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第9話 極級異能師

 目が覚めると、そこは学校の医務室だった。

 天井の白い光。消毒液の匂い。

 静寂の中――


 ズキン。


「――ッ!」


 鋭い痛みが頭を貫いた。


「透真君――!! 良かった……」


 久遠寺さんの震える声が聞こえる。

 ベッドの横に座る彼女の目は真っ赤に充血していた。


「いたたた……。僕は一体……」


 頭を押さえながら、上体を起こそうとする。


「ダメ! 無理しないで。安静にしてないと!」


 その言葉に従い、もう一度横になる。

 窓の外を見上げると、真っ赤な夕焼け。空が燃えているようだった。


「もう夕方か。二時間くらい寝てたのかな?」

「……ううん、もっと。丸一日以上、眠ってたの」

「え?」


 そういえば、戦いの時はどんよりした曇り空だった。


「爆発の後、急いで迎えに行ったら……透真君、鼻血を流して倒れていて……もう目を覚まさないんじゃないかと――私、心配で心配で……」


 それ以上、言葉が続かなかった。


「……さ、もう大丈夫だ」


 その横から低く響く声。小値賀おぢか先生だった。


「お前は寮に戻れ。ずっと付きっ切りだったんだろ? 今度はお前が寝る番だ」


 久遠寺さんは少し迷った後、頷いた。

 ドアの前で一度だけ振り返り、そっと部屋を出ていく。


「それにしても――」


 先生が口を開く。


「何だありゃ……。あれが極級の力ってやつか? ヤバすぎるぞ、お前」

「す、すみません……ご迷惑をお掛けし――」

「違ぇよ」


 僕の言葉を遮るように、先生が続ける。


「迷惑を掛けたのは俺の方だ」


 窓の外を見つめながら、ぽつりと言った。


「まさか、生徒に助けられるとはな。情けねぇ……」


 沈黙。

 先生は遠くを見つめたまま、低く呟く。


「極限まで鍛えりゃ何とかなる。 ずっとそう信じてやってきた。でも――その結果が、シグマコードの損傷だ」

「損傷……?」

「ああ、奴らの持つ暗黒物質ダークマターを取り込んじまってな。能力を発動しても、持続できない。それでも、つい昔の癖で、一人で何でもやろうとして……」


 先生は、悔しそうに拳を握る。


「本当は、維持局の異能師を頼るべきだった。俺の判断ミスだ。すまなかった。」


 そう言って、深く頭を下げた。


 小値賀先生が医務室を出ていく。

 その直後、入れ替わるように仙崎さんと東雲君がやってきた。


「やあ、さっき久遠寺さんから、君が目を覚ましたって聞いてね。様子を見に来た」


 いつも通りの東雲君の穏やかな微笑み。

 それを見ると、不思議と安心感が広がる。


「何か欲しいものはある? 飲み物でも買ってこようか?」

「ありがとう。今は大丈夫」


 さすが、気遣いが細やかだ。


「御影さまはずっと付きっ切りであなたの看病をしてたのよ。本当にあなたは幸せ者ね」


 仙崎さんが、じとっとした視線を向ける。

 眼鏡の奥の瞳が、妖しく光った。


「分かってる!? あの御影さまが他人のためにこんなにも心を砕くなんて、どれほどの奇跡だと思ってるの!? 本来ならば人間の誰にも心を開かず、ただ静謐なる孤高の月のように我々を見下ろしているはずの御影さまが!! そんな御影さまが、あなたにだけはこんなにも懸命に、必死に尽くしていたのよ!? この意味、分かってるの!? え!? ねぇ、分かってる!?」

「え、あ、うん……?」


 僕が適当に相槌を打つと、仙崎さんは腕を組み、深く頷く。


「まったく……。御影さまの慈愛を受けられるあなたは、選ばれし存在だということをもっと自覚して頂戴」


 隣で東雲君が呆然としていた。


 ◆◆◆


 ――燃えている。


 全てが、燃えている。


 街が、ビルが、全てが。

 触れたものすべてが、青白い閃光を放ち、プラズマの粒子となって弾け飛ぶ。


 バチバチバチ……ッ!!


 爆ぜる火花。焼け焦げる空気。

 僕の手が、世界を壊していく。


 止めたい。

 この熱を、破壊を。


 でも、止まらない。


「やめろ……!! 止まれ……!!!」


 叫んでも、熱は増すばかり。

 力の奔流が僕の中で暴れ、制御のきかないエネルギーが次々とあらゆるものを爆破していく。


 そして――


「透真君!!」


 振り向いた先に、久遠寺さんがいた。

 必死に駆け寄ろうとする彼女。


 しかし――


 爆発の光が、彼女へと迫っていく。


「――ッ!!」

「久遠寺さん!!」


 駆け寄ろうとする。

 でも、僕の足元で新たな爆発が生まれる。


 青白い閃光が、久遠寺さんを包む。


「やめろ――――ッッッ!!!!」


 伸ばした手の先で、


 ――ドガアアアアアアアアン!!!!


 凄まじい衝撃波が吹き荒れた。

 爆炎が彼女を飲み込む。

 光の中に、彼女の姿が――


 消えた。


「――いやだ。」


 膝が崩れる。

 震える手を見つめる。


「僕が……僕が……全部……」


 叫びたくても、声が出ない。


 焼け落ちた街。消えた人々。

 久遠寺さんすら、僕の手で――


 その瞬間、


 ゴォォォォ……ッ!!!!


 最後の爆発が僕を飲み込んだ。

 そして、全てが――


 白に染まった。




「うわあああああああああああああああああ」


 ――自分の声で、目が覚めた。


 「ハァ……ハァ……ッ」


 全身、汗でびっしょり濡れている。

 呼吸が荒い。心臓がまだ燃えるように脈打っている。


 まただ。


 あれ以来、毎晩、悪夢にうなされる。


 僕は乱れた呼吸を整えながら、ゆっくりとベッドを抜け出す。

 着替えるために、クローゼットを開け、Tシャツを手に取る。


 最悪だ。


 でも――


 全個室の寮で良かった。

 こんな叫び声を聞かされたら、同室の人はまともに眠れるはずがない。


 ◆◆◆


「なあ、出雲崎! この前の凶度3退治のボーナス、いつ貰えるんや?」


 いきなり、祇園君が話を振ってきた。


「え? ボーナス?」

「せやで。くぐりを退治したら、臨時ボーナスが支給されるんやて」

「そうそう。凶度1だと数千円程度らしいけど、3なら200万を超えるとか」


 東雲君も興味津々で会話に参加してくる。


「いや、何も聞いてないけど……。てか、僕たちまだ見習いだよね? そんなの貰えないんじゃないかな」

「ふっふっふっ……。私が教えて進ぜよう」


 仙崎さんまで参戦してきた。


「ボーナスはプールされるのよ」

「プール?」

「そう、無事に卒業試験に合格し、異能師に認定されたら、今までの分が一括で支給されるの!」

「マジか!? ほな出雲崎なら、卒業と同時に億万長者になれるんちゃうん!?」


 祇園君が興奮して、バシバシ肩を叩いてくる。


「あ、でも税金とかどうなんだろ?。金額が大きいほど、搾り取られるんでしょ?」

「それが、なんとどっこい!」


 仙崎さんが眼鏡をクイッと上げる。


「凶討伐ボーナスは、なんと 非課税対象!!」

「おお! ま、そうやろなー。命張ってんのに、税金で持ってかれたらやる気なくなんで」


 僕をそっちのけで、三人で大盛り上がりしていた。


 ◆◆◆


 校長室。


 豪華な革張りの椅子。

 テーブルを挟んで向かい合う、校長と一人の若い男。


 長身で細身、どこか冷たく影のような雰囲気を漂わせる。

 黒に近い深い藍色の髪は、無造作に伸ばされており、前髪が少し目にかかっていた。


「忙しいところ、すまないね。」

「いえ、ちょうど札幌から戻ったところで。次の任務まで待機中です。」

「そうか、とりあえず次の任務はこちらでお願いすることになる。局に頼み込んで、既に了承はもらってる」

「……そうなんですか? で、その任務とは?」


 若者の瞳は鋭く、どこか遠くを見ているような憂いを帯びた色。


「君に指導して欲しい生徒がいる。」

「……出雲崎透真、ですか?」


 校長が微笑する。


「察しが早くて助かる。そう、君と同じ極級の」

「……まあ、任務であればやりますよ。で、期間は?」

「一ヶ月貰ってる」

「ふっ……スパルタになっちゃいますね」

「構わない。宜しく頼むよ」


 話が終わると、男はゆっくりと立ち上がり、外に出る。

 久しぶりの学校の空気に、懐かしさを感じていると。


「――嵯峨野さん!?」


 後ろから名前を呼ばれる。

 振り向くと、そこにいたのは一乗谷いちじょうだに龍成。

 アメフト選手のようなガタイの後輩が、慌てて駆け寄ってくる。

 体の厚みこそ違えど、嵯峨野も背の高さは遜色ない。


「ど、どうしたんすか? わざわざ学校にいらっしゃるなんて」

「お前はクビだそうだ」

「は? ……クビ?」

「出雲崎のチューター、俺が引き受けることになった」

「マ、マジっすか!? 嵯峨野さん直々に??」

「一ヶ月限定だけどな」


 嵯峨野は肩を軽くすくめる。


「さて――どこまで詰め込むことが出来るかな」

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