悪意
戦力が増えたので、こちらも大規模攻撃の準備に入る。まぁ、これまで使っていたヤツのアレンジだが、一気に殲滅できるんだから大規模攻撃と言って構わないだろう。となりでヤオが大型粒子砲による砲撃を開始しているので、戦線の維持自体は問題ない。俺の攻撃が始まれば押し戻せるはずだ。
エアバイクのバッテリーからスタッフに電力を供給する。アクティブ・アウトフィット経由で外部バッテリーが使える様になったが故の攻撃だ。さぁ、喰らえ!
「数えられぬあまたの光よ、我が槍となりて敵を貫け。トリニティ・レイ!」
このエアバイクを外骨格装甲モードにすることによって使用可能な電力が爆上がりしているおかげで、俺が単体で放つよりも多くのレーザー光線を放てるようになった。10条どころか、100条を超える数のレーザーを敵のガン・ドロイド部隊に向けて放つ。威力も倍増させているので、一撃で沈没させられる。
ガン・ドロイド部隊の後ろ側から100体ほどをロックオンし、一気に屠る。約8割は破壊できたはずだ。とりあえずこの攻撃が功を奏したのか、残っていたガン・ドロイドもシロウ達がすべて破壊することに成功した。これで少し息が付ける。
「とりあえず一旦休憩だ。まだ後続が来るかもしれないから、警戒だけは怠らないでくれ。」
「イエス、マスター。」
シロウ、ミナ、クミ、クウヤが返事をする。ヨナとヤオは俺のチームじゃないから、とりあえず頷くだけだが意思疎通は出来ているので問題ない。
コナ・シティへと繋がるサドルロード周辺には200体近いガン・ドロイドの残骸が散らばっている。この片付けは大変そうだなぁ。ここを走る車両なんてほぼ無いだろうから、このままでも構わないんだけど、あとでシティに報告して片付け部隊を派遣してもらう必要がありそうだ。
しかし、こいつらの出所と目的は調べておく必要がある。ヒロなのか、マウナケア山頂なのか。それともコナ・シティを含むハワイ島全域を制圧することなのか。
「クミ、クウヤ。こいつらがどこから現れたか、わかるか?」
クミとクウヤは互いに顔を見合わせて相手の意思を確認したらしい。眼で語るってヤツか。すごいな、お前ら。
と思ったけど、何の事は無い、普通に通信して互いの視覚情報を確認していただけらしい。
「残念だけどー、そこまでは確認できなかったっていうか。」
「ここからコナ・シティへ向かい始めた途端に、前方から押し寄せてきた感じでした。」
ふむ、わからないか。この先には何があったかな?
「マスター。この先には昔の軍事基地などがあります。ポハクロア訓練場、ブラッドショウ陸軍飛行場がそうです。あともう1つクーパー飛行場というのが先の2つの基地の南側に存在しています。」
「なんか、物資とか運び込み放題な感じだなぁ。」
「おい、シロウ。そういうフラグを立てるようなこと言うなよ……。」
ミナの報告にシロウが不吉なことを言う。無限リポップするガン・ドロイド部隊とか、シャレにならんぞ。
「タカシマ様。コナ・シティ方面に土埃が見えます。」
「シロウーっ!」
「すまん、マスター!」
どうやら再びガン・ドロイド群を寄越してきたらしい。しかもよく見るとサドルロードだけでなく、その少し南、つまり西北西方向、つまりクーパー飛行場があると思われる場所からも向かってきている。あ、サドルロード側の部隊が二手に分かれて、片方は俺たちの北方に回り込もうとしている。クーパー飛行場方面からの部隊は真西から攻撃できるように展開し始めた。下手すると後方に回り込まれかねない。退路を断たれる可能性が出て来た。こりゃダメだ。イヨと合流したら戦線をヒロの手前まで下げよう。
「ヨナ、ヤオ、イヨはまだ見えないか?」
「まもなく合流出来るとのことです。それよりも、二手に分かれた部隊の片方が、イヨの後方を通り抜けようとしているそうです。」
「俺たちの退路を断つつもりだな。イヨには分岐ポイントへは来ずに、荒野を突っ切って、プウオオ・トレイル辺りで合流しようと言ってくれ。」
「了解です。」
ヨナがイヨに合流ポイントを伝える。ヨナが顔をしかめているのはあれか? イヨが文句を言っているのかな。でも仕方ないよな。
「マスター、意見具申です。」
「なんだ、ミナ?」
「プウオオ・トレイルだと後方に回り込まれる可能性がありますので、イヨさんと合流したらさらにヒロ側にあるカウラナ・マニュ・ネイチャー・トレイル辺りまで後退して迎え撃った方が良いと思います。」
「よし、じゃあそれで行こう。全員、とりあえずイヨとの合流ポイントまで撤退だ!」
「イエス、マスター!」
大急ぎで後退する。サドルロードはキチンと舗装されている道なのでありがたい。それに転送機ネットワークが主流になっているこの時代でも、それなりにメンテナンスがされているようで、荒れた感じは無い。まぁエアバイクで走るのに路面状況なんか関係ないだろうと言われたら半分はその通りなんだが、メンテナンスのされていない道には植物の種が入り込んで雑草が生い茂ったりするからな。そうなると高度を少し高めに取らないといけなくなるから、地面効果が弱くなって余分なエネルギーを使うんだよ。ま、データベースからの受け売りだけどな。脳内で検索できるこの時代、バンザイ!
10kmほど戻ったところが合流ポイントと指定した場所だ。俺たちが到着すると同時に、イヨも山の斜面を突っ切ってやってきた。何か切羽詰まっているように見える。まずいことでも起きたのか?
「タカシマ様! こんな開けた場所ではダメです! 大急ぎでどこか、迎撃しやすい場所に移動しないと!」
「イヨ! 何があった?!」
「とりあえずヒロ方面に走りながら情報を共有しましょう!」
合流したばかりだというのにせわしないが、そのまま合流地点を通り過ぎ、ヒロ方面に向かう。イヨは早速ミナと情報共有を始めたようだ。ミナの表情が険しくなる。
後方を映しているカメラの画像を取得し、全員に共有してくる。運転を自動モードに切り替えて映像を確認すると、思ったよりも近くに敵の姿が見える。そしてその姿をズームアップすると通常のガン・ドロイドのようなキャタピラやタイヤではなく、ホバー走行をしているのが見えた。つまり俺たちの乗っているエアバイクと同等のもので、速度も同じくらい出る上に、機動力も同等だろうと想像できた。それが約100体、俺たちを追尾しているのだ。
「マスター、足を止めて迎え撃っていたら、高い機動力と数に物を言わせての包囲殲滅戦に持ち込まれるところでした。」
ちょっと想像してみた。足を止めて迎え撃つ俺たちに対し、機動力を活かして包囲し、少しずつ包囲網を狭めながら攻撃してくるガン・ドロイド部隊。機動力が同等なら、数の暴力で押し切られる。一点突破をしようにも物量で押されて分断され、一人ずつ討ち取られていくのが目に見えている。イヨの判断は正しい。だが、問題はこのままヒロの街まで連れて帰るわけにはいかない。今のタイミングだとまだルォシーの治療というか、転送機への投入は終わっていないはずだ。せめて2~30分くらいは稼ぎたいところだ。だからどこかで今俺たちを追ってきている部隊は殲滅しておきたい。
とはいえ、なにしろハワイ島というのはマウナケア山とマウナロア山という盾状火山で作られている島だ。非常になだらかな火山で、起伏は少ない。植物相の遷移が21世紀に比べて進んでいるとはいえ、森林はまだまだ少ない。最悪は放棄されたヒロの街に誘い込んで何とかするしかないが、ベースにしているヒロ空港に近くなりすぎるので、数は減らしておきたい。
「ミク。とりあえず大規模魔法を使って数を減らしてみる。」
「わかりました。後方をお願いします。迂回してくる機体は牽制します! みなさん、左右後方の部隊を牽制してください!」
「頼んだ!」
「任された、マスター!」
俺の左右をメンバーが固める。進行方向はそのままに、俺は180度エアバイクの向きを変え、スタッフを構えて呪文を唱える。
「数えられぬあまたの光よ、我が槍となりて敵を貫け。トリニティ・レイ!」
高機動だろうが光の速度で飛んでくるモノは避けられない。まずは10体ほどを撃破するつもりで放ったのだが……まさかの無傷だと?! レーザーが表面で弾かれたように見えたぞ?
「マスター、対レーザーコーティングが施された装甲のようです。別のものをお願いします!」
「そんなのありかよ! 仕方が無い。雷よ、我が剣となりて敵を討ち滅ぼせ。ライトニング・シュート!」
だが電撃を受けても脱落する機体は出なかった。よく見てみると、機体は帯電しているものの地面との間にパチパチと小さな火花が発生しているのが見える。地面に対して電気がアースされているようだ。これ、どう考えても俺の魔法を無効化するように対策を打ってるよな? なら物理攻撃も効かないのかな? やってみるか。
「きらめく宝玉たちよ、疾風のごとき矢となりて敵を穿て。ダイヤモンド・バレット!」
速度を増やして実体弾を撃ち出す。ノーマルのままであれば弾かれる可能性があったので、速度を増すことで運動エネルギーを上げてみる。するとさすがに今度は効果があったようだ。ホバリングユニットに直撃を受けた数体がもんどり打って地面に激突する。
「足のホバリングユニットを狙え! 少しは足止めが出来そうだ!」
「了解!」
俺たちは次々と攻撃を行いながらヒロの街に向かって行くのだった。
「ほう。タカシマ達はアレを撃破できるのか。」
「シティも対策を打ったみたいだけど、それを越えてくるあたりはさすが召還者というべきなんだろうね、ワーヒドゥ。」
「そのようだな、イスナーン。」
イブン・アル・ハサンと同じ顔をした2人の男がタカシマ達とそれを追撃するガン・ドロイド部隊の戦闘を遠くから眺めていた。ワーヒドゥと呼ばれた方は近接戦闘用の武器を持ち、イスナーンと呼ばれた方は対戦車ライフルを抱えている。2人ともエアバイクにまたがっている。
「あの撃破されたガン・ドロイド。研究のために持ち帰りたいな。」
「そうだね、ワーヒドゥ。タカシマとリーの能力を無効化する装備を搭載した機体だからね。私たちの戦力増強の役に立ちそうだよね。」
「ああ。私たちの装備を充実させるのに必要な情報だ。アアハーの連中にも提供出来れば、タカシマとリーは私たちの敵では無くなる。」
戦闘域がヒロ方面に移動したのを確認したイスナーンは、取り残されていた何体かを、持っていた対戦車ライフルで撃破した。
「これだけあれば、十分だよね? そういえばサラーサとアルバァはオリジナルからの課題はクリアできたのかな?」
「『オリジナル』と呼ぶと機嫌が悪くなるぞ。『スィフル』と呼んでやれ。」
「まぁ、いいけどさ。自分を転送機で増やして戦力にしようなんて、普通は思いつかないよね。良い感じで壊れているよなぁ。」
「イスナーン、それはお前も同じだぞ。私もだが。」
「転送機で作った順に1(ワーヒドゥ)、2(イスナーン)、3(サラーザ)、4(アルバァ)って名付けるんだもんなぁ。」
「その他は『アアハー』ってのもそのままだしな。」
その時、エアバイクに搭載されている通信機から声が聞こえてきた。
『こちらサラーザ。コナ・シティを完全に破壊した。生存者はいない。繰り返す、生存者はいない。』
「ご苦労だった。アルバァも無事か?」
『たぶんな。別行動したから知らん。アアハーの連中が何人か怪我をしただけだ。これから撤収する。』
「わかった。こちらもタカシマとリーの様子を確認したら戻る。先にスィフルのところに戻ってくれ。」
『了解。』
「イスナーン。アレを回収したら先に戻ってくれ。ヒロの様子は私が見に行く。アアハーは何人か連れて行く。」
「わかったよ、ワーヒドゥ。後は任せた。」
ワーヒドゥとイスナーンは顔を見合わせ、アアハー達を従えて高機動型ガン・ドロイドを回収しに行くのだった。
「きらめく宝玉たちよ、疾風のごとき矢となりて敵を穿て。ダイヤモンド・バレット!」
キツイ! 遅滞戦術をとりながらヒロまで戻ってきたものの、撃破できたガン・ドロイドは30体にも満たない。たった3割しか削ることが出来なかった。こいつら、間違いなく俺たちの天敵となるように作られている。しかも人間に対する不殺条項は無視するようになっているのか、俺に対しても攻撃に遠慮が無い。この装備でなかったら、身体に風穴を開けられていただろう攻撃を何度か食らった。どこの勢力かはわからんが、俺たちを害しようとする悪意だけはひしひしと感じる。
「もう追いつかれます! 街の廃墟で迎え撃ちましょう、マスター。」
「マカアラ・ストリートの辺りにショッピングモールがある。あそこならちょっとはマシなはずだぜ、マスター。」
「わかった。そこで迎え撃とう。ミク達にも連絡を!」
「既に送ってます。」
既に300mを切っている敵勢力を引き連れて、俺たちはショッピングモール跡に飛び込んだ。ルォシーが復活すれば、いくら高機動ガン・ドロイドといえど、すぐに殲滅できるだろう事を信じて。
なかなか更新が出来ません。どうにも年末進行というか、年末の忙しさに巻き込まれてしまいました。
できれば年内にあと1話出したいなぁ。