表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やっぱり「物理」が最強!  作者: 和紗泰信
ライバルたち
25/55

アメリカ女からの挑戦

 サルデーニャ島にある旧カリアリ・エルマス空港を離陸した輸送機は、問題なくチュニス・シティにある旧チュニス・カルタゴ国際空港への着陸した。これはクウヤとクミの腕の見せ所だったわけだが、そもそもカレー・シティの目標を沈黙させたおかげで、旧フランス領をはじめとするヨーロッパ圏に直接転送が可能になったのは大きい。

 また、陽動のために地中海同盟参加シティが共同で戦力を出してくれている。もうここまで戦力が整っているんだったら俺たちの出番は無いんじゃないかと思っていたんだが、ダメだったらしい。何故かというと、俺たちが懸念していたとおりにジークフリード・ハイネマンの部隊がいたからだ。アイツの部隊だけはガン・ドロイドやアンドロイド兵で編制された部隊だと排除できないからなぁ。俺たちが出張るしかない。


 というわけで、滑走路に着陸した輸送機の内部に搭載された転送機を使って、俺たちはチュニス・シティに降り立った。今回は地中海同盟がかき回してくれるので、俺たちは俺、ミク、ミナ、シロウ、ロイ、ロック、ヤヒチの少数精鋭でやって来た。クミとクウヤは輸送機で待機してもらう。


 滑走路に降り立つと、遠くにジークフリードを中心とした一団が控えているのが見えた。距離にして1500mほどか。目標となる建物の手前に布陣している。


(さて、どうする?)

(接近して距離が1000mを切れば撃ち合いが始まります。でも確実に当てることを考えると、300mまでは近づきたいところです。)

(向こうからの反撃はあると思うか?)

(彼らの装備に銃火器は見つけられません。ですからカレー・シティの時と同様、剣での斬り合いを想定しているでしょう。)

(なら300m程度まで近づき、射撃開始。その後は100mを切ったところで俺の新しい魔法。)

(なるほど。んで、徹底的に削ったあと、我々近接戦闘チームの出番というわけですな。)


 ミクとの思念通話にシロウが割り込んできた。ああ、そういう流れにしよう。

 ナノマシンを体内に入れただけで思念通話、テレパシーっぽいものが使える様になった。訓練したおかげで思考が駄々漏れになることもないし便利だ。


 俺たちは狙撃に注意しながら進んで行く。滑走路には遮蔽物がないので、やろうと思えば狙撃し放題だ。ただし俺を直接狙ってくるのは人間だけのはず。そしてこの場には人間と判断されているのは俺とジークフリードだけだ。だから、安心して悠々と移動できる。


(マスター。あと500mです。)

(そうだな。そろそろ戦闘態勢に入るぞ。)


 今回の俺は最初からローブをまとった魔術師スタイルだ。近接戦闘を行う迷彩柄の戦闘服に身を包んだシロウ、ロイ、ロックが前衛として進み、その後方を同じく迷彩柄の戦闘服を着たミナとミクが進む。俺とヤヒチは最後尾だ。俺だけが魔術師ローブ姿なので、集団の中で浮いている。まぁ仕方が無いけどな。


 あと400m。ジークフリードの部隊も臨戦態勢を整えている。ほとんどのメンバーが左手に楯を持ち、右手には抜刀した長剣を持ち、いつでも戦闘に入れるよう準備している。数はざっと30人。俺たちの5倍だ。

 だから今回も俺の先制攻撃で幕を開けることとする。


「あまたの光よ、我が槍となりて敵を貫け。トリニティ・レイ!」


 10条のレーザー光線が放たれ、ジークフリードの部下が着ているフルプレートアーマーに着弾する。楯を構える暇を与えずに先制攻撃をおこなったのだ。

 だが、カレー・シティの時とは異なり、レーザーのほとんどが乱反射される。なるほど、遠方からとはいえ、それなりのエネルギー量のあるレーザーを吸収しきるのは無理だと判断して、反射することにしたわけか。で、反射しきれなかった分はアーマーが吸収し、あとで赤外線として放出する、と。

 やっぱり対策をしてきたか。そうだろうと思ってたんだよ。でもな、それはこちらも想定していた。だからそれだけだとダメなんだよ。


 あと100m。俺は歩みを止めずに敵へと接近しつつ、新型のアーマーを打ち破るための呪文を唱え始める。これが今回の切り札でもある。


「きらめく宝玉たちよ、我が矢となりて敵を穿て。ダイヤモンド・バレット!」


 これは金属性の弾丸をモース硬度10のダイヤモンドでコーティング。先端を尖らせて突き刺さる様にした上で、レールガン機能を利用して発射するのだ。ストーン・バレットを科学で再現したものだが、威力は石とは比較にならない。

 ある者は楯を構えたが、楯を貫かれている。もちろん楯を構えられなかった連中はフルプレートアーマーに穴を開けられ、身体にダイヤモンドコーティングされた弾丸が突き刺さっている状態だ。

 俺はダイヤモンド・バレットを何度か撃った。その度にジークフリードの部隊は人数が減っていく。残存数が10人を割り込んだので、そろそろ倒した連中にとどめを刺しておこう。あと30m。


「雷よ、我が剣となりて敵を討ち滅ぼせ。ライトニング・シュート!」


 ダイヤモンド・バレットが突き刺さっている部分を目がけて電撃が飛んで行く。そのために金属性の弾丸を内部に入れ、そこに「落ちる」様にしていたのだ。そして電撃を受けたホムンクルス達は内部を灼かれる形となり、次々と沈黙していく。

 残るは1人と10体弱。接近戦へと持ち込まれる前に倒しておこう。


「やはり貴殿は倒さねばならんようだ、ユウキ・タカシマ。」

「ジークフリード・ハイネマンか。カレー・シティではロボ女のせいで逃げられたが、今回は逃がさん。」


 さて、どうしてやろうか。既にシロウ達は取り巻き達との戦闘に入っている。数は向こうの方が多いが、ヤヒチの援護射撃があるから、今のところは互角に戦えている。勝利のためには俺の援護射撃が必要だ。

 だがジークフリードは俺が魔法を撃つ前に剣で斬りかかってきた。それを俺はスタッフで防ぐ。かなりの衝撃で腕がしびれるが、強化されたスタッフはヤツの剣を受け止めた。


 その後何合か打ち合った時、突如周囲に爆音が響き渡った。音の主は上空からに降りてくる航空機のようだ。なんだあの機体は。見たことないぞ。もしかしてジークフリードの援軍か?


「あれはお前/貴殿の援軍か?!」


 おっと、セリフがかぶった。というか、ジークフリードも予想外だという顔をしている。もしかしたら第3勢力なのか?


 航空機は大型VTOL機だったようで、周りに突風をまき散らしながら俺たちの戦闘地域から200mも離れていない場所に着陸した。突然吹き荒れた強風に翻弄され、俺たちは戦闘の手を止めざるを得ない。それはシロウ達も同様で、一度お互いに少し距離を取って牽制をしながら、VTOL機の方を警戒している。

 VTOL機の胴体下部が開いてタラップが伸び、そこからロボットとその左肩に腰掛けた女性が現れた。ところどころ曲線を交えながらも無骨なフォルムのロボットはホバー移動によって、するすると俺たちに近寄ってくる。そして俺たちから10mほど離れた所で左肩の女性が地面に飛び降り、声をかけてきた。


「私の名前はキャサリン・ホーガン。キャシーって呼んでくれるとうれしいわ。」


 なんだ、こいつ。今の状況がわかってないのか? 俺たちは戦闘中だぞ。空気が読めない人なのか?


「で、キャシーは何をしにここへ来たんだ?」

「そりゃ、あなた達の戦いを止めに来たのよ。わざわざカルフォルニアからね。本当に仲悪いのね、あなた達。」


 敵対してるんだから仲良しなわけがない。当たり前の話だと思うんだが……。


「キャサリン嬢。申し訳ないが、私はタカシマとの戦闘を止めるつもりはない。ここの防衛が私の任務だからな。」

「やれやれ、何を言ってもダメか。そこは想定済みだから、強制的に止めるわね。」

「そこのロボットでかね? バカバカしい。」

「嘗めてると後悔するわよ。ウーニ、アーム・セッター!」

『アイマム』


 ウーニと呼ばれたロボットは前面装甲を開放した。中には人間がすっぽりと入れそうな空間があり、キャシーはそこに両手両足を広げて大の字のような形で飛び込む。しかも俺たちに背を向けて飛び込むのではなく、空中で180度回転して俺たちの方を向いた状態で、だ。なんじゃその身体能力?!

 キャシーがウーニ内の空間に飛び込むと前面装甲が閉じられる。なるほど、あれはパワードスーツというわけだ。俺が目指した外骨格スーツとは違い、完全に機体に覆われるヤツ。その方が被弾した際も安全だしな。


 と思っていたのだが、その考えはあっさりと裏切られた。何と前面装甲が閉じられてから数秒後、再び前面装甲が開放され、中からキャシーではない何者かが飛び出してきた。


「アームド・キャシー!」


 出て来たそいつはそう名乗った。だが俺はその姿を知っている。カレー・シティでジークフリードを連れ去った、あのロボ女だった。


「キャシーがあのロボ女?!」

「何よ、そのロボ女っての。失礼しちゃうわ。」

「失礼なもんか。カレー・シティでは俺たちのミッションを横取りして、守備隊を俺の仲間ごとぶっ飛ばしたくせに!」

「カレー・シティの守備隊は貴女が壊滅させたのか?!」

「そうよ。だってあなた達、バカバカしい戦争ごっこをしてるんだもの。」

「助けてもらったことには礼を言うが、それとこれとは話が別だ!」


 ジークフリードはそう言うと一気に距離を詰めてキャシーに斬りかかる。だが俺は知っている。あの程度の速度ではキャシーには届かないだろう。

 実際、キャシーは難なくジークフリードの斬撃を受け流している。まともに当てられる感じがしない。

 ジークフリードもイライラしてきたのか、上段に振りかぶって上からキャシーに斬りかかる。前回よりも強化されたジークフリードのパワーはすさまじい。俺も剣を受ける度に衝撃で腕がしびれてしまったほどだ。

 だがキャシーはそんなジークフリードの斬撃を左手のランサーのみで受け止めた。そして「よく受け止められたな」と思った俺は、自分の目を疑うこととなる。ジークフリードが上から体重をかけて押し込んでいるはずなのに、左手だけで受け止めた位置から動かない。それどころか逆にジークフリードの剣を押し始め、キャシーのランサーをジークフリードが受け止めているような形に変わるには10秒ほどしかかからなかった。


 ジークフリードは驚愕しているようだが、それは俺も同じだ。てっきりキャシーが鎧のようなスーツを着ただけだと思っていたのだが、違うのか? そういやカレー・シティの時にも人間とは思えない身体能力を発揮していたが……。


「その程度のパワーでは、私を圧倒するのは無理ね。」

「くっ!」


 恐ろしい事にジークフリードは完全にキャシーに押し込まれ、片膝をついている。あの細身のどこにあんなパワーが隠れてるんだ?

 何にせよ、キャシーは俺の味方だというわけでもない。ここはジークフリードに恩を売りつつ、キャシーを倒すことにしよう。


「きらめく宝玉たちよ、我が矢となりて敵を穿て。ジークフリード、避けろよ! ダイヤモンド・バレット!」


 カレー・シティではトリニティ・レイ、ライトニング・シュートともに効かなかったが、これなら無傷というわけにも行くまい。ダイヤモンドコーティングされた銃弾達はキャシーに向かって行く。ジークフリードは渾身の力を振り絞って一度押し返し、そのまま後方に飛んで避けた直後、全弾がキャシーに着弾した。したのだが……。


「この程度では、私の装甲に傷を付けることはできなくてよ。」


 なんと、すべてが弾かれていた。ダイヤモンドだぞ! 傷すらつかないとか、意味がわからん!

 だったらこれだ。


「炎よ、あまたの炎よ、その力を持って我が敵を焼き尽くせ。ファイヤー・ボール!」


 これは銃弾の周辺に何重にもゲル状の可燃物を重ね、着火してから飛ばすことにしたものだ。カレー・シティの時ほどの火力はないが、俺単独で使える。

 これもすべて着弾したが、装甲が燃えていてもキャシーが慌てる様子はない。効いてないのだ。


「ここも私が陥落させれば、あなた達が戦う理由はなくなるわよね。ウーニ、ユニコーン・モード!」

『アイマム』


 返事をすると、キャシーが乗ってきたロボットは変形を始めた。両腕が前足に、両足が後足となり、角の生えた馬形、つまりユニコーン型に変形する。

 変形の終わったロボットはキャシーがまたがると、俺たちを無視して攻略対象の建物の方へとホバリングして駆けていく。


「好きにさせるか!」


 俺はキャシーの後を追う。後からジークフリードもついてきているようで、全員で建物の方へ向かう事態となった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ