第6ミッション準備
すみません、更新が遅くなりました。
本業の締め切りが近いとしんどいなぁ…
キャシーがジークフリードを連れて帰った。とりあえずジークフリードにはアクティブ・アウトフィットを1つ渡し、それを使ってもらう。彼の部下にはキャシー経由で製造方法を回してもらう事とした。これで彼の戦力もアップする。もちろん敵対されると困るんだが、当面は共闘することになったのだから、仲間の強化は重要だ。
彼らを見送った後、俺とルォシーのチームは共同演習を行った。その日は翌日の演習予定を決めるだけとし、本格的な演習は夜が明けてからとした。演習内容はアクティブ・アウトフィットと外骨格装甲モードのエアバイクを使った近接戦闘訓練だ。銃火器の取り扱いはもちろんだが、高周波振動剣を効果的に使う戦い方も入れた。最後は斬り合いになるからな。とはいえ、高周波振動剣同士の斬り合いだと、発生するノイズがすごい。黒板をツメで引っかかれる音が好きな奴はいないと思うが、あれの数倍はキツイ。ナノマシンを体内に注入した今となっては不要なのだが、それでも絶対にイヤホンを付けた状態での戦闘にしよう、そう思った。そうしたらノイズ・キャンセリング機能で完全に音は相殺されるからな。
しかしこういう展開になるというのは想定していなかったからな。訓練メニューを作り直す必要がある。とはいえ、トウキョウ・シティに内容を知られるのは得策ではない。今回はルォシー達との連携だけを確認したら、とっとと拠点に戻ることとしよう。
そしてキャシー達との密談の3日後。次の攻略ポイントはカラコルム・シティに決まった。俺とルォシーのチームはこの3日間、連携の取り方を何度もシミュレーションし、ずいぶんと円滑に部隊運用ができる様になってきた。そういうタイミングでトウキョウ・シティから中田氏が攻略ポイントの話を持ってきたわけだ。
「残りは3ヶ所ですが、真っ先にカラコルム・シティを攻略するべきだと判断しました。」
「その理由を訊いても?」
「はい。ドバイとムンバイを攻略した召還者のやり方が、あまりにもひどいものでして……カラコルム・シティから『何とか先にうちのポイントを攻略して欲しい』と泣きつかれました。」
「えー……何なの、それ?」
ちょっと萎えるな。まぁでもドバイはともかく、ムンバイの攻略戦は確かにひどいものだった。というかひどい以外の言葉が出ないレベルだった。キャシー達と話をしていたときには攻略方法まではわかっていなかった。だから「次はカラコルム・シティだろう」という当たりだけをつけ、そこでハサンをとっ捕まえるつもりだったのだが。
「タカシマ殿もムンバイ・シティの様子はご覧になったでしょう?」
「まぁ、そりゃあな。」
「さすがにあれはキツイ、というのが先方の感想です。」
うん。確かにキツよね。簡単に言うと攻略方法が自爆テロによるものだったんだよな。体中に爆弾を巻き付けた人々が、よくわからない雄叫びを上げながら攻略ポイントに向かって突撃していくんだ。阻止する側は最初止めようとしたんだけど、止められるとその場で自爆する。だから守備側のアンドロイドも「止めたら人間が死ぬ」という状況だと止めることができなくなった。そうしたら、人々はアンドロイドに抱きついて自爆、攻略ポイントの入り口で自爆、中で自爆、入りきれない人は隣の建物で自爆と、阿鼻叫喚の地獄絵図になった。映像で観ていたこちらのメンタルが折れかけるぐらいひどい様子だった。
「それで、このままだとカラコルム・シティでもあれが起こると考えたわけだな。」
「その通りです。恐ろしいのは、自爆した人々は、自分から喜んで自爆しているというところです。」
「あれは不思議だったんだが、何故あの人達は自爆したんだろう。」
確か300年前の時代でも、イスラム原理主義の過激派が時々自爆テロを行っていた。特別な教育を受けていなくても、特殊技能や能力がなくても実行できる攻撃だからな。
ただ、死ぬことを恐れないようなインセンティブがないと難しい攻撃方法だ。俺たちの時代には結構狂信的な信者が行っていたという印象がある。まぁ平和な日本にいたので、もしかしたら現地では違った事情があったのかもしれないけど、そこまではわからん。この時代には何があるのか?
「その……『何のために生まれてきて、何のために生きているのかがわからない』という人々が一定数おりまして……」
「それは自分探しの旅に出たりするヤツか?」
「『自分探しの旅』ですか? それは一体どういうものなのでしょう。」
「そうか、残っていない表現もあるんだな。そうだなぁ……人生に迷ったとき『自分が本当にやりたいこと』とか『今の人生を変えるきっかけを探す』ために出る旅だ。」
「なるほど。300年前にはそういう風習があったのですね。」
別に全員がやっていたわけじゃないぞ。少なくとも俺は出たことがない。というか、中田氏をはじめ、俺のチームのメンバーやルォシーチームのメンバーも、俺をそういう目で見るのはやめてくれないかな? 俺は自分探しの旅なんかする余裕もないくらい忙しかったんだよ、ブラックな上司達のおかげでな!
「まぁユウキがどんな自分探しの旅をしたのかは知らないけど、この時代ではそういうのはないの?」
「そうですね。ある程度は自分が向いていそうな適性なんかは定期的に調べますし、上手く行かなければ別のことをすれば良いだけですし。そもそも『稼ぐために働く』という概念がありませんので、向き不向きとかは気にしない人もいます。」
ちょっと、俺を置いてきぼりにして話を先に進めるのはやめてくれませんかね? いいけどさ。
「それでも一定数はいるんだろ? じゃあ自分探しの旅をすればいい。」
「それは、どのようにやるのでしょう?」
「300年前だと……自分のまったく知らない土地にヒッチハイクしながら行き、現地でアルバイトをしながら多種多様な文化に触れる……とかかな?」
「ちなみにタカシマ殿はどのような旅を?」
「いや、俺は自分探しの旅ってしたことがないから……」
ざわっ。部屋の中がざわめいた。「ウソだろ?!」みたいな雰囲気はやめてくれよ、ホント、頼むから。
するとミクが「わかりましたよ」と言わんばかりの表情、と言ってもあまり表情の変化のない人なんだが……それでも長く付き合うとわかってくる表情の変化をおこし、話し始めた。
「なるほど。つまり秀でたところのないマスターのような凡人は『自分探しの旅』などする必要がなく、秀でたものを持つ者が行き詰まったときに自分を見つめ直すために行うというわけですね。」
「ああ、なるほど。そういうことかぁ。それなら納得ー。」
クミさんや。納得しないでくれるかな、悲しくなるから。ダメだ、これは何を言っても俺の心が折れるまで続くやつだ。話を変えなくては。
「俺の話はいいんだよ。で、その『自分探しの旅』が必要な人たちと、自爆テロとはどう繋がるんだ?」
「端的に言うと、『生きている意味が見いだせないから死のう』というわけです。」
「短絡過ぎだろっ!」
何のために生きているかわからないから死にますって、それが普通なのか?
「あくまでもごく一部の者がそうなだけで、全員がそういうわけではありません。ですがどうしても一定数はそういう人物が出てしまうのです。」
「そういうのはメンタル面をサポートする人がいるんじゃないのか?」
「もちろんいます。それでも自室に閉じこもったままの者の中には、手遅れになってから発覚する場合もありまして……」
「それで、ムンバイではそういう連中が悩みを解消する方法として自爆テロを選んだのか。」
「そのようです。イブン・アル・ハサンはどの様にしてかはわかりませんが、そういう悩みを持った者達に声をかけ、爆弾を提供し、日時を決めて攻略ポイントに押し寄せるよう誘導したようです。」
なるほど。それであの地獄絵図ができたわけだ。しかし、だとするとカラコルム・シティに限らず、他のシティでも同じ事が発生する可能性はあるな。ムンバイ・シティは攻略ポイントがあったが、攻略ポイントの存在しないトウキョウ・シティだって、もし「行政府で自爆テロをしよう」などと呼びかけられたら、同じ事が起こる。
「とりあえずムンバイ・シティの様子は外に漏れないように情報規制がかけられていますが、今後も似たようなことが発生すると、もう手を付けられなくなります。ですので、我々トウキョウ・シティをはじめ、世界中の人口の多い有力シティではそうなる前に攻略を終わらせてしまいたい、というわけです。」
「そういうことなら、2週間おきにとか悠長なことを言っている余裕はないな。」
「そうね。最短だとどれくらいで準備できるかしら。」
「とりあえず情報収集と作戦立案は必要だ。今日中に何とかなるか?」
「はい、ヒトミさん、イヨさん、ミナと私で作戦の方は何とかします。情報収集の方は……」
「私たちがニーナさん、ニックさんと手分けして集めます。」
「ヒトハさんとフタバさんが手伝ってくれるなら、何とか2時間ほどで必要な情報を収集してみせます。」
ならば、作戦立案までは何とかなる。すると準備に1日かな。
「ミサ、ミイ。明日いっぱいで必要な資材の準備は可能か?」
「なんとかします、マスター。」
「あー、そーしたら、あーしとクウヤ、それにシイとヨナで明日にでも先行してカラコルム・シティに入るわー。」
「ああ、頼む。すると、明日準備ができるのであれば、明後日に実行かな。」
「タカシマ殿、急がせてしまい申し訳ございません。そのスケジュールでこちらも先方と調整を始めます。」
「よし、じゃあ明後日に実行の方針で行く。みんな、かかってくれ。」
「イエス、マスター!」
急な展開だが仕方がない。問題はこのことをどうやってキャシーとジークフリードに伝えるか、だが……仕方がない。アケミさんに骨を折ってもらうか。
中田氏が部屋から退出したのを見届けてからミナに声をかける。
「ミナ、すまないがちょっと伝令を頼む。」
「はい。作戦立案までには少し時間がありますので、今のうちに行ってきます。」
どうやら皆まで言わなくてもわかってくれたらしい。なにげに有能だからな、ミナも。
そうして翌日、作戦の詳細を頭に入れた事前潜入組を見送ったあと、残るメンバーは資材の準備と連携の確認を行っていた。突貫で決まった作戦だが、俺のチームは既に6回目だし、ルォシー達も2回目なので前回ほどの準備期間がなくても何とかなるだろう。あとはハサンがやってくる前に何とかする必要があるわけだが、正直、キャシーと話をしていた「5人が集まる」ということを優先するならもう少し時間が欲しいところだ。ハサンが到着したタイミングで攻略戦を行い、彼の出番を奪った上で話し合いに持ち込むのが望ましい。そんなに上手く行くとは思えんが、キャシーなら何か俺たちの知らない情報を掴んいでるかもしれないから、現地で合流して何とかするしかないな。
作戦当日。俺とルォシーのチーム全員が揃った。今回は資材も多めに準備している。そして普段は拠点にいてバックアップをしている情報収集組と資材調達組からも現地入りするメンバーを立てた。俺のチームからはミイとニック、ルォシーのチームからはサヤとヒトハが参加だ。この4人は転送した先にベースを作り、不足している情報を収集して作戦の修正サポートを行う。もちろん資材が不足する可能性もあるので、そこはミイとサヤがニック、ヒトハと連携してあぶり出す。その情報は俺たち攻略メンバー以外に拠点居残り組にも伝えられ、必要な対応を行ってもらう。
「じゃあ行くか。」
「イエス、マスター。」
今回もランドクルーザーを用意してカラコルム・シティに向かう。全部で8台という大所帯だが、すでにカラコルム・シティには昨日出発した事前潜入組がウランバートル・シティ経由で転送機を持ち込んでいるはずだ。カラコルム・シティは内陸だが列車の駅があるので、それを使って運び込んだ。そういう意味では中央アジアのモンゴル・ウイグル同盟には感謝だ。
さて、これでハサンを出し抜いて上手くやれれば良いんだけどな。まぁ何とかなるだろう。
そう軽く思っていた俺の考えが甘いものであることを、その後、俺たちは痛感させられることになった。まったく、世の中というのは思った通りにはいかないもんだな。