1936年:ベルリン、強まる自信と東方への眼差し
※ソ連と対を成す存在、ナチス・ドイツ。
本話では舞台をベルリンに移し、ドイツの再軍備と対ソ戦略、ヒトラー政権内部の動きを描いています。
一方でソ連側が要塞化に動く中、ドイツは東方へどう眼差しを向けるのか――
対比的な構成としてお楽しみください。
【1936年・ベルリン 総統官邸】
1936年、ソビエト連邦の最高司令部で極秘の「赤い鉄壁」構想が練られていた頃、ドイツのベルリンでは、アドルフ・ヒトラーの自信と野望が頂点に達しつつあった。
ベルリンの総統官邸では、アドルフ・ヒトラーの放つ高揚感と確信が、部屋の空気を満たしていた。この年3月、彼は国際社会の懐疑を嘲笑うかのように、フランス国境に接するラインラントの再武装化を断行し、軍事的な空白地帯にドイツ軍を送り込んだ。国際連盟の弱腰と、英仏の消極的な反応は、ヒトラーに自身の「天才的な直感」と「運命」への絶対的な信頼を植え付けた。
執務室の巨大な地球儀をゆっくりと回しながら、ヒトラーの眼差しは、西ヨーロッパを越え、広大な東方へと注がれていた。彼は、11月に日本と日独防共協定を締結し、共産主義ソビエト連邦を共通の敵とする枠組みを築き上げる。同時に、自給自足の国家経済と徹底的な再軍備を目指す「四年計画」を推進し、ドイツの国力を来るべき戦争に向けて根底から強化していた。
「我々は、かつて失われた栄光を取り戻す。そして、東に広がる『生活圏』を獲得するのだ。」
彼は、側近たちにそう語り、自らの壮大な野望に疑いを抱く余地など微塵もなかった。ベルリンで華々しく開催された夏季オリンピックは、ナチス・ドイツの力と規律を世界に示す舞台となり、彼の自信はさらに増幅された。ソビエト連邦は、彼にとって劣等なスラヴ民族と「ユダヤ・ボルシェビキ」に支配された広大な蛮地であり、ドイツ民族の宿命的な征服対象に過ぎなかった。
ヒトラーは、東の巨人が水面下で何を企んでいるかなど、知る由もなかった。彼の脳裏にあるのは、次々と目の前の障害を打ち破り、ドイツの支配をヨーロッパ全体に広げる、輝かしい未来の光景だけだった。その自信と傲慢さこそが、やがてドイツを破滅へと導くことになる、運命の始まりでもあった。
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