アツギ・ヴィレッジ
遅くなってしまい申し訳ございません。
「投稿時間まで3時間あるから余裕!」
とか思ってたら、まさかの泣きつきが!
翌日の朝、いつも通りに起き出した俺たちは、たき火スペースで朝食を摂る。キャンプの朝ご飯って何だろう? 経験のない俺には何が良いのか、何がキャンプっぽいのかがさっぱり分からなかったが、それはなんでも良いらしい。昨日の夜に作ったのは良いけど食べきれなかった焼きおにぎりがあったので、それを使ってだし茶漬けっぽくする。
あとは簡単な味噌汁をミサが作ってくれた。これだけでも何となく日本の朝ご飯っぽくなるから不思議だ。キャンプ飯かと言われると「?」だが。
「やっぱり酒を飲んだ翌日の朝は、お茶漬けなんかが良いよなぁ。」
「そうですね。さっぱりしていて胃にも良さそうです。」
ミナがそう言ってゆっくりとだし茶漬けをかみしめている。味噌汁もシジミの味噌汁らしく、二日酔い対策に良いらしい。確か俺のいた300年前にもそんな感じのCMがあったような気もする。
さすがに長距離移動もあり、それなりに疲れてもいたので朝までハッスルということもなく、適当なところで全員が寝落ちしていた。だからまぁ体力的には問題ない状態だ。朝飯を食べれば、通常状態にまで戻るだろう。
「それでこの後はどうします? アツギ・ヴィレッジに行ってみますか?」
「そうだなぁ。一応顔を出しておくか。気になることもあるし。」
「気になること、ですか?」
「ああ。あそこの連中を見て、何か気が付いたことはないか?」
ミサとミナが顔を見合わせた。表情を見る限り、俺の言いたいことには気が付いていないようだ。
「あいつらの体型、シティの連中とは違ったんだよ。」
「それは確かにそうですが、シティの人たちは運動と栄養摂取バランスの問題で、その、マスターの言う『デブガリ』体型なのでは?」
「基本的にはそうだろうな。でも身長も顔の形も俺と同じ感じだった。つまり、300年前と同じ様な生活をしているとも考えられる。」
「それは重要なことなのでしょうか……?」
なるほど。まだピンときていないか。どう説明したら良いか、俺も悩んでいるからなぁ……。
「そうだなぁ……例えばジークフリード。身長は俺よりも少し低いくらいだった。それでも当時からすれば結構身長は高いと思う。一方、筋肉の付き方は会社でパソコンの前に向かっていただけの俺とはまったく違う。それに食事も固い物が多かったかもしれないな。固い物を食べるために顎が発達していたから。」
「……なるほど……?」
「そしてこの時代の人間は、俺たちの時よりも自力での移動が少ない。それは転送機があるからだ。それに物を持って移動することも少ない。だから手足は俺よりもひょろひょろだ。胴体は栄養が足りているから少し太め、そして顎は柔らかい食べ物が多いから細くなっている。」
「ああ、そういう意味ではアツギ・ヴィレッジの方々はマスターと同じ様な体型ですね。」
「そうなんだよ。農業をやっているだけではああならない。シティの、それこそ長津田の辺りで見た連中は典型的なシティの人間の体型だった。そしてそれは短期間その生活をした程度では変化しない。」
「つまりアツギ・ヴィレッジの方々は、生まれつきシティの方々とは異なる生活をしている、と?」
「そう考えるべきだろう。そしてそういう連中が、もしかしたら世界中には結構いるのかもしれない。」
そう。悔しいがキャシーや案内人はシティの外を見るように言っていた。それはシティがこの時代のすべてではないかもしれない事を意味していたのではないかと、今更ながらに気が付いたわけだ。俺はこれまでシティの人間の言うとおりに動いてきた。いやそれはこれからも一応はそのつもりなんだが、情報は多い方が良い。シティから与えられた情報しか持っていないというのは、危険なのだ。
そういう話をミサとミナにする。
「確かに情報は多い方が良いですね。」
「だろ? だから今日はこの後、アツギ・ヴィレッジに行ってみようと思う。」
「わかりました。では片付けたら移動ですね。」
「あーそれなんだが……」
「何か問題でも?」
「ミサ、エアバイクに乗れそうか?」
「戦闘は無理ですけど、運転だけなら。」
「じゃあ、ランドクルーザーはここに置いて、エアバイクで行こうと思う。」
この件は速度を重視したい。それにエアバイクだけで行けば、土産をたくさん持たされることもないはずだ。そして土産物には何が仕込まれるかわからない。だから注意しようというわけだ。それにエアバイクなら俺とミナは外骨格装甲モードに移行しての戦闘も可能だしな。
「そこまで警戒しなくても良いと思いますけど……」
「念には念を入れる感じだよ。」
「わかりました。」
俺たちは撤収作業を行い、すべてのキャンプ道具をランドクルーザーに詰め込む。そしてエアバイクを引っ張り出し、それぞれ1台ずつにまたがってアツギ・ヴィレッジに向かった。場所は三川合流地点から川を下り、高台になっている場所だ。300年前には東京農業大学のキャンパスがあったはず。
水田の上を飛ぶと苗に影響が出そうなので、川から水路沿いに入って農道を目指す。昨日走った大きな農道なら、目的地に繋がっているはずだ。
10分も走ると旧ぼうさいの丘公園というか東京農業大学のキャンパスというかが見えてきた。そこにはコンクリートで作られたと思われる1階建ての建物……いや豪邸? ものすごく広い面積を専有している建物が建っていた。もしかしたら全員が同じ建物の中で寝泊まりしているのか? まぁ行ってみればわかるだろう。とはいえ、屋根には木が生えているので、地面を掘ってトンネルを作り、コンクリートで壁を固めたのかもしれないけどな。
ミナを促してエアバイクを先に進めた。建物の近くまで行くと、何人かの村人? が俺たちを出迎えるかのように待っていた。ああ、1人は昨日、村長と一緒にいたヤツだな。
「おーい、遊びに来たぞ。コバヤシ村長はいるか?」
出迎えに来ていた連中の内の1人が集落というか建物の中に走って戻っていく。村長を呼びに行ってくれたのだろう。
「別にアタシを呼びに行ったわけじゃないよ。」
「えっ?」
振り返ると、そこに村長がいた。いや、いつの間に?
「言っておくけどね、アンタらがここに来るのはずっと前から見えていたんだよ。こんだけ見晴らしが良いんだ、見えないわけがなかろう?」
「じゃあ、アイツは何で走って行ったんだ?」
「アタシらが思っていたよりも早く来たからね。歓迎会の用意を前倒ししないといけなくなったのさ。それを知らせに行かせた。」
「そりゃ済まなかったな。というか電話なりメッセージなり送れば良いんじゃないか?」
「アタシ達はシティの連中と違ってナノマシンを入れてはないからね。それにこの広さでわざわざ電話を使う必要もないしねぇ。トランシーバー? あたりが良いだろうけど、これくらいなら走った方が早いさね。」
まぁ別に俺がとやかく言う話でもないし、別に構わんよ。
「歓迎会ということだが、まずはここがどんなところなのかを教えて欲しいな。何しろ俺たちはシティからの情報だけしか持っていない。何もわからないんだ。」
「そうさね、立ち話もなんだし、施設を案内しようかねぇ。ソウタ! ユウキを案内しな。隠す物はなにもないから、全部見てもらいな。」
「わかりやした。こっちです。」
ソウタと呼ばれた男性が俺たちを先導する。建物の中に入っていくと、農機具が並んでいる光景が目に入ってきた。おお、これだけ並んでいると壮観だなぁ。
「ここは外での農作業を行うための収容しているエリアです。外に出しやすい場所へ置くようにすることで、作業効率が上がるわけです。」
「俺がいた時代にあった機械と似ている……か?」
「そうっすね。行う作業自体は変わってはいやせんから、大きな変化はないかと。」
「電動化されたくらいですかね。」
ソウタの説明を一緒に回っていた女性がフォローする。できる女性っぽいな、この人。何となくこの間までのミナに似ている気がする。感じとしてはもう少しキツメかな。ソウタが少し恐縮しているのがわかる。でも恐縮だけじゃなさそうだ。あー、これは惚れているけど言い出せない系かな?
その後も拠点内を案内してもらう。大きく分けると最初に見せてもらったのが整備・保管区、それ以外に居住区、収穫物保管区、研究区などがあった。研究区の元になったのは東京農業大学で保管されていた研究室らしい。機材だけじゃ無く、種や苗なども保管されていたということで、それを元にして農園を作ったとのことだ。
その後、居住区に移動して収穫物を使った料理をいただく。ここまで歓待してもらう理由が解らん。確かに昨日、拘束される前に撃退したが、だからと言ってそれが歓待の理由になるとは思えない。
「なぁ、なんでここまで接待されているんだ、俺たち?」
「ああ、そりゃあね、拘束できないならここのことを黙っておいてもらおうって寸法さね。」
「別にそもそもここの存在を報告する必要すら俺たちには無いんだが……」
「そうは言っても、一応念のためさね。ま、シティの連中がアタシらに興味があるとは思えないけどね。」
そもそもなんで存在していないことになっているんだろう? その疑問をコバヤシ村長にぶつけてみる。
「そうさねぇ……説明が難しいんだけど。例えばアンタが日本地図の修正をする担当者だとする。もしサハラ砂漠に緑地が発生したらどうする?」
「いや、サハラ砂漠は日本じゃないから、別に放置するんじゃないか?」
「だろ? シティの連中にとって、更新するべき範囲は自分たちのシティの範囲だけなのさ。だからシティの外については無関心さね。」
「いや、でも……」
「シティ同士は転送機ネットワークで繋がっているから、シティ内の変更はリアルタイムで更新しているさ。でもね、シティの外は彼らにとっては、アンタにとってのサハラ砂漠と同じなのさ。」
「ということは、他にもここのような場所があるのか?」
「ないわけないだろ? アタシ達も2代前までは房総半島にいたんだよ。」
「千葉県か。なんでこっちに来たんだ?」
「房総半島だけにいると、自然災害で全滅する可能性があるだろ? だから株分けみたいなもんさね。折角大学もあったし、良い感じの環境があるんだ。実験的に拠点を作ろうって事になったのさ。」
自然災害か。まぁこの集落の人数は200人くらいらしいし、確かに洪水とか地震とかに襲われれば全滅する可能性もあるな。
「そもそもシティだって自然災害の前には安泰じゃないさ。アンタがいたって言う300年前からこの時代までの間に、どんだけの災害があったと思うんだい? 列島全体がひっくり返るような地震も2回あったし、それに連動した富士山の噴火だってあったんだよ。おかげで当時のオダワラは人の住めない場所になっちまった。」
ああ、だから近くにあるのはコウフとヌマヅなのか。
「他のところに俺が行くことは可能か?」
「可能だけど、案内人は必要だね。」
「今すぐじゃ無いけど、ちょっと相談に乗ってもらえるとありがたい。」
「わかった。じゃあ連絡要員を用意しといてやるよ。おい、アケミ! ちょっとこっちへ来な。」
村長は手をパンパンと叩くと、アケミという女性を呼んだ。女性だよな? あ、さっきのできる人。
「何ですか、村長。」
「アケミ、アンタをユウキとの連絡役に任命する。時々シティまで行ってもらう事になるけど、よろしくな。」
「はい、村長。コバヤシ・アケミと申します。タカシマ様、よろしくお願いいたします。」
「コバヤシってことは……」
「ああ、アタシの孫娘だね。」
この婆さんの血族? こんな大人しそうな人が。まぁ性格は遺伝しないって言うしな。でもソウタが驚いた顔をした後、俺の方を睨んでくるけど、何があったの?
「気にしなくていいさね。ソウタを始め、アケミに交際を申し込んだウチの男どもが全員、コテンパンにのされてねぇ。こんな弱い連中じゃ話にならんってことで嫁のもらい手がなくて困っていたのさ。アンタなら釣り合うだろ。」
「お婆さま、いきなり何を……」
「アンタもうぶな生娘じゃあるまいし。ユウキにはそこに2人もお相手がいるみたいだけど、ホムンクルスだろ? コイツなら好きに種付けしてもらっても構わんさ。アタシもそろそろひ孫の顔も見たいしねぇ。多少がさつだけど……」
「だ、誰ががさつですかっ! いくらお婆さまとはいえ、言って良いことと悪いことがありますよ! それに私はまだ処女です!!」
「おやそうかい。処女をこじらせている孫娘だけど、よろしく頼むよ。」
婆さんとアケミ嬢の罵り合いが続く中、ソウタをはじめとしたこの集落の男どもから嫉妬の視線を浴びまくる。なんでこうなった?
いや、まさか
「サーバーが動いてないので何とかしてもらえませんか?!」
というエマージェンシーコールが来るとは思わなかった。来週はキチンと時間通りに投稿したいと思います。