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赤い鉄壁:スターリン要塞で迎え撃て  作者: 柴 力丸


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1939年8月:拡張の野望とソ連の影

【1939年8月・ベルリン 総統官邸】


 アドルフ・ヒトラーは、広げられたヨーロッパの地図を前に、満足げに顎を撫でていた。オーストリアは「アンシュルッス」によって帝国に組み込まれ、チェコスロバキアは解体され、ドイツの勢力圏は着実に拡大している。彼の目は、次なる標的、ポーランドに向けられていた。


「ダンツィヒ回廊…生存圏の回復は、もはや時間の問題だ」


 ヒトラーの思考は、常にドイツ民族の未来、そしてそのための領土拡張へと向かっていた。ヴェルサイユ条約によって不当に奪われた領土を取り戻し、ドイツ民族が東方に広大な生存圏を獲得することこそが、彼の揺るぎない信念だった。


「イギリスとフランスは、もはや宥和政策の限界を知るだろう。彼らがポーランドのために本気で戦争を仕掛けてくるとは思えない」


 彼は、西側の弱腰を確信していた。第一次世界大戦の教訓が、彼らの行動を縛り付けていると見ていたのだ。しかし、東方に存在する、もう一つの巨大な影については、複雑な感情を抱いていた。ソビエト連邦。


「あの共産主義の怪物…彼らの狙いは一体どこにあるのか?」


 ヒトラーは、スターリン率いるソ連の不気味な動きを警戒していた。表向きは反ファシズムを掲げながら、その行動は常に予測不可能で、秘密裏に力を蓄えているように感じられた。


「彼らは、バルト三国や東欧への影響力を虎視眈々と狙っている。ポーランド問題がこじれれば、背後から漁夫の利を得ようとするだろう」


 独ソ間のイデオロギー的な対立は根深く、ヒトラー自身、共産主義を人類の敵と公言していた。しかし、現実的な戦略的観点から、彼はソ連の力を無視できなかった。広大な領土、豊富な資源、そして謎に包まれた軍事力。もしソ連がポーランド問題に介入すれば、ドイツの拡張計画は大きく狂う可能性があった。


「一時的な妥協も視野に入れるべきか…? ポーランドを迅速に処理し、西側の干渉を封じ込めるためには…」


 独ソ不可侵条約の可能性は、彼の頭の片隅をよぎっていた。イデオロギー的な嫌悪感は拭えないが、戦略的なメリットは否定できない。時間を稼ぎ、西側との決着をつけた後であれば、いつか必ずソ連との最終的な決戦は避けられないだろう。


「スターリン…あの冷酷な独裁者は、何を企んでいるのか? 彼らの不気味な静けさの裏には、必ず何か恐るべき意図が隠されているはずだ」


 ヒトラーは、ソ連の軍事力増強の噂、そして秘密裏に進められているであろう工業化の情報を掴んでいた。彼らが表面的な弱さとは裏腹に、底知れない潜在力を秘めている可能性を、完全に否定することはできなかった。


「警戒を怠るな。東の巨人は、いつ牙を剥くかわからない」


 ポーランド侵攻の準備を進める一方で、ヒトラーはソ連の動向を常に注視していた。彼の拡張政策は、西側だけでなく、東の不気味な隣人との複雑な駆け引きの上に成り立っていたのだ。1939年の夏、ヨーロッパは嵐の前の静けさに包まれ、ヒトラーの野望と、ソ連の謎めいた動きが、やがて来る破滅的な衝突の予兆を漂わせていた。

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます。

次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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