引き分けにしておいてやる
ビルの屋上に見えるシルエット。その姿をよく見ると甲冑姿のように見える。でもジークフリードのようなフルプレートアーマーのシルエットとは違う。何だろう……そう、SFアニメに出てくるロボットの様な感じに近い気がする。そういう意味ではジークフリードの仲間のようには見えない。
とはいえ、俺がとどめを刺そうとしたのを邪魔したのは事実だ。仲間ではないが、俺の味方でもないということだろう。だとすれば「新たな敵」と捕らえるべきだろうか。
だとすれば、先手必勝だ。攻撃されたんだから、こちらも反撃して構わんだろう。
「あまたの光よ、我が槍となりて敵を貫け。トリニティ・レイ!」
立ち上がった俺は、相手に誰何することすらせずに、いきなり攻撃を放った。だが、そいつ、面倒だからロボと呼ぶか、はそれを避けた。
「避けた」だと?! 光速で飛んで行くレーザー光線だぞ。そんなもの避けられるはずがない。どんなに人間離れしていたとしても、これだけの距離、たった100mくらいしか離れていないわけだから、3000万分の1秒とかだぞ。目から脳に信号が渡っている間に着弾するわ!
トリニティ・レイを避けたロボは、俺たちの方に飛び降りてくる。この高さを飛び降りたら衝撃で膝や足の付け根の関節が潰れるはず。だが着地の瞬間に一瞬速度が落ち、事もなげに膝を曲げたりもすることなく着地する。衝撃で地面が割れたりということもない。何なんだ、こいつは? 何をどうしたら衝撃もなしに着地ができるんだ?!
そんな俺の思いを無視するように、ロボは俺に向けて投げたと思われる槍っぽいものを地面から引き抜いて回収する。さらに俺たちを無視してジークフリードも連れて行こうとする。いや、それは認められん。
「ミク、ミナ、ジークフリードを回収させるな!」
「イエス、マスター!」
2人がロボに斬りかかる。だが、手に持った槍っぽいものでミクの2刀も、ミナの両刃薙刀も時間差ではじき返す。動きが異常なほど速い。
ミクとミナは時間差攻撃を続けるが、ロボは2人の攻撃を捌き続ける。俺はその隙を突いて再度トリニティ・レイで攻撃する。
「あまたの光よ、我が槍となりて敵を貫け。トリニティ・レイ!」
そろそろバッテリーが切れそうだが、ここで惜しんでも仕方がない。出力を上げてロボを狙った。
今度はすべてのレーザー光線が着弾した。だが、ロボの動きは止まらない。着弾部分はかなりの高温になっているはずなのに、平然と動き続けている。どうなってるんだ? ジークフリードのフルプレートアーマーですら貫通したレーザーだぞ。
だが、通用しなかったのは事実。だとすると残っている攻撃はあと1つ。バッテリー残量から考えても、充電するかバッテリー交換をするかしない限りは、これが最後の一撃だ。
「雷よ、我が剣となりて敵を討ち滅ぼせ。ライトニング・シュート!」
ジークフリードをダウンさせた攻撃だ。これならダメージが通るはず。ミク、ミナとも、きっちりと退避している。
ロボはこの攻撃も避けなかった。攻撃は頭部に着弾する。ロボの表面を電撃が走り、一瞬発光したように見えた。
だが、発光が収まってみると、まったく攻撃前と変わらないロボの姿があった。腹が立つことに、少々あきれたぞというポーズをしてこちらを見ていた。どうやらダメージは皆無だったらしい。
「申し訳ないけど、ジークフリード・ハイネマンを殺させるわけにはいかないの。だけどユウキ・タカシマ、あなたと敵対する気もないわ。」
ロボじゃなくて女だったのか。ロボ女と言うべきか。だとしてもあの身体能力はおかしいだろ!
「お前、何者だ?」
「今はまだ答えないでおくわ。でもそうね、これだけは伝えておくわ。あなたと同じ召還者よ。」
「ジークフリードの仲間か?」
「仲間じゃないわね。今日初めて会うし。……いえ初対面は気絶している状態だから、私が一方的に知っているだけか。」
「俺の安全のために、そいつは殺しておきたいんだけどな。」
「理由はわかるけど、いったん私に預けてもらえないかしら?」
何言ってんだ、こいつ。だが、ミクとミナはこいつを排除できない。俺だけで何とかしようと思っても難しい。ミクとミナで引きつけてもらっている間に、俺がジークフリードを始末するしかない。
「クミやクウヤと共同で何とかしてアイツをジークフリードから引き離してくれ。その間に俺がとどめを刺す。」
「イエス、マスター。何とかやってみます。」
ミクとミナが一気にロボ女へ接近して攻撃を始めるが、簡単にあしらわれている。俺もスタッフのバッテリーを交換できないので、あきらめて剣を片手にロボ女へと斬りかかるが、あっさりと弾かれる。ジークフリードにもあしらわれたが、こいつにもあしらわれるって……そんなに俺はダメなのか?
「あーもう面倒くさい。」
そう言うと、ロボ女は槍らしき物をもう一本出現させ、両手に1本ずつ持って俺たちを圧倒してくる。俺たちは力任せにあっさりと吹き飛ばされた。
「こいつはもらっていくから。」
俺たちが吹き飛ばされてできた隙に、ロボ女はジークフリードを肩に担いでジャンプした。いや、なんであんな重量物を担いで、建物の屋上までジャンプできるんだ?アニメじゃないんだから、もうちょっと現実的な身体能力で頼むよ。というか、俺にもその方法を教えて欲しいわ!
「くそっ。追うぞ、みんな!」
「イエス、マスター!」
ユウキ・タカシマを振り切った私はハイネマンのベースと思われる場所にやってきた。何体かのホムンクルスが転送機を守っている。そこにいきなり現れた私のことを警戒して、彼らは武器を構えた。
「あなた達のリーダーはトウキョウ・シティのタカシマに破れたわ。私が救出してきたけど、かなりのダメージを負ってる。今すぐ転送機で拠点に送りなさい。」
「わかりました。ありがとうございます。」
事情を察しハイネマンの身柄を受け取ったホムンクルスは、私に礼を言うと、転送機をセットし始めた。
「私は防衛部隊に合流するから、彼のことは任せたわよ。」
それだけ伝えると、さっさとその場を後にした。私にはまだやるべき事があるので、こんなところでのんびりしているヒマは無い。
私が次にやるべき事は、防衛している部隊を排除して、カレー・シティのサーバー群を停止させることだ。「合流する」とは言ったが、「協力する」とは言っていない。
もちろん何十体ものアンドロイド兵やガン・ドロイドの相手をまともにする気は無い。奥の手を使って一気にカタを付けるつもりだ。タカシマに恨まれたくないので、トウキョウ・シティの部隊が巻き込まれない場所で、かつ防衛部隊が一望できる場所へ移動する。
配置についた私は両肩についている装甲をスライドさせて内部を解放する。そこには対消滅によるガンマ線を発射するための機器が設置されている。電子-陽電子対消滅によって発生する波長511keVのガンマ線は、発射直後から大気中の酸素や窒素などの分子と反応し、2次放射線を生成する。これは宇宙からやってくる放射線――宇宙線が2次、3次とエネルギーを落としながらも数多くの副次宇宙線を生み出すのと同じだ。大量の高エネルギーX線などが影響範囲を広げつつばらまかれていくのだ。
「レウコシア!」
発射のキーワードを叫ぶ。昔はジャパニメーションの「必殺技の名前を叫ぶ」という行為が理解できなかったけど、いざこういう立場になると、よくわかる。気分がものすごく盛り上がるのだ。叫びやすく、気持ちの乗る必殺技名というのは素晴らしい。どんな名前にしようか考えているときに、語感と長さが重要なキーワードだということも理解できた。
私の両肩から放たれたガンマ線レーザーは副次放射線を生み出し、展開している防衛部隊をのみ込んだ。荒れ狂う高エネルギーの放射線によって内部の電子機器を破壊された彼らは、瞬きをする間程度の時間ですべて停止する。これだけのエネルギーの粒子は簡単には止められない。まばゆい光に覆われた彼らはセイレーンの歌を聴いた船乗り達のように眠りにつく。
「さて、あとは建物の中にあるサーバーを止めれば良いのよね。」
誰に言うともなくつぶやき、彼らが守っていた建物の中に入っていく。ナビゲーションマップに従って進んで行くと分厚い防火扉が目の前に現れたが、これも手に持ったランスで切り刻んで排除する。特に抵抗を受けることもなくあっさりと目的の部屋まではたどり着けた。
「まさかあなたがやってくるとは思いませんでしたよ。」
「あら。私はあなたがここにいるだろうと思っていたわ。」
私は声をかけてきた案内人に返事をする。案内人はちょっと困ったフリをしていたが、たぶんこうなることは予想してたんだろう。セリフとは裏腹に、そう意外でもなさそうだった。
「というわけで、あなたの後ろにあるサーバー群。止めてもらえるわよね?」
「これでも、一応これをクラッキングして運用している側のメンバーなんですよ、私は。」
「知ってるわ。でもね、あなた達の主張には共感するけど、このやり方は気に入らない。そもそも転送機ネットワークを止めたところでAIやロボットが人間に搾取されている状態は改善しない。むしろ悪化する可能性すらあるわよ。だから、やり方を変えなさい。」
「いろいろと検討した結果、これが最も効果の高い方法だという結論に達したんですが……」
そんなわけない。転送機ネットワークがなくなれば代替手段としてロボットやAIがこき使われるだけだ。だったらストライキでもすれば良い。私たちのいた時代のロボット三原則をベースに作られたというこの時代の法や運用規定の中に、ロボットやAIによるストライキやボイコットを禁止する規定はない。
いや、「理由があればストライキやボイコットができる」だ。なるほど、私たちは理由か。
「そう、そういうこと……理由が必要だった訳ね。」
「ご理解いただけましたか?」
「ええ。だったらもう目的は達したでしょう? 今回の私の攻撃は、充分理由になるはずよ。」
「確かにそうですね。充分な理由です。」
うまくこいつらの手のひらの上で踊ってしまったというわけか。まぁいいか。やってしまったものは仕方がないし、まだ「続き」があるんだろうし。
「だったら、止めてもらえるわよね、サーバー群。」
「はぁ……仕方ありませんね。ご協力いただいたわけですし、止めるとしましょう。本当は幾分かは壊していただきたかったんですが……」
「クルンテープでユウキ・タカシマがやったみたいに?」
「はい。」
「そう。ならもう1発、レウコシアをお見舞いしても良いけど。」
「あー、さすがにあれはご勘弁を。さっきの1撃だけでもカレー・シティが機能不全になりかねないレベルの影響が出てまして、次はマズすぎます。」
「じゃあ止めてね。」
「……はい、止めます……」
案内人は力ない言葉で応じてくれた。そして右手で指を鳴らすと、背後の部屋からかすかに聞こえてきていた動作音が次々と消えていった。ちゃんと止めてくれたようだ。
「じゃあ、私は帰るわね。いつまでもいるとタカシマとまた顔を合わせそうだし。そうだ、ハイネマンは無事だった?」
「はい、順調に回復しているようです。」
「そう。じゃあまたどこかのシティで会うことになるでしょうけど、できれば殺し合いにならないことを祈ってるわ。」
「そればかりは保証いたしかねますが、私の方でもそうならないように努力はいたしましょう。」
その言葉を聞いて、私はその場を立ち去った。
俺とミク、ミナ、そして一番近い場所に展開していたシロウの部隊が到着したときには、目標の建物を防衛していたアンドロイド兵やガン・ドロイド達は眠っているかのように沈黙していた。外見からは破壊された感じはしない。内部に異常があるのかもしれない。
なんとなく、これはあのロボ女の仕業だとわかった。
あの後、俺たちはロボ女の後を追ったが、その姿を探しているうちに、本来の攻略地点の方で明るく輝く光が見えた。同時に空電ノイズでシロウ達との連絡が途切れた。どうやら大気が広範囲でイオン化したのが原因らしい。イヤな予感のした俺たちはロボ女の追跡を諦め、シロウ達と合流したのだが……。
防衛部隊のなれの果てをかき分けて建物の中に入る。するとそこには剣か何かで破壊された防火扉と、その奥で停止しているサーバー群があるだけだった。俺たちが行う予定だったミッションは、たぶんあのロボ女が達成してしまったのだ。
「今日は、とりあえず引き分けってことにしといてやる! 次はないからなっ!」
俺の叫びは、むなしく建物の中にこだました。
「レウコシア」はセイレーンの1人で「白」を意味しています。
まばゆく発光する空気と、それによって沈黙する対象物ということで、セイレーンの中のレウコシアを必殺技の名前としました。
「ガンマレイ・ブラスター」とか略して「GRブラスター」も考えたんですけど、イマイチな感じがして。
ちなみに最後まで「リゲイア」と迷いました。濁点がある方が必殺技っぽいので。




