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赤い鉄壁:スターリン要塞で迎え撃て  作者: 柴 力丸


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1941年8月3日:ワルシャワの電撃陥落~反撃の狼煙~

【1941年8月3日・ワルシャワ】

 スターリンが反撃の号令を発してからわずか一週間。リガとオデッサから放たれたソ連の「鉄の奔流」は、もはや奔流ではなかった。それは、疲弊し伸びきったドイツ中央軍集団の背骨を狙う「赤い鎌」だった。ドイツ軍の予想をはるかに超える速度で機甲部隊はポーランド平原を駆け抜け、疲弊したドイツ軍が有効な防御線を構築する間もなく、旧首都ワルシャワへの到達を許した。


 沈黙の電撃戦

 ワルシャワでの抵抗は、驚くほどわずかだった。


 ドイツ軍の主戦力はドニエプル川沿いで膠着し、後方の治安部隊や補給部隊は、この予期せぬソ連の奇襲にパニックに陥っていた。ドイツ軍司令部が状況を把握し、増援を後送する前に、ソ連軍第X機甲軍団の先鋒がワルシャワの郊外に突入する。


 それは、ドイツ軍自身のお株を奪う、ソ連版の「電撃戦ブリッツクリーク」だった。都市の占領はわずか36時間で完了した。市街地の要所は破壊を避けられ、ドイツ軍が前線への補給のために修復を進めていたインフラは、ソ連軍にそのまま引き継がれた。主要な駅舎は再利用可能、鉄道網は機能し、送電施設と電話線は健在。


 そして、街には、前線へ送られるはずだったドイツ軍の大量の補給物資が、うずたかく積まれていた。燃料、弾薬、そして冬に向けた防寒装備の山。ソ連軍は、戦わずして、ドイツ軍が苦労して築いた巨大な「移動倉庫」を接収したのだ。


 補給線への断罪

 ワルシャワの陥落は、単なる都市の喪失ではなかった。それは、ソ連軍が意図的に仕掛けた、ドイツ中央軍集団全体への死刑宣告だった。


 ソ連軍は即座に行動した。ワルシャワ近郊の飛行場には、MiG-3戦闘機や、分厚い装甲を持ち「空飛ぶ戦車」と恐れられる地上攻撃機**シュトゥルモヴィーク(Il-2)**が次々と展開された。彼らの標的は、ドニエプルからワルシャワへと引き返してくるであろうドイツ軍の部隊ではない。


 その標的は、西から東へ向かう全てのドイツ軍補給列車と、ポーランドの劣悪な道路を這う補給トラックの隊列だった。


 ワルシャワという拠点を掌握したことで、ソ連軍はポーランド中央部を航空支援の傘下に収めた。物資も燃料も尽きたドイツ軍の補給線は、絶え間なく続くソ連軍の空からの攻撃によって、完全に機能不全に陥った。


 転換追う者から追われる者へ

 遠く西側の連合国側も、この事態に衝撃を受けた。彼らはソ連を「弱いソ連」と嘲笑し、軍事力を侮っていた。しかし、ワルシャワ陥落は、ドイツの電撃戦を逆手に取った、ソ連の真の能力を世界に知らしめる結果となった。


 ドイツが築き上げた補給線は、今や彼らを追い詰める鎖となった。彼らが嘲笑した「無能なソ連」の仮面の下には、恐るべき反撃の爪が隠されていたのだ。


 1941年8月3日。ワルシャワの陥落をもって、東部戦線は決定的な転換点を迎えた。

 戦争は、「奇襲を仕掛けた者」と「罠にかけた者」の勝負へと変わった。

 ドニエプル川沿いの荒野でモスクワを目指していたドイツ中央軍集団の将兵は、背後で巨大な鎌が振り上げられたことに、まだ気づいていなかった。

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます。

次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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