雪山
――世界は氷で出来ている――。
そう言ったのは誰だったか……。
一面の氷雪世界が広がる。
白く。
白く。
白い世界。
見渡す限りの氷が僕の視界に入る。
空から雪から雹に変わりつつ有る。
視界を戻すと樹氷が僕の行く手を阻む。
足元は積雪。
太もも迄雪に沈む。
ここは豪雪地帯の雪山。
例え地元の人間でも登るものを拒絶する場所。
そんな所に僕は遭難した。
冬キャンプなど望まなければ良かった。
望まなければ遭難しなかったのに。
というか誠実に嫁が欲しい。
モテないから。
ふう~~。
泣ける。
地図とコンパスを無くしたのは痛かった。
その時にすぐ帰れば何とか成ったかもしれないのに。
冬キャンプをどうしてもしたくてやったのが悪かった。
道に迷い遭難。
スマホの電源がないのに気が付かなかったのが決定的だった。
水は良い。
雪を溶かせば飲めるから。
食料が尽きた。
もう何も食べられず五日。
そろそろ空腹の限界だ。
空を見上げる。
舞い落ちる雹。
美しい。
ああ。
これが人生最後の光景か。
空を見上げれば雹が降り注ぎ……。
ゴスッ。
「いたああああああああああああっ!」
雹が頭に、ぶち当たった。
でけえのが。
凄い痛いです。
痛みで転げるぐらいデカいです。
というか普通にデカい。
「あにやってんだよ」
「へ?」
そんな僕に声をかけてくる女性の声がした。
うん。
肉や野菜とか魚をスーパーの袋を肩に担いだ白い着物を着た女性。
髪は銀色で肌は透けるように白く瞳は青みがかった黒。
ハーフの女性としか言いようの無い美しい女性だった。
というか雪山でありえない軽装。
寒さで直ぐに動けなくなりそうだ。
「幻覚か」
だからだ。
こう結論付けた。
「おい殴るぞ」
何か幻覚がツッコんできたんだが。
うん。
アレだな。
口の悪い幻覚だな。
「白い着物を着た女性……死神か」
ゴツンッ!
行き成り頭に痛みがする。
というか殴られた。
「グーで殴るぞ」
「殴ってるだろうがあああああああああっっ!」
見知らぬ女性に殴られるような事したかっ!
僕っ!
「う~~見ない顔だな~~…御前あにしてんの?」
「地元の人ですか?」
「そうだけど」
「お願いです助けて下さい」
「はあ?」
嫌そうな顔をする女性。
「遭難したんですっ!」
「うわ~~」
凄い嫌な顔された。
酷くない?
一時間後。
とある小屋の中。
「ハフハフ」
「落ち着いて食わんかい」
ガツガツと鍋を食べる僕。
「おかわり」
「すこしは遠慮しろや」
空の椀を出す僕に嫌そうな顔をする。
「お腹空いてて死にそうで……すみません」
ボロボロと泣きながら言う僕。
「あ~~食え」
バツが悪いのか野菜や肉を入れてくれる。
口は悪いが良い人みたいだ。
「美味いいいいいいっ!」
「そうかい」
着物を着た女性の住んでいる小屋で御飯を頂いてました。
ええ。
遭難したので助けて下さい。
そう頼んだら連れてきてくれました。
五分後。
「ご馳走様でした」
「お粗末様」
僕は満腹になり着物の女性にお礼をいう。
「そんで御前なんで遭難したの?」
「冬キャンプに来たら遭難した」
ドスンッ!
「ぎやああああああああっ!」
ドロップキックを喰らいました。
飛び跳ねて壁に激突しました。
「なにすんだよっ!」
「ゔぁっ!?」
メンチ切られました。
すげー怖いです。
「御前~~遭難の名所で冬キャンプだあ~~」
「ひっ!」
目つきが。
目つきが怖いです。
「あに考えてんだああああああああっ!」
「すみませんんんんんんんんっ!」
恥も外見もなく土下座しました。
ええ。
「まったく~~地元の人間も遭難を恐れて近づかないのに」
「すみません」
プンプンと怒る着物の女性に土下座して謝る。
物凄く謝ったら許してくれました。
五分後。
何もすることが無いので御茶を飲んでマッタリしていた時のことだ。
ふと疑問に思った事を聞いてみた。
「あのう」
「あんだ?」
「ここらへん何で遭難の名所なんですが?」
「知らんのか?」
「知らないから冬キャンプに来たんですが」
「あ~~」
面倒そうな顔で目をそらす着物の女性。
「ここらへんは昔から雪女が出てな」
「はあ~~」
「それで遭難者が出るから地元の人間も寄り付かないんだ」
顔を逸らしながら言わんでも。
「今どき雪女なんてねえ~~」
「ほう」
「地元の人の迷信でしよう」
パタパタと手を横にふる。
「ここに居るが」
「……」
自分を指す着物の女性。
まさか。
え?
まさか。
そう疑問に思った瞬間気配が変わった。
着物の女性。
いや。
雪女の気配が。
「ここで見たことは絶対に言うなよ御前」
思わず頷く。
「もし言ったら分かるな」
嫌な汗が出る。
嫌な汗が。
体の芯まで冷えるような汗が。
こいつは。
こいつは。
ヤバい。
人とは違うナニカだ。
人では無い。
人ではないナニカ。
関わってはいけない。
関わったらヤバい。
人としての本能が僕に危険をささやく。
でも何故か疑問が思い浮かぶ。
「あのう~~」
「あんだ?」
「なんで僕を助けてくれたの?」
「なにいってんだ」
「はい?」
「御前が助けてと言ったんだろうが」
「……」
うん。
嫌な汗が消えた。
十年後。
冬のある晩。
仕事を終え帰宅してると前に。
背の高い、ほっそりした、美しい娘が歩いた。
というか走ってる?
いや。
待て。
何か見たこと有るような……。
あれ?
黒髪を銀にしたら……似てね?
あ……。
ジャンプした。
あれ?
なんで?
此方に足を向けてる?
「なんで私のことを言わんんんんんんんんんんっ!」
ドスススススススススススススッ!
「ぎやあああああああああああああああああっ!」
飛び膝けりを受けた。
そのま吹っ飛ぶ僕。
電柱に叩きつけられました。
ええ。
「な……なにを……」
ボロボロに成りながら立ち上がる僕。
「御前が人に話さんから会いに行けんだろうがっ!」
「誰に会いに?」
「御前っ!」
指さされました。
「ええ~~」
「来る日も来る日も待っとったとにっ!」
「いや話すなと言ったよね」
「言うのがお約束」
「理不尽んんんんんんんんんっ!」
泣きたく成った。
約束守ったのにっ!
ひでえ~~。
「あ~~僕に会いにって……なんで?」
嫌な予感しか無いんだが。
「人に話してたら御前を殺しに行けるから」
「更に理不尽んんんんんんっ!」
泣きたいわ。
ええ。
「でも話して無いから御前の嫁にならんといけん」
「有難うございますうううううううううううっ!」
最後にラッキーでした。
ええ。
結婚出来るなんて。
ええ。
結婚できれば妖怪でもいいわ。