魔法を作ってよ! at 反省会その2
あれ?先週木曜日に投稿予約を入れていたつもりだったのですが…
漏れてたみたいです。申し訳ない。
ゲームの魔法って、リアルでやるのは結構難しい、という話。
科学技術がこれだけ進んだ時代なんだ。俺たちの時代のゲームにあった魔法を進んだ科学で実現することができれば、度肝を抜けるだろう。まずは簡単そうなファイヤーボールあたりから実現できれば良いな。
「ゲームの中では魔法は幾つかの属性に分かれていてな。火、水、風、土、雷、光、闇という感じだ。水の派生形で氷属性というのもあるな。ファイヤーボールは火属性の魔法だ。」
「その『ファイヤーボール』というのを詳しく説明していただけますか?」
「ああ。『ファイヤーボール』という呪文を唱えると術者の周囲に火の玉が現れてな。それが指示した方向に向かって飛んで行って、標的にぶつかるとそれを燃やすんだ。」
ざっくりとした説明だが、まぁイメージが湧けば良いだけだからな。こんなもんで充分だろう。おっと、早速ミナが手を挙げたぞ。
「マスター。その火の玉は燃えたままの状態で標的に向かって飛んで行くんですか?速度はどれくらいですか?」
「そうだな、イメージ的には時速60キロくらいの火の塊が飛んで行く感じかな。」
「……銃弾だと時速2000キロ以上出るんですが、そんなに遅くて大丈夫ですか?」
「それに火だと、防火対策をしている相手には全く効果がないしなぁ。」
うぐっ……ミナとシロウに正論で殴られた。た、確かに速度の遅さは何とも……何となくダメな感じがしてきた……いや待て。そうは言ってもナパーム弾のように粘着して燃やし続けられるものなら行けるのでは?
と思ったが、ニーナが追い打ちをかけてきた。
「マスター。残念ですが致命的な落とし穴があります。物の燃える3つの条件ってご存じですか?」
「えっと……燃える物と火種と……酸素だっけか?」
「そうです。正確には『可燃物』『支燃物』『着火源』です。まぁ支燃物である酸素は空気中であればいくらでもありますから、細かい事を抜きにすれば良いとして、着火源である火種も何とかなったとしましょう。ですが、可燃性の物質をどうやって空気中に出現させるんですか?それに出現させられたとしても、少量ですと火を付けてしまうと標的に当たる前に燃え尽きてしまいます。大量に生成できたとしても飛んで行っている内に消費してしまい、どんどん炎の大きさは小さくなってしまいます。」
「えっと……」
「ファイヤーボールは着弾までに燃え尽きて消えてしまいます。」
「大量に可燃物を用意すれば良いのでは?」
「空気よりも重い可燃物だと、飛んでいる間に重力の影響で地面に落ちてしまいます。空気よりも比重の軽いものである必要がありますが、そうなると物質は限られます。重い可燃物を使うのであれば、その分初速度を上げる必要があります。」
「うーん……比重の軽い物はあるんだろう?」
頼む、あってくれ。ファイヤーボールみたいな初級魔法で使われるようなものが否定されるのは辛すぎる。この辺はニーナがしっかりと押さえてくれているはずなので、キッチリと解答が出てくるはずだ。
「そうですね。扱いやすいのはメタンでしょうか。もしくは水素ですが、水素は爆発的に燃えてしまいますので、炎を出すのには向いていません。」
「じゃあ、メタンを生成して……」
「どうやってですか?」
「は?」
いやいやいや、メタンって簡単に作れるんじゃないの?え、作れないの?
「どうやってメタンを空気中で生成するんですか?」
「作れないのか?」
「はい。簡単なのは炭化アルミニウムに水を加えて加水分解する方法ですが、生成された水酸化アルミニウムがその辺にまき散らされますね。それにそもそも水は空気中の水蒸気を使うとしても、炭化アルミニウムみたいな物質はどこから持ってくるんですか?」
うーん……思ったよりも難しいのか、ファイヤーボール。というか、このノリだとファイヤーランスとかファイヤーウォールとかの火属性魔法も無理なんじゃ……。
「マスター、1つ質問です。」
「なんだ、ミナ?」
「そのファイヤーボールというのは衝突した的を炎上させるんですよね?」
「そうだが?」
「当てられる的は、見えている場所でないとダメですよね?」
「まぁ、見えていないところに当てるのは難しいと思うな。」
「だったら、的を直接燃やせば良いのでは?時速60キロで飛ばさなくても、直接火を付けてしまえば避けられることもないし、燃え尽きないように気をつける必要すらありませんよ。」
確かに……言われてみればその通りだ。なんで炎を飛ばすのかと言われると……あ、あれ、何でだ?ロマンとか?ダメだ、これ、女性陣には理解してもらえないヤツだ。
「確かに、炎を空中に形成して標的に向けて飛ばすというのは現実的じゃあなさそうだ……」
「ちなみに、水を飛ばす『ウォーターボール』も、氷を飛ばす『アイスボール』というのも、全く同じ理由で無駄だと思いますよ。」
「……はい……」
くそっ!しかし火と水がダメだからといって、他の魔法もダメだとは限らない。例えば土……もダメっぽいな。水と同じ理由でNGをくらうだろう。
では風だ。ウィンドカッターとかだったらどうだ?
「では空気で標的を切り裂く『ウィンドカッター』とかはどうだろう?」
「空気で切り裂くんですか?かまいたち的な感じですかね?」
「ちょっと皮膚が切れる程度は何とかなっても、アンドロイド兵やガン・ドロイドだと切り裂くどころか表面の塗装に傷がつくかどうかすらアヤシイぞ。」
「空気を圧縮して切り裂くイメージなんだけど……」
「いや、無理でしょ。エアソーとかエアカッターとかは標的に押しつけて使うものであって、離れた所に空気圧をかけて送ろうにも、標的との間にある空気の影響で分散して、圧力はあっという間に下がっちゃいますよ。」
おかしいなぁ、ゲームでは問題なく発動するのに……ってゲームだから現実とは違うって事か。うーん、これもダメかぁ……。あとはなんだ?魔法で使えそうなネタは、何かないのかっ?!
「そこまでして魔法にこだわるんですか?」
「だって、そういうものの方が相手の度肝を抜けるだろうが。」
「そうですかねぇ……?」
俺以外のメンバーは全く乗り気にはならないようだ。魔法ってロマンじゃないかなぁ?
でもこの時代だと、死なない限りは転送機を使えば怪我も元通りだから、ヒールのような回復魔法も意味がない。転送機自体が本来は場所の移動に使われるものだから、転送魔法みたいなのも新鮮味はない。
となると攻撃魔法が最もこれまでにないものなんだが、難しいなぁ。俺もゲームでは回復役じゃなくて、遠距離攻撃の後衛だったからなぁ。他の魔法となるとなにがあったっけ?
「じゃあ例えば雷、光、闇だとどうだろう。他には植物操作、モンスターのテイム。あとは何かあったかなぁ……」
「光魔法とか闇魔法ってどんなものですか?」
「光魔法は、なんというか聖属性でアンデッドを浄化する光とか、あとは光の矢みたいな感じのものを出す感じかな。闇魔法は逆に邪法みたいな感じで、光を消して相手の視野を奪うとか、体調を悪化させたりとか。」
「光はレーザーとかですかね。闇は……毒とか生化学兵器っぽいので、いろいろとマズそうです。」
あー、確かに生化学兵器はダメだよなぁ。とはいえ、そもそもアンドロイド相手に生物兵器を使っても意味ないし、俺も闇魔法はちょっとな。
そう思ったところ、シロウが断言した。
「だったら、雷魔法とか光魔法だろう。」
「というと?」
「雷は電位差が作れれば良いわけだから、魔法の杖に大容量のキャパシターでも積んでおけば何とかなる。」
「光の方は完全にレーザー光線よね。その辺はレーザーガンと同じだから、どうとでもなると思うわ。」
放電にレーザー光線か。これだけを聞くと魔法っぽくないけど、魔法っぽく演出すればいけるかな。そうなるとやっぱり何とかしてファイヤーボールを使いたいなぁ。何とかならんもんだろうか。
「そういうことでしたら今回の不正召還を防げなかった迷惑料として、トウキョウ・シティの技術部門で開発を進めさせていただきます。」
「いいのか?」
「うちの技術部門の連中が盛り上がって好き放題やりそうなので。」
技術部門トップの川本氏が開発を請け負うことを宣言してくれた。おー、これで行けそうだな。
「できれば服装もそういう感じにしたいもんだな。」
「そういうことであれば、何かのキーワードをきっかけに、服装が変化し、持っているアサルトライフルかマシンガンがスタッフに変化するというのはいかがでしょう。」
「そんな事ができるのか?」
「はい。服はナノマシンによるアクティブ・アウトフィットにすれば、予めダウンロードしておいたデータを入れ替えるだけで自動的に服装が変化します。戦闘に耐えられる強度のアクティブ・アウトフィットをオーダーメイドで用意しますので、そちらを着て下さい。デザインは後でデザイナーと打ち合わせていただければ、と。」
「その『アクティブ・アウトフィット』って何?」
「『アクティブ・アウトフィット』は、ナノマシンを繊維の代わりにして織り上げた服です。デザインはデータに合わせてナノマシンが配列を自動的に変化させることで、全く違った見た目の服を1着で実現できるようになっています。今回は災害対応レベルのナノマシンを使って織り上げたアクティブ・アウトフィットを用意いたします。この時代には『軍用レベル』という概念がありませんので、『災害対応レベル』が最も高いレベルです。」
ほう、そんな服があるのか。さすがに300年も経つとナノマシンも普及していろんな性能を持っているらしいな。
「あとは魔法を使うための杖、スタッフですか。これのデザインと持たせる機能をどうするか、ですが。」
「デザインは後で決めるとして、まずはさっきのレーザーとか雷とか、その辺をキチンと実装できるかじゃないかな。ちょっと楽しみなんだけど。」
「そうですな。大容量のキャパシタを実装しておけば、銃として使う際もレールガン化できて良さそうです。まずはちょっと試作をしてみましょう。」
「では、次のミッションでは使えそうだな。」
「マスター、それは無理です。」
おや、ミクが反論か。
「なんでだ?これまでの流れだと、1週間もあればできあがるんだから、充分間に合うだろ?」
「はい、物はできると思います。問題があるのはマスターがそれを使いこなし、そして戦術に組み込んで私たちと連携ができるか、という部分です。そのための期間は1週間しかありませんから、マスターには完成後1日で完璧に使いこなしていただく必要があります。」
「たった1日か?!」
「はい、1日で使いこなしていただき、翌日に私たちの前で使っていただくことで、できる戦術を検討。翌日に戦術としてまとめ上げ、4日目、5日目で必要な物資の調達。6日目にチェックしてという流れです。正直、休み無しで本番を迎える形になりますので、次のミッションに組み込むのは難しいかと。」
おおぅ……確かにスケジュールを聞いてみると、かなり厳しいな。これまでは2週間で休暇とミッション検討、ミッション準備をしていたから、それを半分の期間でやるのは確かにキビシイ。実績のない、しかも俺以外には誰も理解していない戦術をいきなり検討段階から組み込むのは難しいか。
「わかった。ではミッション4から組み込む事として、次のミッション3はこれまでと同じにしよう。」
「それでしたら、私どもとしましても、できる限り高島殿の希望に添う形の物を準備可能だと思います。」
川本氏がやる気を出している。うん、皆が前向きになったのは良いことだ。
このタイミングにミイが全員に飲み物を配って回る。俺の前にもコーヒーが置かれた。なんのかんの言っても、ミイの淹れるコーヒーは美味かったりする。俺の中ではドジっ子残念メイド枠なんだがなぁ……意外と優秀なんだよ、これが。
「では、俺はトウキョウ・シティでの試作に付き合いながら、次のミッションの検討を行うこととする。とはいえ、まずは休暇だな。皆、ご苦労だった。明後日まで2日間は休暇とする。」
「では、高島殿には少しお付き合いいただく形になりますが、休暇が明けるまでには次のミッション対象都市を選定しておきます。」
よし、クルンテープから帰ってきて、いきなりこの反省会だったからな。今日はここまでにして、まずは休もう。そしてミサに癒してもらおう。
あ、案内人の件の報告がまだだったな。まぁいいか。その辺はミクやミナが報告書をまとめてくれる時に書いてくれるだろうし。
光の光線技と、雷って魔法の範疇の中でも結構再現しやすいなぁとは思ってたんですよ。まぁ本当に魔法っぽいかどうかってのは別としてね。
あと、しばらくは2023年中と同じく、毎週木曜日の更新となりそうです。