連続爆破事件
負け惜しみの「引き分け宣言」を出した後、建物の外に出てみると、シロウの部隊の他に、ロイとロックの率いる部隊が到着していた。3割くらいは減っているか。結構な被害が出たようだ。
「結構やられたな。」
「いえ、あの光が現れる前までなら、被害は1割弱だったんですけどね。なんなんですか、あの光。」
「うちも前の方にいた機体を中心にずいぶんとやられてしまいましたよ。おかげで戦闘が続くようなら撤退も視野に入れないといかんところでした。」
ロイとロックが口々に「大変な目に遭った」と訴えてきた。まぁそうだろうな。まさか一撃で全体の5分の1を失ったんだから。
「あのロボ女でしたっけ? アイツの放った光のおかげで光学系のセンサーは軒並み焼き切れるわ、通信障害のおかげでお互いの状態を確認することもできませんでしたから、撤退の信号弾を使うことも考えましたよ。」
シロウが作戦継続を諦めることも視野に入れていたことを明かした。そうか、じゃあ俺たちがシロウの部隊の合流したのも、悪い考えじゃなかったわけだ。
と、そういやヤヒチがいないな。展開している場所が遠いから、まだ合流できていないのか?
「シロウ。ヤヒチと連絡は取れてるか?」
「いえ、残念ながら取れていません。方角的には巻き込まれた可能性もあります。」
「まずいな。捜索部隊を編成してくれ。」
「イエス、マスター。」
シロウと、ロイ、ロックが部隊編成の打ち合わせを始める。ロイの部隊が比較的被害も少ないとのことで、彼を中心にアンドロイド兵を30体ほど集めて編成するようだ。
そうこうしているうちにクミとクウヤも合流してきた。事情を話して、クウヤも捜索隊に加わる事となった。車両の操作も必要なので、順当な編成と言えるだろう。
さて、ではその間に俺たちは他の情報交換を行いながら、ミッションの終了に向けた残務処理を行おう。
「陸戦部隊の被害状況は何となくわかったが、他の被害はどうだ?」
「えーとぉ、海から攻撃をかけてた部隊はほぼ無傷です。特にやることもないので撤収したいというリクエストが来てます。」
「わかった。『協力感謝する』と伝えて撤収してもらってくれ。」
「りょーかい。」
クウヤが出払ってしまったので、クミが現地司令部を情報通信面で仕切る形になっている。彼女はトウキョウ・シティのニーナ、ニックと連携しながら、様々な指示と情報収集、分析を行っている。
「それと、カレー・シティの状況がヤバいです。」
「ヤバイって……どんな風に?」
「なんかあの光?の影響で、電気製品が動かないとか。転送機も動作不良を起こしてるところがあるみたいで、修復もできないらしいですね……。」
「それはこっちに言われてもなぁ……あのロボ女がやったってのがわかる映像とかないか? あったらそれを送りつけて、『俺たちのせいじゃない』ってアピールをしといてくれ。」
「りょーかい。なんなのよ、あのロボ女。面倒ばっかり残してさ。」
クミがブチブチと不満を口にする。不満を言いながらも手を止めないあたりが優秀なんだよな、彼女は。
だが、確かにあのロボ女のせいでいろいろと引っかき回されたのは事実だ。それにあの光は何だったんだ?
「なぁ、あのロボ女が出した光だが、何だと思う?」
「わかりませんな。手持ちの情報が少なすぎます。カレー・シティ中のセンサー情報をかき集めれば何か分かるかも知れませんが。」
「ふーん……」
あれは一体どういうものだったんだろう。というか、あのロボ女、本当に何者だよ? そう思いながら目の前にあったガン・ドロイドを小突いてみた。
ばきっ。がらん、がらん。
あ、あれ? なんか変な音がしてガン・ドロイドの装甲の一部がもげて地面に落ちたぞ。何で?
「なるほど。装甲が劣化してますな。ということは、あの光の正体は高エネルギーの放射線というところですか。」
「たぶん高エネルギー放射線を浴びまくったおかげで、装甲を形作っている元素の一部で、原子核が変化したのでしょう。それで金属結合の弱まった部分が出てちょっとした衝撃で破断したということですね。」
「原子核が変化?」
「高エネルギーの放射線が当たると、場合によっては原子核を作っている中性子や陽子が弾き出されることもありますので。たぶん、この辺り一帯、放射線量も高くなっていると思われます。私たちの身体にはあまり良くない環境かと。」
「つまり?」
「私たち、今、被曝しまくっているってことです。」
「いや、ダメだろ、それ!」
「拠点へ戻る際に転送機を修復モードにしておけば、被曝もなかったことになりますけどね。」
あー、そういう。マジで何でもありだな、転送機。データだけ送って、転送先にある元素を使って再構築するというのがここまで有能だとは思わなかった。
とはいえ、放射線を浴び続けるのは良くないので、そろそろ撤収しよう。そういやヤヒチの捜索隊はまだ戻らないのかな。
とか考えてたら、捜索隊が戻ってきた。どうやらヤヒチも無事だったらしい。でもなんでずぶ濡れなんだ?
「ヤヒチ、無事か?」
「はい。何とか、というところですな。」
「ずぶ濡れなのは……」
「海に飛び込んだのですよ。」
「海に?」
「さようで。望遠モードにて砲撃目標をチェックしていたところ、なにやらロボットっぽいヤツがやって来ましてな。肩の装甲がスライドして内部から見るからにヤバそうなものが出て参りましたので『これはマズイ』と思い、慌てて撤退して海に飛び込んだのです。」
「建物の陰とかでも良かったんじゃ……」
「直感で『防ぎきれない』と感じましてな。結果としては正しく、建物の陰に隠れた他の者は全滅でしたから。水は優秀な放射線防壁ですな。」
あー、それで海か。何にせよ、配下のアンドロイド兵やガン・ドロイドが全滅してしまったようだが、ヤヒチが無事なので良しとしよう。
「よし、では拠点に撤収だ。クミ、センサーの情報収集は終わったか?」
「今、終わったー。」
「では反省会はあっちでやろう。」
「イエス、マスター。」
転送機を使い、全員でトウキョウ・シティへ帰還する。もちろんアンドロイド兵とガン・ドロイドは貸してくれたシティに返却なので、その場に置いて帰る。後片付けは任せる契約だし。半分以上壊れてるけど。
そうやってトウキョウ・シティに戻ってきた俺たちを待っていたのは、川本氏とその部下の技術者達だった。今回使用したスタッフの使い勝手など、運用してみた結果をヒアリングしたいんだろう。ミサに甘えるのは夜にするとして、まずは反省会を行おう。そのため2階にあるブリーフィング用会議室へ全員で移動する。
全員が円卓に着席したのを待って、ミクが議長として反省会を始める。
「今回はあまりにも予定外の事象が発生しました。まずはそこからまとめていきましょう。」
「ということは、最初に上げるべきはジークフリード・ハイネマンと名乗る召還者ですね。」
「そうだな。純粋な近接戦闘能力では、俺たちよりも遙かに上だった。正直、技術陣がスタッフを間に合わせてくれなかったら、倒せなかっただろう。」
そう、スタッフとファイヤーボールもどきを使えたおかげで何とか勝てた。でも次は対策されるだろうな。
「残念ながら止めを刺せませんでしたので、次に出会った際には対策されていると思うべきでしょう。そう考えるとかなりキビシイですね。」
「そうだな。頭が痛いよ……」
「だけど、それよりもヤバイのはアイツだろう。」
ミクと俺の嘆きを余所に、シロウがもう1つの問題点を挙げる。確かにアイツはもっとヤバイ。
「あのロボ女。自分も召還者だとか言ってたけど、どう考えても普通の人間の範疇を超えてるよな。」
「5階建てのビルの屋上から楽々と飛び降りてました。」
「膝も曲げずにどうやって衝撃を緩和したのか、まったくわかりません。そもそも着地直前に落下速度がゼロになったように見えました。」
「しかもジークフリードを担いだまま10m以上ジャンプするとかもおかしいよな。」
「私とミナで斬りかかっても、簡単にあしらわれました。ジークフリードも大概でしたが、まだ人間の範囲に収まってました。でも……ロボ女は人間の反応速度を遙かに超えていました。」
俺、ミク、ミナがそれぞれ感じたことを吐き出す。あいつ人間じゃないだろってくらいの身体能力を持ってたからな。
「その上であの光か。あれはヤバイなんてもんじゃなかった。ヤヒチはよく助かったと思うぞ。」
「イヤな予感を信じて正解でしたな。」
「で、結局あの光は何だったんで?」
とりあえず皆で技術メンバーの方を見てみる。うちのメンバーで言えばニーナとニック。あとはトウキョウ・シティの技術陣。彼らはこの部屋に来た後も、端末と格闘していたんだよ。
「観測されたデータから類推すると、おそらく電子-陽電子対消滅を利用したガンマ線レーザーではないかと。」
ニックが答えてくれるが、データから類推すると? んー、よくわからん。
すると俺がわからんという顔をしていたのがばれたのか、川本氏の部下の1人が説明を始めた。
「物質と反物質が衝突すると膨大なエネルギーとなって消滅します。このエネルギーは大抵ガンマ線となりますが、電子と陽電子が衝突した場合は波長511keVのガンマ線として観測されます。」
俺たちが理解できているかを確認するために、一度話を区切る。うん、この中ではどうやら俺だけが理解できてないっぽい。仕方がないから後でミサに教えてもらうこととする。全然色っぽい話じゃないけどな。
「このガンマ線は大気中の原子と衝突すると、様々な副次放射線と粒子を生成します。今回カレー・シティのセンサーで取得されたデータを分析すると、511keVのガンマ線が放出されたとすればつじつまが合いました。」
「……つまりあのマスター曰くロボ女とやらは、対消滅を使ったガンマ線レーザー……ってのはおかしいか。ガンマ線ビームを発射できる、と。」
「そういうことになります。」
「人間どころか、あらゆる生物、俺たちホムンクルスでもあれで攻撃されると即死だな。」
会議室がお通夜状態になる。まぁ予想通りだ。ガン・ドロイドですらあの状態だったんだ。生物が耐えられるとは到底思えない。ジークフリード対策だけでも頭が痛いのに、ロボ女対策なんてできるのか? 結構な無理ゲーなんだが。
「しかも今回はロボ女が我々のミッションを横からかっさらっていきました。この段階で手の内をさらした上、ミッションまで横取りされて、全くの無駄足です。」
今回ミクは死に戻りまでしてるからな。ミクが怒っている。表情からだけではわからんが、たぶん怒ってる。
しかしその悪い空気にニーナが追い打ちをかける。
「あのぉ、すみません。頭が痛いところ申し訳ないのですが……」
「どうしたニーナ。」
「今から30分程前、1358時にドバイ・シティで大規模な爆発があったそうです。そしてその2分後、1400時に今度はカイロ・シティでも爆発が……ということだそうです。」
「それは……俺たちが撤収を始めた頃だな。またあのロボ女か?」
「詳細はわかっていないようです。でも、ドバイ・シティはミッションの標的になっていましたが、カイロ・シティはなっていませんよ?」
つまり、ミッション対象のシティが1つ消えた。でも関係ないシティでも爆発があったってことか。
「あとすみません。追加です。今入った情報ですが、ベイジン・シティでも爆発だそうです。こちらもミッション対象ではありませんし、現時点で詳細は不明です。」
「米人? アメリカ人の住んでる街ってことか?」
「あー、マスターの時代の日本だと、北京って言えばわかりますか?」
「北京ならわかる。読みはベイジンなのか。」
ぽこぽこと爆発が起こるんだな。これまでは聞いたこともなかったのに。
っていうか、対消滅の話と言い、北京の読み方と言い、まるで俺がアホの子みたいになってるじゃないか。違うよ。この辺の話は一般常識じゃないからね。だから知らなくてもセーフだよ。でもあとでミサに慰めてもらうぞ。
よし、話を戻そう。
「この時代というか、この季節?には、あちこちで爆発が起こるもんなのか?」
「そんなわけないじゃないですか! 爆発の発生なんて大問題ですよ。」
それもそうか。だとすると一体何が起こってるんだろうな、これは。もしかしたら他の召還者に関係しているのか?
結局それ以上は何もわからなかった。反省会は「魔法装備の見直しを行う」「爆発に関しての情報を収集する」という事だけを決めて、グダグダのうちに終わった。




