機にしがみつき、モスクワとの回線を繋ごうとしていた。老眼鏡をかけた指揮官が、耳に受話器を当て、必死に雑音の中から情報を聞き取ろうとする。
「本営! 本営応答せよ! こちらワルシャワ西部、035観測所! 敵、砲撃開始! 多数の砲弾着弾を確認!」
通信兵の声は、砲撃音にかき消されそうになる。その時、頭上を通過する、聞き慣れない爆音。
「敵機だ! 敵航空機だ!」
トーチカの開口部から、兵士の悲鳴が聞こえた。夜空が閃光で染まり、爆弾の炸裂音が地を揺るがす。Ju 87 シュトゥーカの独特なサイレンのような急降下爆撃音が、恐怖を煽るように響き渡った。対空機関銃が火を噴き、懸命に迎撃を試みるが、その数は圧倒的だった。空は、瞬く間に死の雨を降らせる敵機で埋め尽くされていく。
指揮官は、受話器を強く握りしめた。彼の顔には、疲労と緊張、そして避けられぬ戦いの予感が深く刻まれていた。
「本営、聞こえるか! 敵、航空機による爆撃を開始! おそらく、Ju 87 シュトゥーカ! 数は不明だが、かなりの大編隊だ!」
彼は、無線機越しに、後方へ必死に状況を伝え続けた。
「我々は、ここにいる。奴らが来るぞ…」
そして、絞り出すような声で叫んだ。
「繰り返し! 敵は攻めてきた! ドイツ軍、全面的に侵攻開始!」
彼の声は、間もなく、絶え間ない爆発音と、機関銃の掃射、そして兵士たちの悲鳴が織りなす嵐の中に消えていった。
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