1941年6月15日:クリミアからの咆哮~オデッサへの秘密輸送~
【1941年6月15日・モスクワ クレムリン】
静まり返ったクレムリンの一室に、予期せぬ緊張が走った。国防人民委員部の緊急回線を通じて、NKVDからの一報がスターリンの元に届けられたのだ。
「同志スターリン、緊急報告! ドイツ軍の国境付近での異常な部隊集結、航空偵察の活発化、そして無線傍受の情報から、大規模な侵攻が間近に迫っている可能性が高いと判断されます!」
スターリンは、その報告を聞くと、一瞬にして表情を引き締めた。それは頭では理解していても、実際にその時が来るとは…。しかし、彼はすぐに思考を切り替える。この日のために、あらゆる準備を重ねてきたのだ。
即座に最高司令部会議が招集された。会議室には、国防人民委員や参謀総長らが集結し、一触即発の事態に誰もが息を詰めていた。ジューコフは、その中で冷静にスターリンを見つめた。
スターリン
「ジューコフ同志。君の進言通り、クリミアの機甲部隊を直ちにオデッサへ移動させる時が来た。全ての輸送手段を投入せよ!」
ジューコフは力強く頷いた。
「承知いたしました、同志スターリン! 直ちに実行に移します!」
【1941年6月15日夜・クリミア半島 セヴァストポリ港】
真夜中のセヴァストポリ港は、異様な活気に包まれていた。港には、黒海艦隊の輸送艦だけでなく、急遽臨時徴用された民間船が多数停泊していた。漁船、貨物船、そして観光客を運ぶための大型フェリーまでもが、軍用目的のために集められていたのだ。
港の闇の中、無数のT-34戦車が、その巨体を揺らしながら、艦艇の巨大なハッチへと吸い込まれていく。履帯が鋼鉄のランプを軋ませる鈍い音が、港の静寂を破る。通常の貨物船には積載が難しいT-34だが、特別に改装された軍用輸送艦には、次々と搭載されていく。
一方、民間から徴用されたフェリーや一部の小型貨物船は、戦車の重量には耐えられない。しかし、彼らにも重要な任務が与えられていた。
「おい、急げ! 軍用トラックだ! 砲弾も積むぞ!」
兵士たちの怒号が飛び交う中、フェリーの広大な甲板には、T-34の支援に不可欠な軍用トラック、弾薬、燃料、そして予備部品が、山のように積み込まれていく。民間の乗組員たちは、突然の事態に戸惑いながらも、厳重な警備の中で命令に従っていた。彼らは、目の前で繰り広げられる秘密作戦の重大さを、漠然と感じ取っていた。
黒海艦隊の駆逐艦が、輸送船団を護衛するため、静かに沖へ向かう。広大な黒海の闇に溶け込むように、クリミア半島からオデッサへと向かう秘密の鉄の奔流が、いま静かに動き出そうとしていた。ドイツ軍は、まだこの動きに気づいていない。
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