わかりあえない
「みつきちゃんていっつも秘密ばかりだよね」
ふと、千歩ちゃんがつぶやいた。
なんでそんなことをいうのか、鈍感な私にはわからなかった。
言葉に迷いつつ、混乱したまま少ない言葉を返す。
「……別に……そんなことないよ」
「だって、大事なことはいつも話してくれないじゃない。そんなの友達っていえるの?」
今まで何度も言われてきたその言葉につい、むっとなる。
「…………じゃあ、そうじゃないんじゃない?」
「っっ みつきちゃんなんて大嫌いっ!!」
はたかれそうな勢いだったけれど実際に手をあげられることはなく、千歩ちゃんは走り去ってしまった。
また、やってしまった。
「あ――――やっぱりひとりが楽だなあ……」
学校の帰り道。
夕日が見えるお気に入りのベンチで、千歩ちゃんとの昨日のできごとを思い出していた。
言葉足らずな自覚はある。
だから無邪気で明るい千歩ちゃんと仲良くなれたのはうれしかった。敬語は嫌だというので矯正する努力もした。仲良くなれる子自体が少ないが、大体いつも「秘密ばかり」と言われてしまう。
これだけ毎回言われているのだからきっと自分に原因があるのだろうが、残念ながらそんなに悪いことをしている自覚がないので直す気にもなれない。
「お、ミッケさん。」
ガサッという音と共に草木のなかから現れたのは私のもうひとりの友達、三毛猫のミッケだった。
手を伸ばすと人懐こく甘え鳴きながらすり寄ってくるミッケを私はぎゅっと抱きしめた。
「私が悪いのでしょうか……でも、悪いとわからないので仕方ないですよね……」
ぎゅっと抱きしめた胸の中で、ミッケが小さく鳴く。
何が悪いのかわからないのに、直しようもない。
きっとひとりがお似合いの定めなのだ。実際、ひとりも割と嫌いではないのだ。
たまに感じるほんの少しの寂しさなどは、きっと気のせいなのだ。
仲良くならなければひとりに戻ることも、辛くもならなかったのに。
「また、判断を誤ってしまいました…………」
「あ……れ……?私寝てました……?ミッケさん……?」
ふと目を開けるとすっかり日が沈み辺りはすっかり真っ暗だった。
抱きしめていたはずのミッケもいつの間にか抜けだしていたらしく、膝にはミッケのほんの少しのぬくもりだけが残っていた。
重い腰をあげて帰路へと歩き出す。家に帰ったとて、どうせひとりだ。何時に帰ろうが関係はないが、補導されたりなんかして母に迷惑をかけるのは胸が痛い。
重い足取りで歩いていると、目の前を毛並みの美しい黒猫が横切った。
「あ、待ってください」
ついつい追いかけて覗き込んだ路地には小さな森があった。
その細い路地の先にはいい匂いが漂ってくるカフェらしき建物があった。
「こんなところにカフェが…………?」
恐る恐る扉を開いてみると、人の気配がしない。
2、3歩歩みを進めたところで背後から突然はつらつな少年の声が降りかかった。
「いらっしゃーい!!!」
(びびびびび……びっくりしました…………)
ついその声に驚いてその場でしりもちをついてしまった。
顔をあげると、年齢は私と変わらないか、いや、むしろ幼いだろうか?ふさふさとやわらかそうな黒髪と、女の子にも負けない大きな瞳が印象的な少年がいた。
「ごめんごめん!大丈夫?」
ついびっくりしてその場にしりもちをついてしまった私に、そういって差し伸べられた手にそっと手を重ねる。
「あれ?きみ……」
少年は少し不思議そうな顔をしたあとに、いたずらそうににっこりとほほ笑んだ。
「だれかとけんかでもした?」
こちらが真剣に悩んでいるというのに不謹慎な子である。
「……別に。関係ありません」
「あー素直じゃないなあ」
「余計なお世話です。帰ります。失礼しました。」
何て失礼なお店だろうか。あとでネットで調べて星評価1をつけて差し上げましょう。あからさまに不機嫌な態度で、くるりと踵を返して退店しようとした時だった。
「あーまってまって!!」
少年から慌てて全力で肩を引き留められる。
「今度はなんです」
少年の手を少し強く払いのけながら振り返ると、嫌悪感の欠片もない笑顔でくしゃりと笑う。
「ちょうどあたたかいココアを入れたんだ。お詫びに一杯いかがですか?」
なんとも似合わない敬語で無邪気にほほ笑む彼の笑顔を見ていると毒気が抜かれそうになる。お金はそんなにないが、正直先ほどうたたねしたせいですっかり夜風に冷えてしまったらしい。
お詫びならもらっても構わないだろう。
「……もったいないので、いただきます」
そういって案内されたバーのカウンター席に腰掛けた。




